何者かの声
副ギルド長・アイーダさんの視点です。
ブックマークありがとうございます。頑張りモス。
てっきり男性だと思っていたのだが、ケイ・フェネック様は女性だったようだ。問い合わせがくるほどの商品を扱っているのに、それ程、有名ではなかったのはそういう事情もあったのだろう。もしかしたら、パトリシアさまが領内で行っている優秀な女性を見つける活動で、発掘した最初の一人なのかもしれない。
驚いた私たちに気をよくしたのか、クララが興奮気味に話を続ける。
「はい、とても綺麗な女性で、お年は成人したてぐらいでしょうか? 身なりも、とても清潔でよい匂いがしましたし、もの凄く手入れの行き届いた美しい黒髪で高級そうなローブを着ていらっしゃったので、物語の中の聖女さまかと思っちゃいました」
そういえば、つい最近に聖女さまの噂があった気がする。確かどこかの村にふらりと現れ、怪我人や重病人を治してまたふらりと消えたとか……。また、いつもの酔っ払いの大げさな話かと思っていたが、噂の出所を調べてみる必要があるかも……。
「……とりあえず、お会いしましょう。お待たせしすぎても、あれですし……」
ギルド長の言葉に従い、クララを先頭に歩き出す。
「あっ! そういえば、本当にフォレストキャットは連れていたの?」
もしも、本当だったら心構えが必要なので質問しておく。
「あ~そうでした。すみません! 言い忘れていました……多分、まだ子猫だと思うんですけど、そんなに大きくはないので全然、怖くなかったですよ! 顔の色が左右で違って驚きましたけど、可愛らしかったですよ」
「顔の左右の色が違ったの?」
「はい、珍しいですよね。多分、お高いんでしょうね……」
その話をを聞き、ギルド長も私も立ち止まる。それはお高いなんてものじゃない。一部の人間にしか知られていないが、珍しい毛色の動物は貴族の好事家の間では、どんなに高額でも欲しがる人間がいる。過去には領地や屋敷と交換したなんて話もあるぐらいだ。やはり、ケイ・フェネック様は貴族……いや、上級貴族と何らかの関係があるのかもしれない。この事にはギルド長も気付いたハズだが、目を向けると顎に手をあてて何やら考えているようだった。
「ギルド長……?」
「……貴族用の接客室にご案内して正解だったようです。それでは行きましょう」
「は、はい」
私たちは再び歩き出し、ケイ・フェネック様の待つ部屋へと向かった。
♦ ♦ ♦ ♦
問い合わせの商品を取りに部屋を出ていったケイ・フェネック様が、十分に離れたのを確認して私とギルド長は大きな溜息をはいた。
「良かったですね。住民の立ち退きはしなくて済みそうです」
「大丈夫だとは思いますが、直前で気持ちが変わる事もあるので、最終的に決定するまでは安心はしないほうが良いでしょう」
確かに貴族は平気で契約を覆し、責任は相手に取らせる。簡単に気を許してはいけない存在なのだ。
「そうでしたね……凄く良い人に見えたものでつい……」
「わかります。でも貴族は見た目と中身が別の生き物ですから……」
若干、微妙な雰囲気になったものの、タイミングよくクララが資料室から戻って来たのでホッとする。
「あれ、お帰りになっちゃったんですか? あっ! 従魔のこの子がいるって事は、まだいらっしゃるんですね」
「今は問い合わせがあった分の商品を、取りにいっていただいてるの」
「そうなんですね!」
そう言って、クララが寝ている従魔を指で触ろうとしていたので必死に止める。
「止めなさい、起きたらどうするの!」
「大丈夫ですよ! お利口だって言ってましたし……」
実は私は動物が大の苦手だ。出来る事ならこのまま寝ていて欲しい。
「いいから、止めなさい。折角、寝ているのだから可哀想でしょ!」
それらしい理由をつけて、どうにか説得することができクララも諦めてくれた。
「それにしても、貴族の中にもあんな方がいらっしゃるんですね! 横柄な態度をとりませんでしたし、私にすら対等に接してくれました。でも、少し変ですよね。今もそうですが、荷物を自分で取りに行かれたんですよね? 貴族なら従者をつれているハズですし、あれだけ容姿端麗なら既に婚約や縁談の話も決まっていて、商売などしている暇などないはずですよね……」
確かに身なりなどから貴族であることは間違いなさそうではあるのだが、色々と首をかしげる事があるのも確かだ。従者がいないのもそうだし、上級貴族の間では、商売は卑しい者のする事だと思われているにもかかわらず、婚姻をせずに商売をしようというのもそうだ。だとすると、考えられるのは庶子や隠し子……? もしくは、あの年で愛人とか……?
「余計な詮索はやめて、お預かりした商品をみていきますよ」
「は、はい、すみません」「は、はい」
「では、この商品からみていきましょう」
ギルド長の言葉に従い、説明書の順番通りに三人で商品を見ていく。その説明書には文字だけでなく、絵でも説明が描かれている為、文字が読めなくても分かるようになっていた。
「これは凄いですね。説明に文字だけではなく、絵も加える事でこんなにも分かりやすくなるなんて……。今は紙の値段がまだまだ高いので全部の商品につけるのは難しいですが、一部の高価な貴族向けの商品に取り入れるのは、特別感が出て良いかもしれません」
私の意見に二人も頷いてくれているので、賛同してくれたようだ。
「登録をしてくれればですが、商品以外の登録は久しぶりかもしれません。これを機に一般の人々たちからも、商業ギルドでこういった知識の登録を大々的に募集するのも面白いかもしれません」
「それは素晴らしいですね。何か私、凄くワクワクしてきました」
子供のようにはしゃぐクララをみて、ギルド長と私は微笑む。でも、確かに色々な知識がこの商業ギルドに集まり、それを身近でみれると思うと自分も胸の高鳴りを感じる。
その後も様々な発想の商品に驚かされながら、三人で感想や売り出した後の反響の予想を話しながら見て回る。
「これだけ良い商品を扱っているなら領主さまはもちろん、貴族は間違いなくフェネック商会に鞍替えするだろうね。そして、値段によっては平民もごっそりこちらに移ってくるだろうから、今まで贔屓にされていた商会が、逆恨みで問題を起こさなければ良いのだが……」
「でも、さすがに領主さまのお気に入りの商会に、ちょっかいは出さないですよね?」
「まあ、直接はさすがにやらないだろうけど、お客を取られたら何かしらの報復に出る可能性はあるだろうね」
ふと気配を感じて目を向けると従魔が目を覚ましこちらを見ていたので、思わず小さな悲鳴をあげてしまう。
「アイーダ君、どうしましたか?」
「いえ、従魔が起きていたので少し驚いてしまって……」
「あっ! 本当だ! さわってみていいですかね?」
「や、止めときなさい! 子供でも一応は魔物なのよ」
慌ててクララを止めようとすると、ギルド長も今回は味方をしてくれた。
「クララ君、お客さまの大事な従魔なので、勝手にさわるのは止めておきなさい」
「は~い……分かりました」
その時、『子供でも魔物でもないのです』と、どこからともなくはっきり聞こえてきた。
「えっ!」
「副ギルド長! どうしたんです?」
「今、みんなも聞きましたよね? 誰かが『子供でも魔物でもない』って言ったじゃないですか」
「いや……」
「こ、怖いですよ! 副ギルド長~! 教会にいって来た方がいいんじゃないですか?」
どうやら私以外には聞こえなかったらしい。もしやと思って従魔を見ると、何事もなかったように丸くなって眠っていた。




