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「じゃあ……七伍君はどうするんだ? このままこっちの世界に居続けるのか? こっちの世界のオリジナルとして生きていく気か? 君限っちゃそれは問題のない話だし、ともすれば目新しい新鮮なこっちの世界を愉快に感じるかもしれんが……」
「正直言うと、それもそれでどうかと思ってるんですよね」
「うん。軽い矛盾が生じているな、君の人間失格具合のせいで」
「人間失格とまで言いますか」
ちょっと響きがいいじゃん、とか思ってしまったが怒るべきなのだろうか。いや、怠い。なんでそんな面倒なことをしなくてはいけないのか、人間関係にわざわざ亀裂を入れるほど僕はドジっ子じゃあない。
それはともかく、僕がどうしたいかだ。もっともっと考え込む必要があるみたいだ。
僕があっちに未練が友達関係以外にないのは決定的だ。
僕がこっちの世界に興味がないというのは虚言だ。
それを言ったら嘘になる。
悩みどころだ。
「こういうのはどうだろうか、七伍君。少しの期間、こっちの世界を楽しんでみたらどうだ? というか少なくとも、そうでなくとも七伍君はこっちの世界に短期間だがいなくてはいけないのだからさ。ちょっと滞在期間が延びるだけと考えれば」
「ああ……それはいいですね。本当にいいと思います」
嫌味っぽい口調になっているかもしれないが、心底から良いと思っていた。ナイスアイデアだ、少しこっちの世界を楽しんでみるのもいいかもしれない。そして、その中で僕が帰る術を見つけていけたら……と。
「そういえばなんですけど、仮に僕が帰りたいと言っていたとしても、すんなりと帰れるというわけではなかったんでしょう?」
「そりゃ君次第さ」
神谷さんは不敵な笑みを浮かべてから「そうそう」と思い出したように切り出した。
「念を押して言っておくと、君を知っている人間だ」
「はぁ……そりゃそうですけど、せめて神様の存在が僕からして遠いのか近いのかだけ」
「近いよ。現状、近いね。だから君を召喚したんだろうよ」
「もっと言えますか?」
「当然、今の君の人間関係の中に組み込まれているよ」
「ありがとうございます」
無関係の人間でないと分かって安心した。これで少しは解決に向けて希望が持てる。
「戻ると決めたら滞在期間はなるべく短い方がいいな、君があっちの世界に戻って気が狂わないようにな」
「気が狂うってのはないと思いますけどね。精々、小さなギャップを感じる程度でしょ」
「冗談だよ。まあ早いに越したことはないってことさ、仕事が早い樫耶野七伍君」
「頑張ります、まずはそうですね――」
まずはこれから家に帰って。
「妹の名前呼びに赤面しないことから励みましょうか」