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魔女と奇跡の物語  作者: ひおり
16/17

月と円舞曲 7

長い長いお話もついに終着点です。

春野冬馬


「さて、答えあわせのお時間なのです」

 華華が口を開いた。

 男子部屋に集まった俺たちは、ベッドの上に翼さんと杏珠が、テーブルに備え付けられている椅子に唯さんと水藍さんが。そして床の上に俺と華華が座って暗号の書かれている紙と、唯さんが即席フリーハンドにしては上出来過ぎて定規を使ったんじゃないかと疑うほどの出来栄えの見取り図を囲んでいた。

「まず前提として、これはそもそも今回の暗号のために作られたものではないということを云っておきますね、だから多少の無理やりな解読には目をつむってください」

 そう前置きをして俺はこのゲームが始まったときに華華たちが書きだしてくれたとおりゃんせの歌詞とそれを意訳した紙を差し出した。

「『此処は何処の細道じゃ』は多分、宝物のある場所への道のことだと思います。で、最初の天神さまだけれど、華華、この言葉の意味はなんだ?」

「天神様とは高天源から天上の神の世界から地上の人間界に降りる神様の総称なのですよ。ちなみにこのお屋敷には神様がいらっしゃるような気配は感じませんでしたし、恐らく何かの比喩ではないかと思いますです」

 天上の神……天上…。

「天井?」

 俺と杏珠が同時に上を指さし、ぴったりはもる。思わず杏珠と目が合い、気まずさにすぐ反らしてしまった。

 そんな俺らを気にすることなく話は進む。

「なるほど、確かに音は同じだね」

 唯さんが納得した風に頷いて、歌詞の書かれた方の紙に赤いボールペンで天上の上に『天井』と書き込む。

「そして次に気になるのは『御用の無い者 通しゃせぬ』だけれど・・・・・・」

「働かない者」

 俺が考えを巡らせるよりも先にまたも杏珠が一言呟いた。

「お爺様が、よく云ってたの。働かない者って意味で用無しって。だからそうじゃないかなって思ったんだけれど」

 なるほどな、用件の意じゃなくて働かせるの方の用ってわけか。嗚呼、それなら確かにその後にも意味が繋げられる。

「多分それで良い。サンキュー、杏珠」

「まさかあんたからお礼の言葉を聞くなんて思ってなかった」

 こいつやっぱり絶対俺のこと馬鹿にしてるよな、その表情も絶対俺のこと小馬鹿にしてやがる。

くそ、いや、今はそんなこと気にしている場合じゃない。ここは年長者らしく寛大な心で接してやるしかないな。

 俺は咳払いを一つして仕切り直し、謎の解明を続ける。

「待って、もし久留里さんの解釈の通りでいくなら働かない者、つまり、この屋敷の使用人じゃないって解釈でいいんだよね」

 唯さんが挙手をして疑問点を挙げる。確かに唯さんの云う通りだ。でも、だからこそこの先を解く必要があるんだ。

「そうだと思います。でも、俺らが通る方法が、きっとこの先に記されているはずです。取り敢えず次だな、次。『この子』はまぁ置いておいて、七つのお祝いだけれど華華、これは何か思い当たることは無いか?」

「はい、普通に考えれば七歳のお誕生日と捉えられるでしょうが、昔の時刻の表し方ですと、丁度今で云う午前四時か午後四時になりますです」

 ならそれが正解だ。

 俺はポケットから、さっきこの部屋で見つけた置き型カレンダーを取り出す。

「これを見てください。日付はなんだっていいんですけれど、年号のところ、一五三八年になってますよね。でもこの時代にこんなちゃんとしたカレンダーは無いはずだし、何より俺たちが生きている時代よりずっと昔のはずです」

 全員が頷くのを確認して俺は更に進める。

「だとするとこのカレンダーは謎を解くヒントなんだと思います。その意味は『昔の言いまわしに合わせろ』とかそんな感じかと」

 これが、俺がさっきから華華に言葉の意味を尋ねている理由だった。あの春の日、華華と出逢った後、少し気になって爺さんに華華のことを尋ねてみた。

 華華は生前、この神社ができた頃――この時代より遥か昔に生きていた巫女で、麗華桜の生贄に捧げられたあと、俺や爺さんの先祖によって神格化され、神様になった経緯があると云う。

 つまり、この六人の中で一番古い言い回しに精通しているのが華華だと云うことだ。

 加えて華華は俺に『何年の何月何日ですか』と尋ねてきた。これは多分華華からのヒントで、華華は一足先にこのカレンダーに気づいていたのかもしれない。

「そしてこの七つにはもう一つの意味があると思われるのですが、冬馬も気づいていますですよね」

 悪戯っぽく俺に笑いかけてくる華華。その笑みには俺への信頼の現れでもあるのだろう。

 俺は頬を書いてまぁ……と曖昧に頷いて話を続けた。

「七珍って知ってますか?」

 俺が尋ねると、翼さんがあぁ、と頷いた。

「仏教用語のあれだろ、瑠璃、玻璃、蝦蛄に瑪瑙、珊瑚とそれから金と銀だろ」

「そうです、それからこのお屋敷に務めている使用人たちの名前なんですけれど丁度七人、しかも名前はさっき翼さんが云った七つの宝石と一致するんです」

「なるほどな、偶然にしちゃ出来過ぎてる」

「はい。だからきっと偶然なんかじゃなく意図的なもので、それに続く御札をおさめにと合わせると、解釈としては『四時に七つの御札をおさめに参ります』って、だいぶ無理があるけれど筋は通ると思います」

「更に補足をしますと、御祝にも別の意味がありまして、神を祀る場所と言う意味もあるのです。ですからそれらを踏まえると」

「『通りたければこの家の者が持っている札七枚を、四時にそこにある神を祀っているところに納めなさい』……」

 水藍さんが静かに口を開く。華華は頷く代わりに満面の笑みを見せた。つられて水藍さんも少しだけ口角を上げる。

「これがきっと全てなのですよ。まとめると『天井へと続く細道がある。この家の者以外は通れない。通りたければこの家の者が持っている木札を四時にそこにある神を祀っているところに納めなさい』となるのです。問題はそれがある場所なのですが……」

 此処で沈黙。まさか此処に来てこんな初歩的な問題にぶつかるなんて思ってもいなかった。

 改めて元の文章の方に目をやる。

 そう云えば神の旅の方をすっかり忘れていたな。神の旅は十一月の季語だと最初唯さんが云っていたのを思いだす。

 更に何かヒントは無いかと見取り図の方へと視線を移す。華華たち女子が使っている文月の部屋と俺らの使っている葉月の部屋。その隣は長月、神無月、霜月……。嗚呼、今更だけれどこの部屋って昔の暦の名前をつけているのか。俺らは葉月だから八月で女子部屋は七月。……ん? 待てよ。と云うことは長月は九月、神無月は十月で、十一月は――。

「霜月の部屋だ……」

 静寂を切り裂く俺の声に、一斉に視線が集まる。

「唯さん、神の旅って十一月の季語で間違いないんですよね」

「え? うん、そうだけれど」

「十一月の旧暦の呼びかたは霜月だ。そしてこの部屋。この部屋には其々名前が付けられているけれど、これらも全部旧暦の呼び方なんです。女子が使っている文月の部屋は七月の、この部屋は八月の旧暦の呼び名がつけられている。これらを踏まえればそう考えられないわけではないと思うんです」

 もちろんこれらは只の憶測でしかなかった。だから俺たちは確かめなきゃいけない。

 時計の針は午後三時三十分を示している。四時までもう時間がない。

「あんま時間も無ェしこれ以上悩んでても仕方ないな。俺とトーマくんで霜月の部屋を調べてみよう。四人は札の回収を頼んだぜ」

 翼さんが年長者らしく全員に指示を飛ばし、俺たちは一斉に部屋を出た。

 俺と翼さんは左手に曲がって奥の霜月の部屋へ、あとの四人は右手に曲がって其々使用人たちを探しに向かった。


     ◆


 霜月の部屋に来た俺と翼さんは部屋をくまなく調べた。

 すると壁の一か所がへこんで、暗号通り細道が出てきた。

 華華たちを待って居ると間もなく杏珠が、そして水藍さんと唯さんが、最後に華華が札を抱えて霜月の部屋に現れた。

 細道を進むと天上――つまり天井に繋がる階段にたどり着く。ここまでは順調のようだ。

 階段を上ると、華華の言った通り、いかにも神様を祀るためのような台があった。

 唯さんの腕時計は運の良い事に午後の四時を指していた。

 台にあるくぼみに華華たちが持ってきた札を納めると、どういう仕掛けになっているのか分からないが、目の前の壁が割れて今度は時計が現れた。

「え? 時計?」

「まさか時計にダイヤがあるとかそんなわけ無いよな」

 違う、翼さんの言うとおりそんなわけない。何が足りないんだ。何が……ってしまった! トランプの存在をすっかり忘れていた。

「華華、トランプの柄はハートのクイーンとハートの五、それからクローバーのジャックと同じ七であっているよな?」

「はい、その通りなのです」

 華華の助言を受けてトランプを思い出す。

ハートのクイーン、クローバーのジャック、それと同じ模様の五と七……。

そうか、わかった。このトランプの意味と時計の意味が。

「そしてその順番。えぇっと、そうだ、さっき言った通りであっているはず……」

 てことはこうだ。

 俺は時計の針を左回りに回して五に合わせた後、そのまま同じ方向に回して七に合わせた。

 すると、さっき札を納めた時と同様、激しい揺れとともに今度は床下から例のダイヤが沢山、ありきたりすぎる表現だけれど、本当にたくさん出てきた。

帰りは困難ってこれのことだったのか。

「冬馬、教えてほしいのです。何故時計の針を動かしたらダイヤが出てきたのですか?」

 華華が心底不思議そうに訪ねてきたので俺は少し得意になって解説をした。

「トランプの柄だよ。ハートのクイーンもクローバーのジャックも左向きだろ。

それは時計の針を動かす向きを示していたんだ。

あとは対応する数字に合わせて時計の針を動かせばダイヤが現れるって訳だ」

「素晴らしい推理よ、冬馬」

 ぱちぱちと拍手の音と共に背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

ルナの声だ。振り返ると、ルナとリーヴル。そして自立するウサギのぬいぐるみが立っていた。

「おめでとう。見事すべての謎を解いてくれたわね。お蔭で私の……いえ、私たちの勝ちよ」

 良かった。条件はクリアしたのか。俺たちはほっと胸をなでおろした。

「それじゃぁ約束通り」

 ルナがパチンと指を鳴らすと二つの扉が現れた。

「翼と杏珠は右の扉。唯と水藍は左の扉よ。途中で分岐があるけれど、どちらを選んでも約束した運命に変わりはないから気楽に選んでね」

 そうだった。みんなは運命を変えるためにこのゲームに参加していたんだった。

「そっか。そんじゃここでお別れだな。短い間だったけれど楽しかったぜ」

「私もよ。もし縁があったまた逢おうね」

 そう言って二人は扉の向こうの闇に消えて行った。

「それじゃぁ私たちも行きましょ」

「あ、うん、でもその前に。華華さん、君は一体何者?」

「ボクは……ボクは華華なのですよ」

 華華は答えになっていない答えといつものにぱ~っと笑顔で返した。

 それじゃ答えになっていないだろ、と突っ込もうと思ったが、唯さんは満足したみたいなので良しとしよう。

「それじゃぁさようなら」

「はい、元気で」

 唯さんと水藍さんも同じように闇の中に吸い込まれていった。

「さて、貴方たちはどうする?」

 そうか、俺たちも選ばなきゃいけないのか……。

 華華の方に視線をやると、もう決まっているみたいだったので、俺も決めた。

「俺はいいや。元のところに帰してくれれば」

「僕もなのですよ」

 俺たちの答えにルナは驚いた表情を見せた。

「本当にいいの? 後悔しない?」

「あぁ。運命くらい自分で変えてみせるさ」

「ボクはそんな冬馬をずっと見ていたいのです」

 ルナは納得したのか、クスっと笑って指を鳴らした。

「じゃぁお望み通り。ただ、貴方たちにも分岐はあるからね。それじゃぁ永久にさよならよ」

「あぁ。もうこんなことに巻き込まないでくれよ」

 軽口を叩き合って扉に手をかける。帰ろう。元の平凡な春日町へ。


 道はただただ一直線だった。暫く歩くと、ルナの言っていた通り分かれ道にぶつかった。

二つの矢印看板にはそれぞれこう書かれていた。

 『あったことにします』『なかったことにします』

 具体的に何がとは書かれていなかったが、大体予想はついた。

 昔は夏になると何か不思議なことが起こると思っていた。でもそんなことある訳もなく、この十五回目の夏も平凡に過ごすはずだった。

 そんな中起こったこの出来事。俺の中に――。

「やっぱり冬馬もこちらを選ぶのですね」

「そういうお前もな」

 あ、遠くに明かりが見えてきた。もうすぐ元の世界に戻れるんだ。

「よっしゃ行くぜ華華。俺が一番乗りだ」

「あっ! ずるいのですよ冬馬ー!」


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