宣戦布告
「5億。5億の方はいませんか?」
「はい。」
「5億1000万 5億1000万の方はいませんか?」
「ラストコールです。ディープインパクト産駒ジャンヌダルクの2020 5億1000万の方はいませんか?」
一瞬の間をおいて、「5億です。1番の方、ご購入ありがとうございました。」
「社長いくらなんでもこれはやりすぎじゃ。」
「このセールの馬は全部買うつもりだ。」社長は言う。
俺は、口をあんぐりあげ、絶句する。
「まさか、明日の0歳セールも」
「当たり前じゃないか」
「しかし、100億は必要かと」
「え、忘れたの。我が天下統一グループ競走馬部署の予算は500億。牧場購入、繁殖牝馬の購入で200億使っただろ。まだ300億残ってるじゃん。」
「来年以降は?」
「は?何のために去年の凱旋門賞馬を買ったと思ってるんだ。
いざとなれば、俺の力でもう500億ぐらい大丈夫だ」にやりと笑い、席を立つ。
その時、1番の方、購入おめでとうございます。という声が聞こえた。
笑うしかなかった。
「社大の人が社長に会いたいと来ていますよ。」
「名前は?」
「由田照也さんだそうですが。」
「は?先に言え。」急いでバスローブを脱ぎ捨て、スーツを着る。
「一ノ瀬も来い。」
「はい。」呼ばれる前から、スーツに着替えていた、俺は待ってましたという感じで答える。
「行くぞ。」と言って社長は部屋から出ていく。
その後に続き、一ノ瀬も部屋を出ていく。
そして、エレベーターに乗り、ロビーに行く。
「初めまして。由田照也と申します。」という声が、2人の死角からした。
声の方向に振り向くと、ニコニコしている60歳前後と思われる白髪の紳士がいた。
「初めまして。天下統一グループ社長、いや馬主の金近真一と申します。
待たせてしまい、申し訳ありません。」社長は深々と頭を下げる。
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ突然の訪問でお忙しい所、申し訳ありません。」
照也さんはニコニコしながら言う。
「そんな大事な用なのですか? お金はちゃんと払いますよ。」
「いえ、お金のことではないのです。金近さんが購入された、凱旋門賞馬ドヴォルザークの件です。」
照也さんはニコニコした表情から、仕事の表情に変わった。
「売ってくれという事ですか?」社長の口調が自然ときつくなる。
「そういうことです。」社長とは違い、照也さんの口調にはあいさつの時からほぼ変化していない。
「お断りします。」
「お金なら30億は出しますよ。」これでどうだというように、照也さんは言う。
「どれだけお金を積まれようが、私は売る気はありません。」
「では、明日のセールの参加することは不可能となりますが」ニコニコというより、卑屈な笑みを浮かべて、このカス野郎(おっと、失礼)は言った。
「了解です。これからライバルですね。」社長がかっこよく見えた。いつもよりも。
「では、2度と、我がファームの馬は所有できないということで。今日の馬は別ですが。育成はそちらでしてもらいますが。」美しい程、卑屈な笑みを浮かべて言った。
「では、いつしかの、ダービーの表彰台で。」社長はニヤリとして言った。
そして、社長は、俺になど目もくれず、エレベーターに向かっていた。
この人がダービーを勝つまで、着いてくと心の中でひっそりと、そして誇らしく誓った。