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02:ギリアムにお願い

「重すぎ発動時間かかりすぎ使い捨てとか勿体なすぎ持ち運び不便すぎデザイン最ッ悪」


 ホログラムの訓練用魔物が消えたところでギリアムは顔を顰めながらそう言い切ってくれた。


 うん、憎たらしいぐらいいつも通りのギリアムだ。私は今彼に言われた感想を全て頭の中のメモ帳に書き止め、「ありがとうね」笑みを浮かべる。

 何はともあれ開発途中の武器の試験に付き合ってくれ、しかもありがたい感想までくれるのだから礼を述べておかないと罰が当たってしまうだろう。―――言われているのがどれだけボロクソだったとしてもね!


 言い訳をさせてもらうと最後に言ったデザインの担当は私じゃない。

 それ以外はこういわれるだろうなとあたりをつけていたことなので何も言えないけどさ。


 するとギリアムは持っていた試験武器である大剣を訓練場の隅に立て掛けてから、隊服の襟元を緩めながらこちらに歩いてきた。

 青を基調とした隊服は魔術協会の中でも退魔師団の団員だけが着用を許可されている衣装で、癖の強い赤みが買った茶髪を持つギリアムには対照的な色ではあるものの、よく似合っていた。


「で、これ誰が作ったんです?」

「私に決まってるでしょうが。あー練り直しだ。でも切れ味抜群でしょ」

「切れ味だけ(・・)はよかったですよ。―――ラナ先輩、これの設計、アンタの部下ですよね」


 誤魔化されてくれないことに内心舌打ちを漏らしながらも表面には一切出さず、「うちの班で作ったものだからつまりは責任者である私の設計よ」と綺麗に笑って見せた。


 ギリアムはスッと目を細めなにかを言いたげにしていたが、やがて眉間にしわを寄せ「それが先輩だったか」と諦めたように独り言ちた。


 ええそうよ、それが私よ。でもそのつぶやきは聞かなかったことにするわね。


 肩を竦めながら大剣のほうへと歩み寄る。


 確かにギリアムの言った通り目的の効果を発動させるまでに時間がかかりすぎる。


 使用者の魔力量がもっと多ければ時間短縮は可能だけど、退魔師ってのは魔術師の中でも魔力量の少ないものたちの集まりだとい言われているほどに魔力の多いものがいない。

 目標魔力を集めるには退魔師三人がかりで、尚且つ満身創痍になりながら頑張ってもらうしかないだろう。


 それから使い捨ての点、これはコスト的にもできれば何度も使用したいものだけど、正直この大剣の効果が『剣を使っての魔物封印』である以上は難しい。

 魔物を討伐するだけでなく研究のために捉えて来て欲しいという要望から開発中のこの武器だが、本当に問題が多すぎる。というかそもそもなんでうちの班は武器に封印効果を与えてるんだっけ。他のアイテムでもよかったんじゃないかしら。



 手元の端末と大剣を交互に見ながらううん、としばらく唸っていたのだけど、いつまでもそうやっていたって仕方ない。

 仕事はまだまだ山積みだしやりたいことはたくさんあるのだから。




 ―――私の後ろから端末をのぞき込みながら退屈そうに欠伸を漏らすギリアムは、この後も『本部準待機』と言っていたはずよね、と彼の予定を思い出す。『通常待機』であれば体を動かす訓練は厳禁だけど、『本部()待機』の場合は、『通常待機』の団員に問題が起こらない限り非番のような扱いとも言える。

 というわけで、だ。


「ねぇギリアム。君の得物ってレイピアであってるよね」

「……ん、あぁそうっすけど、……何かありました?」

「レイピア系で試験段階に持っていけそうなのがひとつあるの。もし時間あるようなら三……いや、二時間、二時間後以降にお願いできないかな」


 準待機とは言えあまり時間を取らせるのはもったいない。

 だからなんとしても短時間で仕上げてギリアムの好きな時間に試験をお願いしたいなという思いを込めた言葉に彼は少し悩むそぶりを見せたが、すぐに色っぽい垂れ目を余計に垂れさせるようなニヤーっとした笑みを浮かべた。


「正真正銘ラナさんの設計だってなら調整が終わり次第試験付き合いますよ」


 このあと試してほしいのは先程の大剣とは異なり最初から最後まで私の設計だ。


 彼の言葉に「おっけ交渉成立ね」と拳を握りしめ小さくガッツポーズ。

 すんなりオーケーがもらえてほんと助かった。―――とはいってもギリアムが私の頼みを断るってことは余程のことがない限りあまりないんだけどさ。

 でも流石に「お願いできるよね」と言い切ってしまうのは頼む側がやってはいけないことだ。


 じゃああとで連絡するわ、と言って訓練室から出ようとしたのだけど、「喜んで付き合いますよ」という笑いを含んだ声に足を止めてしまう。

 何をわざわざ同じ言葉を二回もいっているんだか、と振り向けば。


「レイピア系の装備なのなんて俺くらいですしね」


 声だけでなくにやにやとした表情を隠そうとしないギリアムにそっと溜息。


 それが笑顔の理由だったわけか。暗に彼は「俺のための武器ですよね」と言っている。


 ここまで喜ばれると嬉しいような恥ずかしいような、むず痒く何とも言い難い思いだ。

 でもそれより何よりやっぱギリアムって全体的に残念よねぇと再度確認させられてしまった。

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