君の姿
――――懐かしい声が聞こえた。そう、どこか、懐かしい声。
後ろから声がかかり、一瞬驚きつつも考えると、確かに、そうだ――――。
これは、彼女の声に違いない。そう確信して、振り返り目線を向ける。
そこには息を切らしながら、涙目で立っていた数年前の友人がいた。
「―――久しぶりだね....!」
「―――なんで、君が―――っ」
思わず声が漏れる。だって、彼女とは数年前に友人関係を切った―――いや。
切られた――――という表現の方が、適切だろう。
――――僕は、彼女が、好きだった。
友人関係になってから一年。彼女は、僕が気になっているような発言を繰り返していた。
そしてようやく、僕は自分の想いに気付き始める。
上手くいくかもしれない、と、僕の方から、想いを告白した。
上手くいく、と、心の底から信じていた。
――――それでも彼女は。
――――本当に、本当にいつも通りの口調で、簡単に――――
――――僕の想いを、断った。
好きじゃないのなら――――確かに、仕方がない。そう思って、諦めて。
そして、普通の友人関係に戻った。
そして、数か月後の出来事だ。
――――彼女は、わざわざ僕を屋上に呼び出し、彼が出来たことを、自慢のように報告してきた。
これだけなら、よいのだが。
「ごめんねぇっ、想いを受け止めてやれなくってさ。でも、幸せなの。
だから諦めて、ねっ、お願~~~い!」
彼女はこんな風に発言した。
僕は勿論、何も思わないわけがなかった。まずもう諦めている女に、こんなことを言われるとは。
心外だった。
この女は結局、何がしたいのか。
僕を苛めたいのか、悔しがらせたいのか、嫌われたいのか、憎まれたいのか。
僕には、理解できなかった。
この事に怒った当時の僕は、彼女に彼氏が出来た事、そして、その彼の名前をクラスメイトに言いふらした。
その真実はクラス中だけでは納まらず、学年中に広がり、驚き悲しみ、その彼にも捨てられた彼女は、僕が犯人だと分かると、僕を、僕の頬を。
――――泣きながら、叩いた。それもまぁ、当り前である。
元凶は彼女だが、彼女が全て悪いという訳ではない。言いふらした僕も勿論悪い。
そんな事があって、僕は友人関係を切られたし、切った―――
そういう、ことだ。
「―――・・・なんで、今頃。・・・謝りに、来たのか?」
「違う、っての――――っ!」
彼女は、息を切らしながら、言った。はっきり、違う、と――――。
「じゃあ、一体、僕に何の用があるっていうんだ」
自分の声が刺々しいのが、自分でも分かる。
「これでたしか、3年振りじゃない?
私、さ――――。今言っても信じてくれないかもしれないけど、あんたとは、友達として―――
また、やり直せる気がするの。」
何を今更、と。
僕は、思ったけど。
――――彼女の、その涙を見た、僕は。
「そうだ、そうだよ――――浮かれてた私なんかに、構ってくれるはずが、な、い――――
そう、思ってたけど―――
でも――――もしかして、って――――思っ―――て―――
今の態度を見て決めてもいいから、っ―――また三年後にここで―――会―――っ」
そこで彼女は、嗚咽を漏らし、泣き出してしまった。
――――やっぱり、勝てないや。
君の、その姿には。
「――――ねぇ」
「―――っ、何――――嫌なら、さっさと断ってよ。私だって、辛いんだよ―――っ」
息を深く吸い込んで――――
僕は。
「僕は、君があの時、どんな気持ちだったかなんて―――知らないさ。
でもね―――君は嬉しかったから、僕に言ったんだろ。
そう思うとさ、僕も少し嬉しかったのかもしれない。
僕も、悪いとこがあった。
―――いいよ、君が言うなら、また、三年後――――。その時まで忘れないでね」
友人関係を切られ切ってからも、偶然彼女を見つけたこともあった。
見つける度に、泣いていた。
こうやって、彼女のいろんなところを見てきた、そし狡をしてきた僕は、
彼女の言ったことを、一つくらい、叶えてやってもいいんじゃないかな、と――――
彼女は、泣き笑いをした。
そして、彼女も言う。
「――――っ。
ありが、と――――また、三年前――
その時まで忘れないでね」
お題メーカー(https://shindanmaker.com/828102)で貰ったお題を元に執筆させていただいたものです。
そういや、なろうでホラー以外の小説を執筆したのって初めてです。