熊にのったオーク
副ギルド長・アイーダさんの視点です。
ブックマークありがとうございます。頑張りますです。
レンドール男爵領は男性中心の世の中において、ギルドなどの大規模な組織内の高い地位に女性がついているという珍しい領である。これも女性の地位向上を願い、活動を続けてくれている領主夫人のパトリシアさまのおかげである。しかし、パトリシアさまの願いも虚しく、反対している人間もまだまだ多く、嫌がらせや女性上司の指示には従わない部下もいたりと、女性の地位向上はまだまだ難しい問題である。
しかし、極稀に身分、性別に関係なく優秀なら問題ないと考える人間もいるのだが、それが組織のトップであるギルド長であった事が、女性である私が商業ギルドの副ギルド長という地位を続けてこられている大きな助けとなっている。今はそんなギルド長に呼び出されて、執務室に来ている所だ。
「アイーダくん、よく来てくれました。とりあえず座ってその手紙に目を通してみて下さい」
ギルド長は相手が誰であっても丁寧に話す。貴族の血縁者だが平民という貴族からも平民からも一線を引かれてしまう立場が、そうさせているのかもしれない。
「はい! それでは失礼します」
封蝋からこの手紙が領主さまからのものと分かる。早速、手紙を広げ目を通すと、そこにはこう書いてあった。最近、食客として迎えた人物への恩賞として与える土地と店舗の選定や、商売を始める手助けを全面的にして欲しいという事だった。場所については出来るだけ希望に沿うようにという事と、費用についてはすべて領主さまが支払うともある。
「凄いですね! 希望の場所に土地と店舗ですか……何をすればこんな恩賞が貰えるんでしょうか……?」
「昨日あたりから広がってる噂が、案外関係しているかもしれませんよ」
「えっ? 確か熊にのったオークの大軍を、一人で殲滅させた魔術師がこの街に来てるって話ですか?」
この噂が本当だったら王様から領土と爵位もらえる偉業だが、そもそも熊とオークはお互いが捕食者と被食者である。つまり、お互いが相手を餌だと思っているのに、熊にオークがのっている時点で話がおかしいのである。
「噂というものは、伝わるにつれて話が大きくなりますからね。たとえばオークを一人で倒したとか、凄腕の魔術師がこの街に滞在しているとか辺りが、有力なのではと私は思っていますが……。冗談はさておき……」
ギルド長がどうぞという意味のジェスチャーを手紙に向ける。早く続きを読めという事だろう。
「あっ! 失礼しました」
冗談だったの? 少し信じちゃったじゃない……。少し顔をあからめて、手紙の続きを読みすすめる。
「えっ!! フェネック商会!!」
そこには最近、帝国のギルドからも、問い合わせが来ていた商会の名前が記されていた。
「商売を始める手伝いという事ですから、恩賞というのはあくまで名目で、支店の誘致が本当の目的かもしれませんね」
「その可能性はあるかもしれません! 問い合わせが来るぐらいですから、素晴らしい商品を扱っているでしょうし…………私も見てみたかったんです……ガラスペン」
「ん~まあ、この街で何の商売をするかはわかりませんが、楽しみではありますね……でも素晴らしい商品を扱っている商人が、人間として素晴らしいとは限りませんから……」
「そ、そうですね! ここにはお名前がケイ・フェネックさまとありますが、貴族の方なのでしょうか? それだとより慎重に対応しないといけませんね」
貴族は扱いを間違えると悲惨な結果が待っている。平民など道端の石ころほどに何とも思ってはいない。気にくわなければ、罪などいくらでもでっち上げてくるだろう。
「最近は、豪商も名字を持っていますからわかりませんが、貴族だと思って対応はした方がいいでしょう。問題はどこの土地を希望されるかですね。住民が住んでいる土地だった場合、立ち退いて貰うしかありませんが、幸いすべての費用は領主さまが持ってくれると言う事なので、住んでいた住民の為にも立ち退き料はしっかりいただきましょう」
「そうですね! それぐらいは許されると思います。それで、この方はいついらっしゃるんですかね? とりあえず、ここに書かれている特徴を職員に伝えて、いつでも対応できるようにさせましょう。でも……これ本当なんですよね?」
「たまに物好きな貴族が魔物を愛玩目的で飼っていると聞きますから、それの類なのではないでしょうか?」
どうやら、この手紙に書かれていることが本当なら、この方は人を襲う事もあるフォレストキャットを連れているらしい……。
♦ ♦ ♦ ♦
ギルド職員にケイ・フェネック様の特徴を伝え指示を出した後は、ギルド長と店舗にむいている通り沿いの土地の空き状況や、住民を立ち退かせた場合の移転先について話し合っていた。
「う~ん、最近、人口も増えて来ていますし移転となると、やはりスラムの近くぐらいしか空いてないですね……」
「空いている店舗はあるにはあるので、そこに入って貰えればすんなり事が運ぶのですが、立地があまり良くないですからね……」
確かに空いている店舗はギルド長の言うとおり、大通りからは少し離れている。二人で唸っているとドアをノックされる。
「ギルド長、ケイ・フェネック様がいらっしゃいました。指示通りに個室にご案内したんですが……」
「な、何があったんだね?」
いつも大人しいクララが興奮気味なので、少しギルド長も焦っているのがわかる。
「ケイ・フェネック様は女性だったんです!」
「「えっ!」」
私とギルド長はそろって間抜けな声を上げた。




