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1-(3)

 神様の使い……ねぇ。

 さながら天使とでも言うのだろうか……どう見てもそうは見えないのだが。

 だって背中から羽は生えていないし、頭の上に浮いているリングもないし、何より――神谷さんの纏う雰囲気は、それらの纏うそれとはかけ離れているし。

勿論、実際に天使なんて馬鹿げたものを、僕は今までの人生十七年間で残念ながら目にしたことがない。だからそれが実際に纏っている雰囲気なんて分からないのだが、あらゆる空想上のそれを見る限り、神谷さんのような絶対的で圧倒的な雰囲気は纏っていない。

もしかしたら本物の天使とはこういう雰囲気を纏うものなのかもしれない、と思ったが、そんなことは すぐに忘れた。んなわけないだろ。

「おや……やっぱり動じないんだな、七伍君は。大したもんだよ。しかもその様子だとそこまで疑っていないな――むしろ、信じているようだ。たまげたたまげた」

「疑いよりも信じている方が僕の中で比率が大きいことは認めますが、しかし動じないとうのは心外ですね、神谷さん。僕はこう見えて、きちんと人間していますよ」

「じゃあその証拠を見せてみろ」

「なっ……天使……!? そんな馬鹿げた話があってたまるか!!」

「……演技派なのかな? 君は」

「演技じゃなかったらどうしますか? 本気だったらどうしますか?」

「黙れ嘘吐きピノキオ法螺吹き狼少年」

 ううん……僕の演技もまだまだか。こういう状況からでも相手を騙せたら僕は嘘吐きとして最上級の位置にいると誇れるようになるんだろう……とりわけ世界一の嘘吐きを目指しているわけでもないけど。

「さて――それで、神様の使いであるところの神谷さんは、どうして僕のところへやって来たんですか? 僕――何をもたらすか分からない迷い込んできた不確定要素を排除するためには見えないんですよね」

「ご名答」

 難易度はイージーと言ったところだ。だって、そうだったら僕の目を醒まさせるなんてことしないだろうし。

「簡単な話さ。その私が仕える神様から離反してきたってだけ。もうやってらんないね、あんな奴の下で」

 神谷さんは侮辱的に吐き捨てた。

「上司に溜まった不満がリミットを超えたってところですか」

「そうだ。今回ばかりはやってられないと思ったんだよ。だから、君の下へってことさ」

「すみません、どうして僕のところに来たのかがまだ語られていないです。それじゃ神谷さんが離反してきただけの話ですよ」

「ん? ああー、すまんな。苛立ちが先行していた、済まない。えっとだな、要するに私は君と取り引きをしにきたんだよ。どうだ、納得したか?」

「その内容は?」

「それを言わなくちゃいけないのか? 少なくとも片方は――君のメリットは、もう分かっているはずだろう」

「そりゃ、まあ。概ね予想は」

 僕のメリット。

 それは、自分の元々居た世界に戻れるということ。

 そして――僕のデメリット。

「デメリットはなんですか?」

「あいつの矯正による、多少なりとも生じる手間とかかね。神様の矯正だよ。あいつの困った性格をどうかお前の手で矯正してやってくれないか? 七伍君を呼び出したのは紛れもないあいつなんだから、その呼び出したお前に説得されたら多少なりともマシになるだろうよ。勿論この取引に乗ってくれるなら私は全力を以て七伍君のサポートをしよう。君が元々の世界へ帰れるように、手を尽くそう」

「なるほど」

 悪くない条件だ――なんて、口が裂けても言えることじゃない。

 間違いなく軽率な発言に分類されるだろう。

 何せ、神様の相手をするのだ。二つ返事で引き受けるわけにはいかない。どんな得体の知れないものがそこに潜んでいるのか分からないのだから。

「それともう一つ、忘れていたことがあった。まだ言うべきことがあったぞ」

「なんですか? 僕のメリット、デメリット?」

「いや、どっちでもないんだ。補足というか、豆知識というか……あー、うん。違うな。君が世界に戻るために神様を探す上で、私のこれはデメリットになる」

 神様を探す?

 最初から会えるわけではないのか? 

「つまり、どういうことだってばよ」

「何故忍口調」

 神谷さんはくすりと笑ってから、その軽い調子のまま言う。

「私は、部分的に記憶喪失ってるんだよ」

 声を上げてツッコミを入れたい。

 絶対に軽い調子で言うべきではないだろ、それ。

 漫画だったらページの半分くらいの大きさのコマが使われるレベルの告白だった。


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