見習い魔女と大魔法
巨大キノコでできた魔法使いの家に居候中の見習い魔女。彼女はぐうたらな性格で修業もさぼりがち、手っ取り早くすごい魔法が使えたらいいのになと思いながら退屈な毎日を過ごしていました。
ある日魔法使いがお茶会に出かけたので、普段は絶対に入らせてくれない秘密の部屋にこっそり忍び込みました。そこで豪華な装丁の施された重たくて分厚い本を見つけました。きっとこれにすごい魔法が書いてあるのかもとウキウキ気分で開こうとしましたが、鍵がかかっていて開けられません。
しかしそういうときだけは知恵が回り、うろ覚えながら鍵外しの魔法を使って難なく本を開きました。題名には「大魔法の本」と書いてあり、思い通りに動くしもべを作り出すもの、無限に宝石を生み出すもの、どんな病気でも治せるものなどなど高度な魔法がたくさん書いてありました。
その中になんでも思い通りになる魔法が書かれたページがあり、興味を持った彼女は早速使ってみることにしました。呪文を唱えて杖を振れば、汚い部屋はスッキリピカピカ。炊事も洗濯もあっという間に終わりました。難しい薬を作ったり、部屋を大好きな緑色のリボンでデコレーションしたり、ドラゴンに変身するのだって思い通り。
「師匠ったら私がすごい魔法が使えるようになったら自分が追い抜かれると思って、今まで隠しておいたんだわ」
なんて彼女はお気楽に考えていました。ひとしきり魔法を使ってそろそろ止めようと杖を振りましたが、あれあれどうにも止まりません。振った分だけ食事が作られ、服はクロゼットごと丸洗いされ、材料があるだけ薬が出来て、行き場のないデコレーション用品が部屋を埋め尽くさんばかりにどんどん増えていきます。
見習い魔女は怖くなりました。このままではキノコの外へ魔法が溢れ出して、取り返しがつかなくなってしまいます。どうにかして止めようとしましたが、本に書いてある通りにやってみてもうまくいきません。止まれと叫んだところで、増えすぎた紙吹雪が口の中に入ってくるだけです。
もうどうしようもなくなってしまって彼女はとうとう泣き出してしまいました。そこへタイミングよく帰ってきた魔法使いが杖を一振りすると、今まで暴走していた魔法が嘘のようにぴたっと止まり、まるでなかったかのように消えたのです。やっと収まったことに安心したのか、見習い魔女はへなへなと力なくその場に座り込んでしまいました。
結局見習い魔女は一晩中ガミガミ叱られました。その後彼女は心を入れ替えて真面目に修業に励み、師匠を凌ぐほど高度な魔法を片手で使いこなせる、名高き魔女になったそうです。