提灯橋
その橋は、俺を誘うように暗闇から浮き出ていた。
橋の両側に、提灯がついている。こちらから向こう岸までびっしりと。その美しい灯が、暗闇にぼんやりと橋を浮かび上がらせている。
渡ってみよう。そう思い、俺は足を踏み入れた。
「待て!」
いきなり背後から大声が飛んできて、訳も分からず振り向く。そこには硬い表情のまま立ち尽くす、四十代くらいの男がいた。目を見開いて、何か俺に話しかけようとしているように見える。
「お前、なんでその橋に入ろうとした……?」
男が指差すので、俺も思わず振り向いた。しかし、おかしい。さっきまでの美しい光景は何処へやら、提灯どころか橋も腐敗して、中心部が池に落ちている。唖然として、男の問いかけに答えることもできなかった。
「一応聞くが……まさか、提灯が見えたとかじゃないよな」
「そ、そうです!」
思わず口から言葉が出てしまった。男は何とも言えない表情をして、
「この橋はな、男を誘うんだよ」
いきなりそう言った。
「昔ここで、恋人に婚約破棄された女が自殺したらしい。それ以来、この橋に誘われる男が跡を絶たないんだ。……まあ、なんで提灯なのかは分からないんだが」
男はそう言い、さっさと帰ってしまった。
そういえば、どうして俺はこんな夜中に散歩なんてしようと思ったんだ。こんな知らない公園に、俺はどうやって来た?