表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

1章


やっとの思いで坂を登りきって学校へと到着した彼は教室に入るなり、窓際の列の前から2番目にある自分の席に座わった。


始業間近で教室の中には多くの生徒がいるというのに、誰一人として彼に話しかける者はいなかった。


そう、彼は友達が少ないのだ。


しかしそれは、クラスメイトから嫌われているとかそういうわけではない。クラスの誰もが彼と2人きりになれば趣味の話などをするし、それが嫌々と言うわけでもない。


だから、クラスの全員に「吉野春人は友達か?」と問いかければ、その全員からYESという回答が得られるだろう。


ただ、友達としての優先度が低いということなのだ。言ってみれば友達の友達、多くの者が彼の事をそのように認識をしているということになる。


つまり、彼は親しい友達が少ないという表現が適切だろう。


彼の事を寂しい人間だと思ったかもしれないが、親しい友達が少ないという状況はむしろ彼の望み通りである。


彼は友達を、というよりは人間関係をあまり重要なものだと考えていない。


故に、彼は人間関係の構築すらも面倒くさいものだと考えているのだ。


これは彼の持つ能力の弊害(へいがい)とも言える。彼はその能力を使い大概の事は1人で出来てしまう。


そのため、助け合いや協力といったものの重要性があまり理解出来ないのである。


しかし、そんな彼にも親しい友達はいないわけではない。そう、彼は親しい友達が()()()だけなのだから。


たった今教室に入ってきた女生徒が彼の背中を叩く。


「おはよ、春人!」


彼女の名前は染井卯月。彼女は彼の生涯で唯一の友達と呼べる存在だろう。


「おう、おはよう。つか、毎朝毎朝 背中叩かなくても良いだろ」


「だって、春人って毎日疲れた顔してるんだもん。喝入れてあげないとね」


「いや、あの坂登ったら誰でもこうなるって。それに俺も普通の女子の力だったら叩かれても文句は言わないんだがな」


「それじゃあ、私が力強いみたいじゃない」


「だから、そう言ってんだよ」


「ひどーい、こんなに か弱い女子に向かってー」


「はいはい。そろそろホームルーム始まるぞ」


「言われなくてもわかってるって」


彼が冗談混じりに会話が出来るのも、やはり彼女だけだろう。



【彼に特別な能力があろうと、今日も日常が始まる】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ