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同じ天の下  作者: コトリ
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第7話『結末』-3




 山賊達はあちらこちらで捕縛され、広場は落ち着きを取り戻し始めている。しかし、荒れてしまった広場は、その朝の状態とはまるで変わってしまった。イオードが壇上から広場を見回した。

「ひどいなこれは…。おい、こいつらも縄に付けてくれ」

「は、はい!」

 町人が数人、壇に上がってワットが倒した男達を縛り始めた。広場のあちこちで、同じ事が起きている。

 ミントがラダから離れると、ラダは頭をかいた。

「俺はまた…一人でつっぱしっちまったみたいだな…」

 レイシスが、小さく笑いをこぼした。

「…せっかくの私の助言を聞かずにね」

「結局、全員巻き込まれるんだよな」

 イオードが、二人を見下ろして笑う。顔を合わせ、三人は同時に笑った。

「…いつものことだ」

 声が重なる。ナードとミントは口を開けた。

「オヤジ…!!」

「パパッ!!」

 ミントが、明るい顔で手を合わせた。三人のわだかまりが、まるで消えている。シャルロットも、見ればそれがわかった。

「みんな仲良くなったみたい!?」

 手を合わせ、ワットを見上げた。

「…ったく、人騒がせだな」

 息をつきながらも、ワットも笑っている。そのまま、ワットは山賊達を縛る町人に手を貸しに行った。――そういえば。

 ワットの背を眺め、シャルロットは少し前にワットに助けてもらった事を思い出した。あの時掴まれた肩の感触は、まだ残っている。

(…びっくりした。さっきは…ワットの顔見れなかったな…。あーいう時って、誰でもカッコよく見えるってホントだ)

 そう考えると、シャルロットは一人で笑ってしまった。

「やー、めっちゃくちゃになっちまったな!」

 パスが壇上から大きく広場を見渡した。ラダが、めちゃくちゃに散乱した投票用の木箱を拾い上げている。一つなど、箱すらも砕けて中身がバラバラになっていた。

「あーあー、酷いなこりゃ」

 抗争の前に壇上で司会者を務めていた男が、ラダのところに戻ってきた。

「あ、あの…、ラダさん。投票はどうしましょう。最終結果が出る前のことでしたが…もう一度、やり直しますか?」

 ラダはイオードとレイシスを振り返った。レイシスが、小さく笑った。

「…必要ないんじゃないかしら?」

 その目が、イオードに向く。イオードは、ラダを見た。

「どう思う?」

「問題は俺達だけじゃないだろう?」

 ニースが不思議そうにラダを見つめる。シャルロットも、同じ目でイオード達を見回した。イオードが、壇上から広場の町人達を見回した。町人達は、山賊達を縛っている者、怪我人を手当している者や、イオード達に注目を注いでいる者もいる。

「選んで貰おう」

 イオードの言葉に、ナードとミントが顔を見合わせた。

「皆、聞いてくれ!」

 広場を包んだイオードの声に、全体が静まり返った。「イオードさんだ」「無事で良かった」と、町人達が小さく騒ぎ立てる。

「折角投票してくれたのに、箱も中身もバラバラだ。投票をやり直しても良いが…」

 町人達が、ざわざわと顔を合わせる。

「私達は決心がついたのだ!皆が認めてくれるなら、私達は…この三人で町長を勤めようと思う!」

 町人達の騒ぎが、一瞬で大きくなった。

「えぇ!?」

 シャルロットとワット、パスも同時に声を上げ、顔を見合わせた。

「オヤジ!?」「パパ!?どういうこと!?」

 考える事は皆同じだ。ナードとミントも、思わず声を上げている。ニースは一人、ことの行方を見守っていた。

しかし、イオードはそれから先は何も言わなかった。ざわざわと話し合う町人達を見返すだけだ。すると、町人の一人が大きく声をあげた。

「やれよ!イオードさん!」

 その声に、広場は一度静まった。

「おれはもともとあんたら誰でも信用できてた」

 その声が通ると、別の声が上がる。

「ラダさんも!頑張って!」

「レイシスさん!初の女性町長ね!!」

 次第に声がどんどん重なり、聞き取れなくなる。シャルロットは胸が熱くなった。――すごい。こんなにも、皆に指示されるなんて。王家の人間でもない普通の人が――。

「新しい町長達にバンザーイ!」

「バンザーイ!!」

 イオード、ラダ、レイシスが顔を見合わせて笑った。

「レシーの助言は、必要だしな」

「あら、イオードがいなくちゃ話し合いはまとまらないわ」

「ラダがいないと、新しい案が浮かばない」

 シャルロットは隣のワットを見上げた。

「ってことは…、三人でやるってことよね…?…何だか楽しそう!」

「ま、いいんじゃねぇか?町人達も納得してるみてぇだし」

「はー…。妙なことになったなぁ」

 パスが腕を組んで息を吐いた。

「シャルロット」

 振り返ると、ニースがいつのまにかそばに立っていた。

「はい」

「ディルート殿からの書状は持っているか?」

「あ!はい。ま、待って下さいね…」

 慌てて、ポシェットの中の書状を取り出しす。書状は、手に収まるほどの金属の筒状の入れものに入っている。紐で封された後に、砂の王国の紋章である獅子と太陽をかたどったエンブレムで留められたものだ。

 ニースが、町人に手を振っているイオード達に声をかけた。



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