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魔女と奇跡の物語  作者: ひおり
15/17

月と円舞曲 6

多分あと一話か二話で完結します。柏井学園発表前に完結できそうで良かったです。


葉月唯



 ……ここは何処だろう。

 ぼんやりする意識を引きずり出して身の回りを確認しようとして、身動きができない上、視野が真っ暗なことに気付いた。

 真逆視覚野が故障した? ならサーモグラフィーが代わりに動くはず。それなのにそれすら起動している様子は無い。完全な黒、闇、暗闇。

 うぅん、慌てちゃダメだ。落ち着いて、そう、ゆっくり呼吸して、酸素を取り入れよう。それから、思い出すんだ。何があったのか。僕が気を失う前、何故気を失ってしまったのかを。


     ◆


 華華さんの提案により、手分けしてお屋敷の中を散策することになった。

 僕も水藍と別れて一階の大広間に来ていた。

 特にこれといって変わったところは無い、僕の家より随分広いくらいの印象しか無いけれど、玄関口の横にこのお屋敷の見取り図が目に止まった。

 へぇ……僕らが使っている部屋は葉月の部屋って云うのか、僕の苗字と同じなんだ。

 そういえば。葉月って何かの別名だった気がするんだけれど……思い出せない。

 どうもあの事故以前の自分のことに関する記憶が薄い。上手いこと記憶をコピーできなかったのかな? 日常に支障をきたすわけでは無いし、今だって必要は無いだろうから問題無いんだけれど。

 改めて見取り図に意識を向ける。

 一階、今僕の居る大広間に中央階段。その階段を登ると右手に曲がり、手前から順番に師走の部屋、睦月の部屋、如月の部屋、弥生の部屋、卯月の部屋、一番奥が皐月の部屋。左手の廊下は同じく手前から水無月の部屋、水藍たち女子の使っている文月の部屋、僕らが寝泊まりしている葉月の部屋、その隣が長月の部屋、神無月の部屋、そして一番奥は霜月の部屋となっている。

 一階に降りて階段右横の部屋が食堂、さらに食堂の奥は厨房と、それから使用人の部屋が六部屋。階段の左横は家主さんの部屋になっている。

 外に出ると更にゲストルーム、倉庫が二つと教会まである。

 ……うん、やっぱり広いだけで特に見取り図を見て気になる部分は無さそうだ。

 念のため見取り図全部インプットしてその場を立ち去ろうと踵を返した時、ふと床でキラリと輝くものがあった。

 真珠のように丸く、透明度の高い明るい緑色をしたそれは直径はおよそ三センチ程度。

そっとつまみあげて観察してみる。すぐにプログラムによるスキャンが始まった。

 嗚呼成る程。瑪瑙――エメラルドを加工した宝石か。でもなんでこんな所に?

 誰かの落し物かな? だとしたら落とし主を探すのが普通だろうな。幸いにも人数は絞られている。

 お屋敷の探索がてら、落とし主を探そうとまずは師走の部屋からノックしてみた。

 少ししてから鍵が開く音と共に、億劫そうにドアの隙間から男の人が出てきた。

 見るからに不健康そうな見た目の彼はボソッと何か?と訪ねてきた。

「えっと、その……これ、見覚え、無いですか?」

 僕が握っていたエメラルドを見せた瞬間、相手の目の色が変わった。それと同時に直感に近い部分が警告する。彼にこれを渡してはいけない、と。

 咄嗟にエメラルドを握りしめ、護るように自分の身体に引き寄せる。

 相手が僕に掴みかかろうと部屋から身を乗り出してきた。

「華華さ……っ!?」

 相手が迫ってきたおかげで少しだけ見えた部屋の中には縄で乱雑に身体を縛られている白髪の女の子の姿がチラリと見えた。

 何故彼女があんな所に?

 いや、それよりもこの状況、僕一人じゃダメだ。

 一度撤退しようと足を後ろに伸ばした瞬間、頭の奥の方でナニカがバチッと弾けた。


     ◆


嗚呼、だから僕は気を失ってしまったのか。

 大体の現状が把握できただけでだいぶ落ち着くことができた。

 それにしても不思議だ。こんな状況なのにアレが発動していない。何故だろう。気を失った時やっぱり色々ダメになっちゃったのかな……。

 などと考えていると空気の流れが僕の頬を撫でた。誰かが動いたんだ。

 華華さんだろうかと思ったけれど、聞こえてきた声は先ほどの男性のものだった。

「ったくよぉ……金が稼げるからっつって此処に連れてこられたのに意味わかんねぇしよぉ……」

 ぶつぶつと独り言を呟く声はどうやら部屋の中を歩き回っているようだった。

「んで、いーからさっさと吐けや。わかってンだろ、この謎の答えがさぁ」

 僕にかけられた言葉ではないようで、代わりに幼い声が答えた。

「知っててもお前なんかに教えてやんねーのです。このロリコン野郎」

 華華さん……だよね、随分乱暴な言葉を使うんだな。じゃなくて。さっきの状態のままなら華華さんはまだ僕同様身動きが取れないんじゃ。

 どうしよう、どうしたら良いんだろう。色んな所がダメになってしまっている今、僕は人間以下の能力しか持ち得ない。

「んあーお前ようやっと気付いたかぁ」

 僕に気付いた男の人が近づいてくるのが足音でわかる。思わず身体に力が入る。

「さっきからなんかしようとしてるみてーだけれど無駄だぜぇ。この部屋にいる限り"異能は全て使用不可"だからなぁ?」

 異能……それは多分僕の"全てを飲み込む力"以外にもサーモグラフィーとかのことかな。良かった、故障ではないんだね。

「……なんで華華さんを縛っているんですか?僕をこんな風にしているのは華華さんを閉じ込めているのを見たから?」

「んあーどーでもいいだろぉ」

 うぅんどうにもこの人とまともな会話ができる雰囲気じゃないな。そもそもこの人まともな人なのかな?人を拘束したりしている辺りきっとまともな人じゃないんだろうな。

 しかし困ったな。せめて水藍と連絡が取れたらいいのだけれど……。

「お前が何を企んでいるのか知りませんがそんなの冬馬がコテンパにしてやるのです! ですからいい加減ボクを離しやがれなのですー! でないと祟りにあいますですよー!!」

 バタバタと暴れる音とともに華華さんが抗議する。

 男の人の怒りが頂点に達するのと、扉が乱暴に開かれた音が響くのは同時だった。

 足音からして四人、全員未成年だ。もしかして。

 僕が結論導き出すよりも早く視界を覆っていた布がするりと解かれ、明暗の差のせいで若干眩しい視界に水藍の顔が映る。

「唯、その……大丈夫?」

 必死に言葉を選んだ水藍を安心させるために僕は笑ってみせる。心なしか水藍の表情も和らいで見えた。

 華華さんも春野くんに救出され、問題の男の人は十文字さんと久留里さんの手によって逆に拘束されていた。

「こいつどうする?」

 十文字さんが爪先で軽く男の人の脇腹を蹴った。そこまで乱暴にしなくても良いんじゃないかなぁ。

「……解放すると次何をされるかわかりませんね」

 水藍も思案する。久留里さんが気絶させるのが手っ取り早いのではないかと提案したけれど、春野くんがそれを制止する。そんな僕らのやり取りを見ていた華華さんがにっこり笑って挙手した。

「大丈夫なのですよ、杏珠たちの手は煩わせないのです。神様に乱暴をすると祟りに合いますですから」

 笑顔の華華さんとは対称的に顔を引きつらせる春野くん。何か心当たりでもあるのかな。

「とっ、とりあえず一度部屋に戻らないか? 色々、整理したいこともあるし」

「それが良いのです。ボクも冬馬に色々お聞きしたいことがありますです」

 不穏な空気を払拭するように春野くんが提案する。

 華華さんが大きく頷いた後、先頭を切って部屋を後にした。それに従って春野くんが、そして十文字さんと久留里さんは男の人を一瞥して部屋を出る。残されたのは男の人と僕、そして水藍だった。

 僕らも行こう、と水藍を促すと、水藍は無言で男の人に歩み寄り、額の部分に右手の人差し指を軽く押し付けた。直後、男の人の頭ががくりと項垂れ、そこから動くことは無かった。

「あ、その、安心して、死んでないわ。ちょっと気絶させただけ」

私は、殺せないから。と無表情でじっと床を見つめる水藍の手を取って僕は水藍とともに部屋を出た。

「大丈夫だよ、水藍は誰かを殺す必要なんてないんだから。さ、行こう、みんなが待ってる」



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