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魔女と奇跡の物語  作者: ひおり
13/17

月と円舞曲 4

危うく二週連続更新逃すところでした。地味にお気に入りのシーンだったりします。


十文字翼


運ばれた夕食を食べ終え、俺たちは再び暗号と向かい合っていた。

唄の中に何か法則的な暗号があるのではとユー君の提案に乗って法則を探してみるも、そもそも今回の暗号用に作られた訳では無いのでそんなもの見つかるはずも無かった。

気分転換に順番に部屋に備え付けられていたシャワーを浴びたりしてみるものの、脳は完全に煮え切っており正直お手上げだった。

時計が十時を差した頃、トーマ君が大きな欠伸を一つした。

「春野くん、その、大丈夫?」

「ん……あぁ、大丈夫、です。昨日徹夜して、そのまんま部活行った帰りに此処に連れてこられたからちょっと眠いっすけど」

あぁ、そう云えばトーマ君は俺と事情が違うんだっけか。

「そーいや二人はなんでこのゲームに?」

一旦暗号から離れて気分転換をしようと、ずっと気になっていた疑問をそのまま口にした。

二人はそう云えば。と云う顔でお互いを見た。

そう、少なくとも俺は自分と杏珠以外の四人がこのゲームに参加している理由を知らない。そしておそらく二人も、顔見知りの相手以外の参加理由を知らない。そして、なんとなく気になっていたはずだ。

はじめに口を開いたのはトーマくんだった。

「俺はさっきも云った通り部活帰りに神隠しのようなものに遭って、そのまま彼処へ連れて行かれたんです。元の世界に帰りたければゲームに参加しろっていわれて。華華(かはな)はそんな俺を探していて一緒に参加することになったんです」

「春野くんは華華さんと顔見知りなんだっけ」

ユーくんの質問に曖昧に頷いたトーマくんが続ける。

「彼奴は、まぁ、知り合い? って云うか俺の祖父神主なんですけど、その神社で祀っているのが彼奴らしくて。そんでこの春に色々あって一応顔見知りではあります」

華華(かはな)ちゃんは自己紹介の時自らを神様と名乗っていたっけ。トーマくんが云うなら本当なのだろう。見たところ、彼は嘘をつけない性格のように伺える。多分、不器用。そのくせ他人に気を遣う。変わった奴だな。 

ユーくんは? と話を振ると、慌てふためいた後、ゆっくり順序だてて話し始めた。

「えっと僕は、その、多分二人よりずっと未来のニンゲン…? えっとアンドロイドで……その、アンドロイドが一般化した時代なんだけれど……。それで、同じくアンドロイドの水藍(みらん)と出逢って、破棄されることを拒否した彼女の逃亡に手を貸していたんだけれど結局水藍は破棄されて。その時、ガーディアノさんにこのゲームの参加を持ちかけられたんです」

此方も半ば信じがたい話だが、今は納得するしか無い。

それにしてもアンドロイド――機械か。成る程道理で2人の感情考えが読み取れなかった訳か。人間に見られる僅かな変化が微塵も無い理由もこれだろう。それなら合致がいく。

「俺は妹……杏珠と一緒に過ごすためかな。あいつ、今は苗字違うけれど俺の妹なんだ」

「あ、やっぱりそうなんですね」

「云われてみれば確かに二人とも顔つき似てますもんね」

其々の境遇を語ったところでトーマくんがまた一つ大きな欠伸をした。

「すいません俺ちょっと先に寝ます……」

そう言ってトーマくんは吸い寄せられるようにベッドに倒れ込むとそのまま動かなくなった。

一連の動きが余りにも一瞬過ぎて俺もユーくんも思わず呆気に取られる。

「彼、相当眠たかったみたいですね」

「だな。どーする? 俺らも今日は此処までにしておくか」

「そうですね、一度休憩してリフレッシュした頭で明日、もう一度試すのもいいと思います」

疲れは思考を停止させますしね。と云うユーくんに賛成して俺らもベッドで横になる。普段この時間は活動している身からすれば、眠気なんてこれっぽっちもないけれど横になるだけでも疲れは取れる。そう考えて静かに目を閉じた。


     ◆


 目を開けると辺りはだいぶ暗かった。

 窓の外から差し込む月明かりを頼りに備え付けられていた時計を確認すると、時刻は午前二時をちょっと過ぎたくらい。

 隣のベッドではユーくんが、そのさらに奥ではトーマくんが静かに寝息を立てていた。

 普段より全然早い時間に寝たせいかもう眠気は感じない。

 部屋でボーっとしているよりは幾らか有意義だろう。

そう思い立って、二人を起こさないようにそろりと部屋を出た。

 外を照らすのは相変わらず月明かりだけで、何処か静かな、或いは物足りないように思えた。

 そう云えばあの時も満月の明かりが眩しかったっけ。

 そう、あの時。総て憶えている。痛みも熱も冷たさも重みも、何もかも。

 俺は……俺らは本当に幸せに成れるのだろうか。そもそも、幸せな世界と云うものがいまひとつ想像つかない。

 幸せって何だ? 俺は幸せだったのだろうか、其れとも不幸だったのだろうか。

 世間一般から見れば不幸の類に入るだろう。じゃぁ、俺自身はどう思っているんだ?

 答えは只一つ、"何も思っていない"以外思いつかなかった。

 何かを思う余地も思考回路も持ち合わせていないことに今更、ようやく気付く。

 ならあいつは、妹は、杏珠は。自分の置かれていた状況をはたして不幸と嘆くのか、はたまた幸せだったと笑顔を見せるのかそれとも。俺と同じなのか。

 幾ら想起しようと俺に答えが出せる訳ない。当たり前だ。そんなこと想像出来る程の想像力も無いのだから。

 ふと辺りを見回すと館から随分離れた海辺にいることに気付いた。

 うっとおしい程の熱気を纏った生温い潮風を頬に感じながら更に歩みを進めていると、遠くに人影を見た。

 潮風に靡く水のように蒼い髪、ふんわり膨らむワンピースの裾。彼女の周りだけこの暑さを感じさせない、むしろ涼しささえ覚える程だった。嗚呼確か。

水藍(みらん)ちゃん」

 声をかけると彼女は静かに此方を向き、俺を認識しする。

「こんな時間に何してんの?」

「えっ……と…」

 詰まらせる水藍ちゃん。

多分ここにいる理由なんて無いのだろう。俺みたいに無意識に、気付いたらここにいた。それだけのこと。

「嗚呼いいよ、無理に答えなくて」

 俺が諭すと水藍ちゃんは小さくすみません。と謝った。

 こうして見ると普通の人間と何ら遜色無い。

無駄な動きが無いことを除けば、無口で大人しい子なんだろうな。その程度で済んでしまう程度には限りなく人間だ。下手したら俺なんかよりもよっぽど人間らしい。

「なぁ、水藍ちゃんはどうしてゲームに参加したんだ?」

 月明かりが照らす静かな海辺を二人で並んで歩く。

 会話が無いのもどうかと思い、ふと思った質問を投げかけた。

 答えるのを渋るかと思ったが、水藍(みらん)ちゃんは淀みなく淡々と答えた。

「最初にもお話ししたけれど私はアンドロイドです。

私が開発された理由は政府の要人暗殺のためでした」

 人を殺すために生み出された。と彼女は云う。なるほど、俺らと同じわけか。

「ですが、致命的なバグ――持ち得ないはずの感情を、同シリーズのアンドロイドの感情の一部を背負っていたために処分が決定されました。その時点で私には自我が芽生えていて、加えてある人の助言に従い逃亡を図りましたが捕まってしまい、結局処分されました」

「処分って殺す……わけじゃ無いよな」

「はい、ただ単にデーターをデリートされるだけです。私の意識は奇跡的に残っていましたが、それでも電子の残滓だけが浮遊するゴミ箱から脱出し、再びボディを得て活動することは不可能だったんですけれど……彼女――ルナさんが私に手を差し伸べてくれました。『ゲームにクリアした暁には人間としての人生を得ることができる』と」

「それでゲームに参加したって訳か」

「はい。……あの、翼さんは何故参加したんですか?」

 それは悪意を全く含まない純粋な質問だった。

 そう、悪気は何ら無い、無垢な子どもが道端の死骸と成った蝶を見て、何故動かないのか、何故死んでいるのかを問うのと同じくらい素朴でそれでいて不思議に思うが故の質問。

 果たして俺は自身の身の上話を目の前の、出会って間もない機械の彼女に話して良いのだろうか。

「気に障りましたか……? えっと、ごめんなさい、分からないことは聞くように云われたので、その……云い難かったら、えぇと……云わなくても良ので…」

 彼女は必死に言葉を選び、精一杯の謝罪の言葉を並べた。

 どうにも俺が悪いことをしたようにしか思えなくて分が悪い。いや、もしかしたら本当に俺が彼女に対して悪いことをしてしまったのかもしれない。

「いや、いいよ気にしないで。……そうだな、こうして逢えたのも何かの縁ってヤツだし」

 話すと少し長くなるけれど、と前置きをして俺は、俺と杏珠の身の上話を始めた。

八年前のかくれんぼのこと、俺らの所属する会社のこと、俺らの出生のことそして、あの日、俺は妹に殺されたこと。

 俺が話している間、水藍ちゃんは一度も口を開くことなく淡々と聞いていてくれた。

「……あとは水藍ちゃんと同じだ。ルナちゃんにゲームの誘いを受けて今ここにいる」

 話し終えて水藍ちゃんの方を見ると、泣いていた。

両目からつつ、と涙の粒が彼女の白い頬に痕を残す。

 泣いている? 機械が?

 混乱する俺だったが、それ以上に当の本人が困惑していた。

 拭っても拭っても止まることを知らない涙を、さらに乱暴に拭う。

「えっと…ごめんなさい……その、感情自体は私のプログラムに無いから…

暴走してしまっているみたいで……ご、ごめんなさい…っ。で、でも……っ」

 声を詰まらせながらも水藍ちゃんは顔を上げて必死に言葉を続けた。

「貴方の物語は……悲しくて…機械の私がこんなこと云うの……可笑しいと思います。それなのに……どうして…貴方は泣いていないんですか……っ」

「……なんでだろうな」

 何故なのか、答えは半分出ている。これが俺の日常だから。

この十七年間を振り返って悲観したことも憂いたこともないけれど、特に感情を抱いたことすらなかった。

 それなのに目の前の水藍ちゃんは、機械の彼女は出会って間もない俺の話を聞いて、涙した。

 だからきっと俺は自らの人生の不幸を嘆き酔いしれるべきだったのかもしれない。

それでも、今更そうしろ、と云われても涙ひとつ落ちてきやしない。

 だから代わりに、まだ泣き止まない水藍ちゃんをそっと抱き寄せた。

「ありがとう、俺の代わりに泣いてくれて」


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