仮面の沈黙
今朝も新山は来てない。いつもザワザワしてる教室がピーンと張りつめた様に緊張感が支配している。
「先生!」一人の女子が立ち上がった。目が虚ろだ。いつのまにか窓を開け、手摺につかまって鉄棒さながらクルッとまわり視界から消えた。
「先生!」またひとり。
「先生!」
他の生徒は定期考査を受験してる。整然と。
窓の外に何があるんだ。見回りに来た教科担当に監督を任せ、教卓の椅子から右に5.6歩。眩しい光源が4階を突き刺していた。よく見ると、新山の青白い顔が見つめていた。
2.夢
ひとり薄笑いを浮かべていやがる奴。
「そんなに成績が良ければ、女子高でもいかがですか?」
「まあ!先生…冗談じゃありませんよ!うちの子は立派な…」
「いきますよ」自信を持って言いやがった。意地になるぞ!
「よし、じゃーさっそく都内、いや全国を当たってみましょう」
数日後、また三者面談。
「女子高ありましたよ」
「先生…主人とも相談しまして…」
「そう女子高に入って、1流女子大に入って、世界1の女優になるよ。ボク、ダイエットを成功させて親孝行するの」
3.カワイイコスネた様な顔をして、だけどよって来る。ステキな彼女。
大学教授の娘だって、フーン。
いつか彼女も嫁にいくんだなんて、オレも年をとったもんだ。
はじめてあった時は、何も感じなかったけど、いつしか彼女の魅力に惹かれていってしまった。オレはバカか?いや教師だ!
でも恋をして何が悪い。女房や子供がいたってよいではないか。純粋な恋が出来る事を誇りに思う。
「先生ー、明日の理科は理科室でやるんですか?」
「明日は教室」
「エー」
「やな顔するなよ」
プンプンしながら去っていった。
次の日の朝、駅前のファーストフードでハンバーガーを頬張っていると、彼女の姿が見えた。連れがいた。男だ!何てことだ!オレは追いかけてやろうという衝動に駆られた。
でも、あぁ…彼氏がいたっていいか…でも彼女はオレのモノだ、悔しい。
男と彼女が手をつなぎ出した。あぁもう、お仕舞。中年男が失恋をしてしまった。ワハハ、青春だ!
オレは極力この日、彼女を見ないようにした。だって、自分にも同い年の末娘がいるから。