品質不良連絡書
だんだん何を書いてるかわからなくなりつつありますが、このまま進めます。
品番 H75-66315A-4I
発生場所 BKK サイアムコーポレーション 4号ライン内
発生数 1個
発生頻度 1/250,000pcs
不具合内容 別紙参照(原文タイ語)
これが、俺たち二人を「二人でひとり(笑)」にしてくれた呪い(笑)の文章の一例だよ。
まぁ、今どきの日本で上場企業相手にもの造りをしてりゃ、誰でも一度はお目にかかるシロモノだな。
うちの取引先じゃ「品質不良連絡書」略して「ひんぷれん」と呼んでたな。
ニッポンの製造業じゃ不良品てぇのは「無いことに」なってるから100万個に一個メッキの色味が悪いやつ(言っとくがこれだって錆びたりするわけじゃないぜ)が組み立て現場で発見されちゃえば大変な騒ぎになるわけだ。真夜中だろうがGWだろうがお構いなし。海外だって国際電話のコレクトコールで呼び出され、一刻も早く良品と差し替えなくちゃならない。うちの会社は千葉にあったんだが、ある時九州のお客さんで不良品が出て明日の朝ラインが始まる8時半までに差し替えろって言われたことがある。そのときすでに夕方6時半過ぎ。とにかく1週間分の部品をひっつかんで工場長とカローラバンに飛び乗るわけよ。SAで立ち食いそばを食べる以外は走りっぱなし。交代でリアシートに明かりをつけて不具合を確認しながら10時間以上かけて何とかお客さんの現地法人に飛び込んだのが朝7時50分。あちこちにペコペコしながらパートのおばちゃんたちが来る前に組み立てラインサイドの在庫品を差し替えて、手土産を配るわけだ。その後嫌味とお叱りが2時間。やっと解放されたころには二人ともグッタリさ。でもこれで終わりじゃない。
帰路は工場に残った連中と携帯で原因究明や、波及被害がないかの打ち合わせ。最近じゃなんでもかんでも共用部品だから、ほかの会社の他のクルマに使われてるなんてザラ。軽自動車とセル○オで同じ部品だったりするからな。帰路はさすがに休憩しながら14時間とかな。で翌日からは発生原因を究明するわけだが、これがまた大変。100個に1個なら簡単に再現できるし再発防止もできる。けど20万個に1個だの100万個に一個だのってレベルじゃ、そもそも再現するのにもすべての製造工程で少しずつ条件変えたりしなきゃ再現できないんだ。通常の生産・納品をこなしながらこいつを1週間で仕上げてレポートを書くわけだが。最後に待ってるのは発生した現場、この場合は九州だな。その朝礼で向こうの係長さんやら、パートのおばちゃんやらのさらし者になりながら、社長自ら「私たちはこんなにくずでボケナスの会社です。こんなバカな失敗をしました。神様(お客さんの事だ。)にご迷惑をかけて申し訳ありません。」という「精神的市中引き回しの上打ち首獄門」を受けるわけだ。これって、うちみたいな町工場だけじゃなく上場企業の役員とかもおんなじように呼び出されてやらされるんだぜ。
あたりまえだけど、これは国内だけじゃなく海外の取引先で発生してもおんなじ。海外でやらかせば、1個5円の商品が不具合起こしても正規料金で品物抱えて成田から飛び乗るわけで、軽ぅ~く100万からの損失だ。月の売り上げがやっとこ1000万越えの町工場にとっちゃ死活問題なわけよ。その昔は、不良品が出ても「あぁ、その袋の分捨てといてください。今度余分に持ってきます。」で済んだ時代もあったらしい。社長が酔うと「昔はよかった。助手席のドアが開かなくても窓ガラスが閉まんなくても、みんなそんなもんだって笑ってくれたのに」って言ってたから。でも今じゃ日本車が故障したら直ぐリコール沙汰だ。うちみたいな古いだけが取り柄(会社も人間も(笑))の会社には統計学だのシミュレーションだのが分かるような大卒の理系なんて来るわけがないから、これも「お前は大卒だから」でおれの仕事だ。
わかんねぇーよ!知らねぇーよ。そんなもん!おれは何かの間違いで早稲田に入っただけで、商学部だし優も少なくてゼミなんか今どきマルクス経済学だったんだから。うちの先生の専門は「本邦における高利貸し金融の発達と規制について」なんだから。銀行に入れたのはたまたま景気が良かっただけなんだから。同期で入行したやつは当時の大蔵大臣の名前知らなかったんだぞ。よく潰れてねえな○葉銀行(笑)
脱線したけど、そんなことをやらされているうちにドンドンお客さんの要求レベルが向上してくるわけよ。10万個に1個が100万個に1個600万個に1個っていう風にさ。そうなってくると、おれは日常業務なんかしてられないわけ。来る日も来る日も迫りくる締め切りに怯えながら徹夜徹夜の毎日。そうしてるうちに、とうとうアイツが現れたんだわ。
次回は「アイツ」視点になるかもしれません。