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6章


通り魔に刺されて倒れる彼女を彼は膝をついて抱える。彼女の胸からは真っ赤な血が止まる事なく流れ続けた。


その彼女を見て、彼は初めて心の底から人を助けたいと感じた。


そして、彼は時を止めて彼女を助けるために考えを巡らせる事にした。


まず、彼は彼女の状況を見る。彼女は右後方から身体の中心に向かって斜めに刺されているようだった。


彼は単なる一般人であり、その判断が正しいかはわからないが、その出血量から彼は心臓周辺の血管が傷付いているかもしれないと考えた。


もし、仮に彼の考えがあっているとしたら、彼が考え得る如何(いか)なる方法で能力を使おうともおそらく彼女を救う事は出来ないだろう。


一例として、時を止めて彼女を病院に運ぶ方法を挙げても、血だらけの女性を抱えた者が病院に突如現れたら、騒ぎが起こってしまう事は想像に難くない。


一刻を争うこの状況でそんな騒ぎを起こして時間を浪費してしまうのは避けたいところだ。


彼は考えた。


止まり続ける時の中で彼は2時間以上考え尽くした。


しかし、この状況を打破する考えは一向に思いつく事が出来なかった。


最強を(うた)いながら、あれほど くだらない使い方しかしてこなかった彼の能力は、本当にどうにもならない状況においては全く役に立たなかったのである。


彼はふと思った。こんな くだらない力など要らないから、彼女の命を救って欲しい、と。


そして、止まっていた時間は動き始めた。


「なんでだ!俺は時の流れを変えていないぞ!」


「春人、何言ってるの?いきなり中二病?」


「染井、どうして!?」


死にかけていたはずの彼女はまるで刺されてなんていなかったかのようにいつも通り彼に話しかけていた。


「どうしてって?」


「さっき通り魔に刺されて倒れただろ!?大丈夫なのか!?」


「大丈夫も何も刺されてないって。うわ!制服が血だらけだ!」


「そうだろ?傷口はどうだ?」


「でも、何処にも傷なんてないよ」


先程まで血を流していた彼女の胸の傷口は綺麗になくなっていた。



【彼に特別な能力があるからか、事は都合良く運ばれた】

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