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妹が起こしにやってくるという慣れない出来事があり、困惑した寝起きからおよそ一時間、既に僕は自転車に乗り込んで家を後にして、学校への道を進んでいた――最中、神谷さんと遭遇した。
「よぅ、七伍君。どんな朝だ?」
「……意外と良い朝でしたね」
だって妹に起こしてもらえる朝なんて空前絶後だったもんで。
こっちにいる間はそうじゃないのかもしれないが、あっちの世界に戻ったら絶対にそんなことしてくれない。頼み込んだらしてくれるだろうか。少しだけ考えてみたが、結局まあ無理という結論に至った。無理無理。たとえ土下座しても伸ばした足の置き場にしかされない。そうされたあと希望が受け入れられるわけでもないだろうし、土下座する意味もなさそうだ。
「ほー、そりゃ本当に意外だな。もしかしたら今日、学校に来ないんじゃないかと思っていたんだがね」
「僕がそんな軟なメンタル持ち合わせていないの知ってるでしょ、神谷さん」
「いひひ、そりゃ勿論。冗談だ」
神谷さんは意地悪そうに笑ってから、アッシュカラーの前髪の毛先を弄りつつ、
「それで、今日はまず何をするんだ? 神様探しの第一歩だぜ」
神様探し。
見つけ出すことが出来なければ、僕は元いた世界に帰ることができない。僕をここに呼び出した張本人は一体誰なのか。それを探るための第一歩、つまり最初に探りを入れるのは誰にするか……一応、候補は昨日寝る直前に考えてある。
「まずは下調べという意味も込めて、最初は僕の世界とは明らかに違う人格をしている奴ら、あるいは転校生からコンタクトしていきたいと思ってます、なので幼馴染ルートは一旦置いておきますよ」
「ほう。じゃあ転校生以外で残ったのは……んー、と」
「校内じゃ、転校生か旧秀才か性格が変わった友人の三択ですね」
そう言って僕は三本指を立てた手を突き出した。
しかし四択中三択にしか絞れていないのだから、これは絞ったとは言えないな。単に、僕が知らない人たちという共通点があるだけだ。いや、それだけでも初期段階の絞り込み、というかジャンル分けにしちゃ十分か?
「じゃあ変わった友人はいつでも接触できるから今日は抜きだな」
神谷さんは僕の指の一本を折って、選択肢を二つにした。
「残ったのは転校生と旧秀才か……どうしましょう神谷さん」
「どっちにしても変わらないと思うがな、同じようなもんだろ。ただまあ、今日はその転校生忙しいんじゃないか? 転校二日目って、まだそのほとぼりが冷めやらぬ時期だろ」
「……となると旧秀才ですか」
旧秀才改め、現天才。
正直言うと、周りから天才扱いされているだけであって、本質は秀才なのかもしれない。
そんな可能性も切り捨てられない。
「どうした? もしかして渋ってるのか?」
僕の沈黙を不審に感じた神谷さんがそう声を掛けてくる。
「あ、いや大丈夫ですよ。天才君から行きますよ」
「おーそうか、分かった。じゃあ私は一応君のボディガードとして潜んでいるから」
「分かりました」
どこに潜んでるんだろうという疑問はあったが行かないでおいた。困ったとき助けてくれるならそれでいい。
「じゃあ僕は行きますんで、また」
「行ってらっしゃい」
大きな笑顔で大きく手を振る神谷さんに対し、僕もそれに少しでも答えようと出来るだけ大きな身振りで手を振り返し、それから自転車のペダルを漕ぎ出した。