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短編集

クリスマスの恋の奇跡

作者: 楠木 翡翠

 12月25日……。

 辺りは完全にクリスマスムードに包まれた街の中を私は仕事を終え、駅に向かって歩いていた。


「はぁ……」


 私はため息をついた。

 今年も孤独なクリスマスになってしまいそうだなと思うとため息が出てしまう。


 駅前ですれ違う人達を見ると、寒い中、コンビニの前でサンタのコスプレをしてクリスマスケーキを頑張って売り切ろうとする売り子。

 学校帰りで塾に向かう中高生……。


 カップルや友達同士だか大学のサークル仲間だか知らないけど、大きなクリスマスツリーを背景に写真を撮ったりしているのを見ると、見ているだけで自分が虚しくなってくる。


 だって、今まで恋人どころか出会いもなく過ぎ去ってしまったのだから……。


 今年も小さめのクリスマスケーキを買って1人で過ごそうかな……。



 *



 私がぼんやりと孤独にイルミネーションを見ていると、


「稲葉? 稲葉だよな?」


 突然、私は名前を呼ばれて驚いた。

 懐かしい声が耳に入ってきた。

 ふと振り向くと、高校の時の同じクラスだった椎名くんが手を振っている。


「椎名くん、久しぶりだね! 元気にしてた?」

「ああ。稲葉も元気そうだな」

「うん。椎名くんも仕事上がり?」

「そうだけど」

「そうなんだ。仕事はどう? 大変?」

「そりゃ、大変だよ。毎日、寒空の中でお得意先を回ってるし……。いい女との出会いは今のところはないな……」

「私も仕事に追われて、いい人と巡り会えなかったな……」

「だよなー」


 やっぱり椎名くんも同じことを思っていたんだ。


 それはそうだよね。

 私達は今、24歳。

 結婚や出産とかに焦り始める年齢でもある。

 あと、周りの友達も結婚してる人が増えてるから、なおさら焦る。


「稲葉……」

「ん?」

「話があるから、一緒に飯でも食べないか?」

「うん。どうせ、クリぼっちだし」


 私はあっさり何も迷いなく、椎名くんの誘いに乗っちゃったけど、本当に突然すぎて訳が分からない。


「じゃあ、行くか。人ごみが凄いから、はぐれないように……て、手をつ、つないでさ……」

「う、うん」


 椎名くんは私に右手をスッと差し出した。

 私は左手をおそるおそる彼の手をつなごうとしたら、ガシッと握ってきた。


「さぁ、行こう!」


 私は大きく頷いて彼について行った。



 *



 私達がきたところはとある高級レストラン。

 店内に入るとクラシック音楽が心地よく流れている。


「突然、食事に誘ってごめんな?」

「そうだよ! ずっと、ドッキリかと思ってたんだからね!」

「本当にごめん」

「で、話って何?」

「あ、あの……俺、実は稲葉のこと……」

「?」


 私、高校時代に何か椎名くんに変なことしたかな?

 心当たりはないんだけどな……。


「す……」

「す……?」


 す……ってなんだろう。

 まさか、変から恋に変わる瞬間なのか?

 私はナイフとフォークと一旦置き、彼の話に耳を傾ける。


「俺、稲葉のことが好きなんだ」

「えっ!?」

「だから、俺は稲葉のことが好きだ!」


 なんだって!?

 これこそがドッキリではないか!?

 しかも、私とは性格が正反対だったあの地味な椎名くんだぞ!?

 さっき、出会いがないって言ってたのに私かよ!


「本当?」

「あぁ。なんか、本当に突然すぎてごめん」

「椎名くん……」

「答えはあとでもいい。メールでも電話でもいいよ」

「分かった」


 分かったとは言ったもののはじめてされた愛の告白。

 だけど、私も椎名くんのことを気になっていた時期は短かったけど、あった。

 前は地味だったけど、今は頼もしくなったような気がする。


「あのね。私も椎名くんのことが気になっていた時期があったの。」

「それで?」

「答えはこんな私ですが、よろしくお願いします」

「ありがとう、稲葉……じゃなかった。早奈(さな)

「こちらこそ、改めてよろしく。椎名くん……いや、雅史(まさし)

「たとえ、楽しいこともつらいこともあるけど、たくさん思い出を作ろう」

「うん」


 私達は今年、ようやくクリぼっちを卒業した。


 クリスマスに告白されて、つきあい始めた私達。


 私のクリスマスの恋の奇跡のお話(?)でした。

2015/12/25 本投稿

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして実話じゃ……? と思ってしまうような、リアルな雰囲気。 クリスマスの再会は偶然? それとも、椎名くんの計画? 来年も再来年もずっと、二人で過ごせるといいですね!
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