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19:嘘か真か

 このメッセージは一体どういう意味なのだろうか。

 ギリアムが内心首を傾げつつラナの顔を伺うと、彼女はぎりっと歯噛みし、


「人魚姫めが……」


 と、どこか恨みの籠っていそうな、暗い声を出した。


(へぇ、この人、こういう声もだすんだ)


 驚きよりも関心が先にギリアムの心をついた。


 ラナは顔立ちこそきりっとした釣り目のせいできつく見られがちだが、喋ってみるとあまり人に悪意を抱かない人物だ。つまり、お人好し。周りがどう見ているかは知らないが、少なくともギリアムの評価はそうだ。

 本人は「ちゃんと考えてるし、誰にでも、ってわけじゃないわよ」と言うが、ギリアムからしたら彼女は人に優しすぎるように見える。もっとも、若干の例外はあるが。

 また、初対面の相手に自分をみせないという面もあるが、それは人を警戒してのことで、その人物に対して何の感情も抱いていないということなので考えから除外する。


 そんなラナが、恨みの籠った声をだす。

 ギリアムはそれが意外でならなかった。


 しかしラナとて人の子なのだから、そういった感情を抱いてもおかしくはないだろう。


 それよりも気になるのは、そういった感情を抱いた理由だ。


「人魚って、隊長の見合い相手ですよね」

「えっ、…………あぁ、そうね」


 おそらく先ほどの言葉は無意識だったのだろう。

 ラナは顔を引き攣らせて頷いた。


「人魚は元が精霊だから、結構閉鎖的な一族だって聞いてましたけど、こんなやって見合いに来るんですね」

「元が、でなく人魚は今も変わらず精霊よ。ただ、今この場にいるあれらは人魚の末裔でしかないから、元が精霊というのは正しいわね」


 あれら、という言い方に棘を感じたが、今それを聞いても話が逸れるだけなので疑問は一先ず捨て置く。


「ま、人魚については今は関係ないことよ。あの人が見合いをぶち壊せと言っているから私たちはこれから行動する、ただそれだけってことでいいの」


 ラナの言葉は自分に言い聞かせているように聞こえた。

 だが、まさにその通りであったため、ギリアムは静かに首肯するに留めた。



「で、具体的には何をするんです?」

「とっても簡単なことよ。尚且つ、あの人にも責任を取らせられることね」


 ハートマークが浮かびそうな声を上げたラナが一体どういうことをするのかギリアムにはわからなかったが、クラークが苦労するようなことなのかな、とふと感じた。


 ラナはそう告げた後で静かな動作で立ち上がる。非常に綺麗な立ち姿だ、と思いながらギリアムは眺めていたが、彼女がそのまま扉のほうへ向かったことではっとして自分も立ち上がった。


「直接行くんですか?」

「えぇ。それが手っ取り早いから」


 にっこり笑った表情に、何かを覚悟しているような色が浮かぶ。だが、それは一瞬のことだったので、おそらくは見間違いだろう。


 ラナが隣の部屋、クラークが見合いを行っている部屋の、扉に手をかける。

 すると、あぁそうそう、と何かを思い出したように振り向いた。


「この後、できれば何があっても声を上げないでもらえるかな」


 言葉の意味が分からない。だが、ラナがそう告げるということは何かがあるのだろう。ギリアムは、わかりました、というように小さく首肯した。


 そして次の瞬間。ギリアムは声を上げなかった自分を褒め称えたかった。

 ラナはなんと、こう言ってのけたのだ。




「お父様! これは一体どういうことなの!? お母様という方がありながら、どおして見合いなんてしているの!?」




 スパーンと扉を開けた彼女が、どんな表情をしていたのかギリアムにはわからない。

 だが中にいたクラークの顔はよく見えた。驚愕、それから、懐かしさ。


(そういえば、ラナさんは普段、隊長を何と呼んでいた?)


 思い出せない。直接二人が会話をするとき、クラークは彼女をラナと呼んでいたが、ラナが彼を名で呼んでいた姿を全く思い出せない。


 しかし、隊長はどう見てもラナとの年の差は多く見積もっても十やそこらだ。

 きっと見合いをぶち壊すためだけのお遊び、演技なのだろう。

 そう考えたら呆れの感情が生まれた。この人は一体何をしているんだ、と。ラナはクラークにも責任を取らせるといっていたから、そのための言葉だろう。


 名を呼ばないことに対して生まれた疑問は、そうやって考えているうちにいつしか霧散していた。






 その後。


 ラナは爆弾を投下するだけしてあとの説明をクラークに丸投げした。クラークは面倒くさそうな顔をしながらも、きちんと先方へ説明していたので問題はないだろう。


 これ以上ギリアムがこの場にいる必要はない。

 食事も注文した分は食べ終えていたし、追加注文は今の騒ぎの中ではし辛い。


「先輩」


 クラークが説明し、クラーク側の仲人が騒ぎ、人魚の末裔姫が驚きを露わにし、そちらの仲人が顔を青ざめさせ、という騒ぎを眺めていたラナは、すぐにギリアムの言葉に気付いた。どうかしたの、と振り向いた彼女を見て、


「これ以上何もないでしょうし、帰ってもいいですか?」


 とギリアムが尋ねると、顔を引き攣らせて「え?」と小さくつぶやいた。


「何かありますか?」

「いや、ない、けど…………」


 もしも何かあるのなら、食べた分の働きはするつもりだ。幽霊屋敷のお礼、という名目の食事ではあったが、真の目的が見合い妨害というのはギリアムだってわかりきっている。

 なので、何かあるか、と聞いたのだが、ラナはなんとも歯切れの悪いこたえを返してきた。


 先輩、ともう一度声を掛ける。

 すると、意を決したようにラナは一歩前に出て、


「聞かないの?」


 と言ってきた。


 それに対してのギリアムのこたえは、


「何をです?」


 だった。


 ラナが呆気に取られている姿というのは珍しい。ポカンと口を開く姿はなんとも間抜けである。

 しかしすぐに立ち直ると、表情を引き締めた。


「私、お父様、って、言ったのよ」


 一言一言、大切に告げるように言葉を区切った言い方をした。


 しかしそれについてはギリアムの中で既に結論は出ている。


「演技じゃないんですか? そういうわけのわからないことをいう女がクラークの傍にいるから、見合いはやめたほうがいいですよ、って……」


 ラナが額をおさえた。ギリアムにはどうして彼女がそんな態度をとるのかがわからない。


「君って、すごく、頭がいいのね……」


 ラナの言っている言葉の意味が分からない。というより、突然どうしてそんなことをいうのかわからない。


 なのでギリアムは短く、


「どうも」


 とだけ返した。

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