猫のジャック
白猫のジャックは騙すのが大好きな性悪猫。ハロウィンの町のみんなを騙して暮らしていました。怒って追いかけてきた相手に「騙される方が悪いんだよ~」と意地悪に笑って更に怒らせるのも大好き。捕まえようにも素早く達者な動きでひらりひらりと躱して逃げてしまうのでした。
ある日また町の住人を騙して追いかけられていると、人間の世界との境に来てしまいました。流石のジャックも人間の世界は苦手で尻込みしていましたが、捕まってたまるもんかと走り出しました。
境界を超えた瞬間にジャックは宙に舞い上がり、コンクリートに叩き付けられました。何が起きたのかわからず閉じようとする瞼を懸命に開くと、ぼんやりした視界に四角い大きなものが遠くへ行くのが見えました。ジャックはトラックに轢かれてしまったのです。そのまま瞼が下りてきて、彼は死んでしまいました。
気が付くと彼は冥府へ向かう死者の列の中にいました。どこまでも続く列の先には大きな門があり、甲冑に身を包んだ冥府の門番が厳重に警備をしています。嫌だ嫌だまだ死にたくなんかない。どうにかして門番を出し抜いてやろうと考えました。
「門番さん聞いてください。ボクは病気の恋人を救うために薬草を取りに出かけたのですが、その途中恐ろしい怪物に追いかけられて仕方なく人間の世界に逃げたのです。しかしその瞬間不幸にも死んでしまいました。ああ、ボクがいなければ恋人は一匹で寂しく死んでしまうでしょう。お願いです、生き返らせてください」
「ふうむ、なんと可哀想な猫だろう。よろしい。一度だけ生き返り、愛する者のもとへ薬草を届けてくることを許そう」
こうしてお得意の話術を巧みに使い、門番を騙して生き返りました。しかしお話は全て嘘なので薬草も恋人もあるはずがなく、生き返ったジャックはのびのび自由にまたみんなを騙しては遊びあるき、寿命で二度目に死んだときには騙されたことと、生き返ってもみんなを騙していたことに怒った冥府の門番に死んでも生きてもいない存在にさせられ、自慢の毛色も闇と同じ色に染め上げられ、黒猫になってしまいました。
それからジャックはどこにも出られず、誰にも会えず、先の見えないほど暗い闇の中を彷徨いました。どれくらいたったのかすらわからなくなってきた時、向こうがほんのり明るくなってきました。近づいてみると、それは人間の世界からハロウィンの町へ戻る行列でした。ぼんやりと眺めていると、目の前で一人の魔女が立ち止まりました。「おやまぁジャックじゃないか。こんなところにいるなんて、さては冥府の門番を怒らせたね?なんて悪い猫だろう。お前、もう一度冥府に入りたいのかい?」
ジャックが頷くと「それなら人間を幸せにすることで罪を償うんだね。数が多ければその分お前の罪も減って、冥府に行く機会が与えられるかもしれないよ」と魔女はいいました。
それを聞いたジャックは方法を教わりたいと魔女に弟子入りしました。今は修行中の身で、たくさんの人間を幸せにするために頑張っているそうです。だから黒猫というのは魔女と一緒にいるのだそうです。