第7話『結末』-2
「やぁっと追いついた!!」
「パス!?」
パスに腕を掴まれ、ミントが反射的に振り返った。
やっと捕まえた。人ごみの中必死に走り回り、すでに壇は目の前だった。ミントがパスの腕を払った。
「離して!パパが…!」
「お前こんな混乱の中で人なんてさがせると……あ?!」
言いかけで、パスは壇上にいるラダが目に入った。その隙に、ミントが再び先に走っていってしまった。
「ジジイ!殺されてぇのか!」
壇上には、十人前後の山賊がいた。そのうちの一人に胸ぐらを掴まれても、ラダはひるまなかった。
「貴様らなんぞにやられるか!」
「やめて!」
同時に、ラダを掴む男にレイシスが腕を離そうと飛びついた。
「なっ何だババア!」
「レ、レシー?!」
「ふざけないでラダ!本当に昔っから口だけは一人前な事を言って……アッ!!」
言葉の途中で頬を叩かれ、レイシスはその勢いで後ろに倒れこんだ。
「レシー!!」
「うるせぇババアだな。…いいだろう」
男がラダをレイシスに転がした。周りの山賊達は、ニヤニヤと見て笑っているだけだ。男がゆっくりと腰の剣を抜いた。
「二人まとめて殺してやるよ」
一瞬、ラダとレイシスは体がこわばったが、その視線はすぐに剣から男の背後に移った。その見開いた目に、男が気がついたが――。
ギンッ!!
気がついたときには、自分の手元の剣が遠くに飛ばされていた。
「…んだぁ?」
怪訝な目で、後ろを振り返る。レイシスが、わずかに笑った。
「…昔から…いつもイオードに助けて貰っていた」
背後で剣を構えていたイオードに、男が周囲の仲間を見回した。わずかに、頭にきたようだ。
「ふざけんなよジジイ…!おい、やっちまえ!」
周囲の山賊が二人、剣を握って前に出た。剣を握りなおし、イオードはそれに応戦した。しかし、若い男が二人相手では到底敵わない。ニ、三度剣を受けただけで、イオードは剣を弾かれた。
「イオード!!」
レイシスの声と同時に、イオードが弾かれた勢いでレイシスとラダの前に倒れこんだ。すばやく、レイシスがイオードの肩を支えた。イオードは小さく舌打ちした。
「…ラダじゃないが格好はつけるものじゃないな…!やっぱり歳にはかなわねぇ…!!」
――囲まれた。山賊達が、自分達を見下ろして笑っている。三人は強く手を握り合った。――が。
「そうでもねぇよ」
まったく別の男の声に、山賊の一人が振り返った。が、遅かった。振り返った顔に、走ったこぶしがめりこんだ。
男は声も無く吹っ飛び、壇上の隅に転がった。
「久しぶりに見直したぜ…!!」
「ナード!」
思わずイオードが声を上げた。こぶしを合わせ、ナードは山賊達から目を離さなかった。その顔には、余裕など微塵も無い。ここにあがれば、どういう目にあうかくらい判っている――。
「何だテメェは!!殺されてぇのか!!」
「ナード!!逃げ――…」
「それはこっちのセリフだ」
言葉の途中で、イオードは振り返った。また別の男が、壇上に飛び乗ったのが、視界に入ったのだ。しかしそれは、山賊達も同じだった様だ。
「てめーも死にたくなかったら……ぶっ!!」
言葉の途中で、男のあごに蹴りが入った。男が、そのまま後ろに吹っ飛ぶ。
「おっお前は…!」
「揃ってじーさん囲って、てめーら趣味ワリィな」
ワットは、山賊を鼻で笑った。多勢に無勢も程がある。
「て、てめぇ…!!」
ワットの態度に、山賊達がほぼ全員剣を抜いてワットを睨んだ。
「へぇ、罵声だけは上等だな」
「野郎っ!!」
「お、おい!!」
相手は七、八人はいる。ワットが身構えると、ナードは焦って加勢に入ろうとしたが、後ろから何かに抱きつかれて足が止まった。
「ナード!無事だったのね!」
「ミ、ミント!?」
ミントが、背中に抱きついていた。振り返ると、同時にパスが壇に上がっているのが目に入った。しかし、今はそれどころではない。
「は、離せ!今それどころじゃ…」
目の前で、ワットが山賊達と戦っているのが見える。しかし、ミントがしっかり抱きついてしまい、頭を掴んでも離れようとしなかった。ほぼ同時に、ニースが肩で息をしながら壇に上がってきた。
「良かった…。無事だったか…!」
わずかに見開いた目で、周囲を見回している。
「ニース殿!」
イオードが立ち上がると、ミントがそのそばにラダを発見し、今度はラダに飛びついた。
「パパ!!」
勢いに巻き込まれそうになったイオードとレイシスが素早く身を引いた。ミントの手が離れたナードは、すぐにワットを振り返った。しかし、同時にその足も止まった。既に、そこに立っているのはワット一人だったからだ。
「なっ…!」
口を開いても、言葉は出てこなかった。あれだけの人数を、たった一人で?
背後から、ニースのため息が漏れた。
「ワット、それくらいにしておけ」
「…甘いな、ニースは」
わずかにニースを睨み、ワットが足元の男の腹を軽く踏み、戻ってきた。男達は、うめくだけで立ち上がれない様子だ。ナードやイオード達が言葉を失う中、シャルロットがようやくその場に到着した。
「ハァッ…ハァッ!やっと追いついた!ワット足速すぎ!!ハァッハァッ…」
肩で息をしつつ、何とか壇上によじ登る。それに、ワットが手を貸した。
「シャルロットもあの距離から戻ってきたにしては早いじゃねーか」
笑ってシャルロットの頭を撫でると、その後ろからは、シャルロットと一緒に助けた赤毛のポニーテールの女性が涼しい顔でそこに立っていた。
周囲は、ようやく落ち着きを見せ始めていた。