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魔女と奇跡の物語  作者: ひおり
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機壊終焉 1

じつは手元の話の中で一番古いやつなので、正直恥ずかしさとか拙さで死にそうなんですが、記念(?)にそのまま掲載します。


 二XXX年、学習型自立稼働ロボットが一般に普及した時代、偏差値日本一を誇る小中高大一環の国立学園、栄華学園があった。

 僕、葉月唯もその学園の生徒で、今は土曜の最後の授業中だった。

 教室に響くのはチョークと黒板の擦れる音と、シャーペンがノートの上を走る音、そして時計の秒針の音だけ。この教室で私語が交わされることはない。みんながみんなライバルであり、彼らは蹴落とすべき存在でしかない。この学園に入学したその日にそう教え込まれた僕らは必死に、自分のために、自分の将来のためにシャーペンを動かして脳に知識を叩き込んでいた。

 終業を告げるチャイムが鳴り、今日の授業が終わった。簡潔なショートホームルームの後、いつものように図書室に向かった。

 図書室に向かうのに一番近い外廊下を通って中庭に出る。中庭から見える研究施設は僕の父さんの経営している大手アンドロイド製造工場謙研究所だ。

僕は一度だけ父さんに連れて行ってもらったことがある。

そこでは様々な種類のアンドロイドたちが造られていて、丁度新型の試作品が仕上がったところだったのをよく覚えている。なんでも、感情を司り、人間と同じように環境によって最終的な性格が変わるらしい。

 僕は物心ついた時から何時かは父さんの会社に入って研究の第一線に立ちたいと思っている。そのためにはここでの勉強でも足りないくらいだった。だからこうして毎日最終下校時刻まで居残って勉強をしている。


 *


「あ、あの、なにかあったんですかぁ……?」

「あいつが逃げ出しやがった! 手間かけさせやがって」

「でもまぁ私たちから逃れられる訳ないでしょ。あんな出来損ないに」

「うん、そうだねっ」

「んじゃ、とっとと捕まえに行くか」

「け、怪我だけはさせないでくださいよぉ」


 月曜日、放課後を告げるチャイムが鳴り、クラスメイトがそれぞれの目的地へ向かう。

僕も例外なく図書室に向かうために支度をしていた。

「おっ、唯またなー!」

 僕が教室を出ようとすると、決まって大渕慶太は声をかけてくる。

生憎、僕はどうも人と話したりするのは苦手で嫌いだ。

 人懐っこい笑みを浮かべる大渕くんにぎこちない笑顔を向けて早足に教室を去った。

 いつものように図書室で自習をし、いつものように帰り支度を整え、図書室から出た。

 今日は少し遅くなっちゃったな。そう思いながら少しだけ早足で歩いていると、なにかに蹴つまずいて盛大に転んでしまった。

「ったー。って…誰この人」

 僕がつまずいたのは人だった。

 薄い紫のショートヘアに映える薄手の白いワンピースは所々汚れたり傷ついたりしている。

 格好からして女の子だろうか。どうやら同い年くらいみたいだけれど。

「えっと、あ、大丈夫…ですか?」

 僕が尋ねると、その人はゆっくりと起き上がった。そして僕を見るなり、僕から距離を離すように大きく後退した。その目からは殺意のような強い負の感情が伝わってくる。

「あ、えっと、大丈夫。僕は何もしないし、うん、だからその、あー……て、手当しなきゃいけないから」

 彼女と目が合った瞬間、頭の奥の方で何か反応が起きたような感覚がしたけれど軽く頭を振って追い払う。

 彼女にこちらが敵意を持っていないということを伝えるためになるべく優しく声をかける。こういう目をした人を下手に刺激してはいけないと以前読んだ本に書いてあった。

 暫くこちらを警戒していた彼女は、突然糸が切れたようにまた倒れ込んでしまった。

 彼女に駆け寄り、彼女の安全を確認したが、どうやら彼女はアンドロイドのようだった。

そういえばどこかで見たことがあると思っていたけど、父さんの研究室で見た新型の中にいた一体だ。

でも、なんでこんなところにいるんだ? 

本来なら父さんのところへ連れて行くべきなのだろうけど、生憎父さんは外国へ出張に行っている。

 僕は彼女をおぶって家へ急いだ。

 家の鍵を静かに回し、家の中の様子を伺う。幸いなことに家には使用人しかいなかった。

 僕はそっと自室に入り、念のため鍵をかけた。母さんにバレたら何を言われるかわかったものじゃない。

 彼女をベッドに寝かせ、昔父さんからもらったアンドロイド用の緊急充電器をコンセントに繋ぎ、彼女の腕にあるコンセントと繋げた。

 その後、こっそり父さんの書斎からいくつか修理道具を拝借し、できる限りの修復を試みた。幸運なことに、彼女の破損はたいしたことなく僕にでも直すことができた。

 取りあえずはこれでいいかな。僕は彼女をベッドに寝かせたまま、静かにノートと参考書を鞄から取り出して机の上に広げた。


 僕の勉強がひと段落した頃、彼女が目を覚ました。

「あ、良かった。えっと、大丈夫?」

 僕が声をかけると、再びあの時と同じ殺意ある目を僕に向け部屋の隅に退いた。

「あ、その、僕は葉月唯。えっと、君の生みの親の葉月浩一郎は僕の父さんなんだ。あ、あと、ここは僕の部屋だから安心して」

「葉月浩一郎……マスターの息子…?」

彼女は依然警戒した様子だが、それでも学園であった時よりは和らいでいるように思えた。

「そう、あ、君、名前は?」

「……二XXX年春新型モデル製造№04」

「えっと、その、製造番号じゃなくてさ、名前。君は、周りから何て呼ばれているの?」

「み、()(らん)。水に、藍色の藍で水藍」

 水藍と彼女ははっきり答えた。

 僕の記憶が正しければ、発表された新型は全部で四種類の筈。そして発表されたアンドロイドの識別番号は05だった。

 本来、製造されるアンドロイドはすべてに番号がつけられている。そしてもし、シリーズのどれかが何らかの事情で公に発表されなかった場合、そのアンドロイドは番号が無くなり、番号を前倒しにするのが普通だ。

 彼女の属するモデルシリーズの製造責任は全て父さんにあると父さん本人の口から聞いた。

 やっぱり父さんの考えていることはさっぱりわからない。

 僕が暫く考え事にふけていると水藍は全開にした窓に脚をかけていた。カーテンと水藍のスカートが外から吹き付ける春風ではためく。

「な、何しているの? 来週には父さんが帰ってくるから見てもらうといいよ」

 僕が引き止めると、水藍は目を伏せながら言った。

「私を修理して匿ってくれたことには感謝するわ。でもこれ以上貴方を危険に晒す訳にはいかないの。……修理してくれてありがとうね」

 それだけ言うと彼女の姿は忽然と消えた。


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