フリッツ商会
お久しぶりです! お待たせしました。 待ってくれていた方々ありがとうございます!
モレト村で商人の目に留まった商品を幾つか作って、全て背負いカゴに詰め込み商業ギルドに戻ると、すぐさまギルド職員が駆け寄って来る。
「おかえりなさいませ! お荷物をお持ち致します」
「えっ! あっ! お願いします」
素直にお願いする事にして、渡した荷物を大事そうに前に抱えた男性職員の後に続く。
「ケイさまが、お戻りになりました」
男性職員がノックして中に声を掛けると、バタバタと足音がなりギルド長たちが迎えてくれる。
「ケイさま! お待ちしておりました! こちらの商品でお聞きしたい事が……ほ~そちらが噂の商品ですか? ふむふむ! 興味深い……君はそれをテーブルの上に置いたら下がってください」
ギルド長は手に持っていた商品の事は忘れたようで、男性職員に指示を出すと背負いカゴを頷きながら眺め始めた。
『ニャンニャン! ただいま! 問題なかった?』
『おかえりなさいなのです! 気になる話をしていたので後で話すのです』
『えっ! 凄く気になるんですけど……』
『今までここの領主が贔屓にしていた商会の話をしていたのです』
『……なるほど……ちょっと面倒だね……後で詳しく教えてくれる?』
『了解なのです』
「ギルド長!」
副ギルド長のアイーダさんの声で、商品に夢中になっていたギルド長が我に返る。
「し、失礼いたしました。これだけの興味深い品々をみて、少し興奮してしまいました」
「いえいえ! そう言って頂けると光栄です。何か聞きたい事があるとおっしゃっていましたが……」
「そうでした! こちらのローラーという商品の説明には、洗濯時間の短縮が可能になると書かれていたのですが……これは……?」
「ああ、それですか! それは洗い終わった衣類をその二つの筒状の金属の間にはさみ、横のハンドルを回すことで脱水することが出来ます。ゆくゆくは洗いとすすぎができる装置も販売する予定なので、さらなる時間短縮も可能になると思います」
「…………素晴らしい。洗濯はほぼ毎日する必要があるものなので、その時間が短縮されるという事は、今まで洗濯に使っていた分の多大な時間を他の事に使えるようになるという事ですか……。一度、聞いてしまうと簡単な工夫に感じてしまいますが、何の助言もなく思いつくかと言われれば難しいでしょう…………しかし、その思いつく所までたどり着ければ、工夫自体は簡単という所が実に素晴らしい」
「私の故郷では時は金なりといいまして、時間を有効に使う事はお金を稼ぐ事と同様に価値があると言われています。その為の商品もこれからどんどん作っていく予定です」
「素晴らしい……ケイさまは本当に見た目通りのお年なのですか? 本当はエルフなのでは? はっはっはっはっ!」
いいえ、エルフではないですが、見た目通りの年齢ではないです……。そう言えるわけもなく笑って誤魔化す。
「あと、そのローラーは食品にも応用で使えるのですが、そちらを使った大規模な食品加工業の下準備を、ベールの商業ギルドのギルド長……正確にはギルド長代理の方にお願いしているのですが、これがうまくいけば市民の方たちの食生活の改善と料理時間の短縮も可能だと思います」
「…………な、なるほど…………」
そう言ってギルド長はしばらく考えた後、一つの提案をしてきた。
「ケイさま! よろしければそちらの件なのですが、レンドールの商業ギルドにもお手伝いさせて頂けないでしょうか……?」
「そうですね……条件に納得していただけるのであれば構いませんが……」
「条件というのは?」
「寡婦などの生活に困っている女性を、優先的に雇用していこうと考えていまして、その方たちの子供や家族の為の寮つきの職場を建てるのと、給金や休みなどの労働条件のすべての決定権を私にいただけるというのが条件です」
「問題ありません」
えっ? 即答?
「ギルド側にそんなに得があるように感じないのですが……」
「大ありです。ケイさまの新しい試みにも興味がありますし、見させていただいた商品だけでもケイさまがレンドールに拠点を作り、商品をレンドールの商業ギルドで登録していただくだけで、膨大な金額の税金や手数料が入る事が予想できます。所謂、先行投資というわけです」
ぶっちゃけすぎな気もするが、嘘を言われるよりは悪い気はしない。
「わかりました。これからよろしくお願いいたします。計画書などを近々お持ちしますね」
「こちらもそれまでに契約書を作成させていただきます」
お互いに言葉を交わし、ギルド長と固く握手をした。
♦ ♦ ♦ ♦
商品の説明をした後、登録などを済ませて商業ギルドを後にする。
『疲れたよ~! ニャンニャンも待ち疲れたでしょう! ごめんね』
『大丈夫なのです! ケイさまの話は面白かったのです』
『ホント? それなら良かったけど……ありがと!』
ニャンニャンを抱きかかえギュッとする。
『そうだ! 商会の話ってどんな感じだった?』
『ギルド長たちの話では、領主さまが今まで贔屓にしていた商会から、ケイさまの商会に鞍替えするだろうと言っていたのです。お抱えの座を奪われた商会は直接はやらないとしても、なんらかの報復はしようとするだろうとも言っていたのです』
報復……? ゴロツキを雇って嫌がらせとか営業妨害? それとも商品にいたずらとかか……? 食品を扱うからそれはマズいな……。料金を払って食品の品質保証はギルドにお願いするか! それによってギルドも特別感が増すし悪くないかも……。
『何て商会なんだろう。探して見に行ってみるか』
『商会の名前は言っていなかったのです』
『有名っぽいから聞けばわかるでしょ』
案の定、人に尋ねながら探してみると簡単だった。領主様のお抱えの商会だけあってほとんどの人が知っていた。しかし、いい噂はほとんど聞こえてこなかった。貴族や金持ちにはへこへこして、平民には見下した態度をとる典型的な貴族寄りの考えをもった商人のようだ。貴族でもないくせに貴族にでもなったつもりなんだとみんなが口々に言う所をみると、平民は何かしら嫌な目にあった事があるようだ。
『フリッツ商会か……』
教えて貰った建物の前に立ち眺める。道路沿いの壁にガラス窓を使っている所をみると、かなり儲かっているようだ。中をのぞくとお金持ちそうな客で賑わっていた。
『とりあえず入ってみるか! ニャンニャンはオレの影に潜んでてくれる? 大分噂になってるみたいだけど、オレ一人だったらまだばれないと思う』
『わかったのです』
ニャンニャンには身を隠してもらい、店の中に入り商品を見て回る。衣類、雑貨、食品と、とりあえず何でも扱っているらしいが、品質は並で若干、割高な値段のようだ。
「お客様、お目が高い! そちらの銅鏡はもう残りわずかとなっておりまして、今を逃すとしばらく手に入らない貴重なお品物となっております」
ふと後ろから声を掛けられて振り向くと、媚びるような笑顔の店員が揉み手をして立っていた。
「なるほど、とても人気なんですね!」
「はい! 領主様からもこれほどの鏡は中々手には入らないと、仰って頂いております」
「ほ~! 領主さまが……それは凄いですね!」
こいつ、マジか……明らかに嘘だろう! この店員はどう見ても貴族には見えないし、領主さまと会話する機会があるほど優秀にも見えない。それが分からないほどオレがアホな子に見えるという事か……。万が一本当って事もあるし、情報を集める為にもう少し我慢して話をしてみよう。
「でも、鏡は最近手に入れたばかりなので、今回は止めておきます。他にここの商会でおすすめの商品はございますか?」
ここからはアホな子を貫きとおし、説明をさせるだけさせて一銭も使うことなく店を後にした。




