ハロウィンのお城
老婆はここまで話をして、動きを止めました。
「どうしたのお婆さん。もっとお話を聞かせて」話に聞き入っていた少女はせがみました。
「それじゃあ、最後にこのお城のお話をしてやろうかね」老婆は本を閉じて、遠くを見やりながら話を始めました。
昔々のそのまた昔、朝になるまで遊びほうけていたために帰り道が消えてしまい、ハロウィンの町へ帰れなくなった一行がいました。二つの世界を繋ぐ道はとても不安定で、一度閉じてしまうと次のハロウィンの日までどこに出るのかわからないのです。
おばけも魔女も狼男もフランケンもミイラ男もバンパイアも、人間の世界では皆嫌われ者。どこへ行っても石を投げられ火を放たれ追い出されます。安住の地はないものかと放浪の旅を続け、やっとやっとたどり着いたのがこのお城でした。地面に叩き付けられるように落ちたシャンデリアや錆がこびりついた剣、血が酸化して真っ黒になった玉座があるうれしいくらいに朽ち果てた不気味な廃墟なので、人間は誰も近寄りません。みんなで住むにはうってつけです。
魔女のかけた素敵な魔法で朝は廃墟、夜は元の姿に戻る不思議なお城になりました。次のハロウィンの日にまた二つの世界を繋ぐ道が開かれ、帰った一行はお城に溜まっている心地よいほどの恨みや欲望や呪いで鎖を作り、お城とハロウィンの町を繋ぎとめることにしました。
それ以来、わけあって人間の世界から帰れなくなったハロウィンの町の住人たちが集まる場所になりました。ハロウィンの日に招待状を送りパーティをするのは、ここに集まれば確実に町へ帰ることができるからなのです。
「だからどうか誰にも言わないでおくれ。ここがなけりゃ行くところがないんだよ」
老婆は少女にすがるように頼みました。その目からは涙が一筋流れています。
わかったわと少女が頷くと、太陽の光が窓から差し込んできました。もう朝です。少女がまぶしさに思わず目をつぶると、次に目を開けた時にはさっきまでいた部屋も老婆もどこにもなく、がれきの佇む薄汚い廃墟に立っていました。今までの出来事はすべて夢だったとでも言うように、秋風が吹き抜けて草木が揺れているだけでした。
彼女は生涯約束を守りお城のことを誰にも言いませんでした。ハロウィンを迎えるたびもう一度だけ老婆に会ってお話を聞かせてもらいたいなと思いました。けれど、二度とハロウィンパーティの招待状は来なかったといいます。