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snow slow sweet magic

作者: 九榧むつき

実際にあった出来事(提供者あり)を恋愛話にしてみました。

登場人物は全てフィクションです。


 誰が最初に言い出したんだっけ。


『季節外れの何かに祈れば、奇跡が起こるんだって』

 そんな馬鹿げたおまじない…て、その時は皆で笑った。勿論、あたしも笑っていた。




 それは緩やかな魔法

 それは雪のような魔法

 それはとてもとても甘い

 恋する想いが届く魔法

 そんな魔法があったらいい─




「…でさぁ、マキの意中って正直誰なの?」

 いきなり話を振られても。あたし、山田真黄(やまだまき)は苦笑いする他ない。

「ダメよ。きいちゃんにはきぃちゃんの事情てものがあるの。」

 あたしを“きいちゃん”と呼んだのは、幼稚園以来の幼馴染みで、あたしが“みどりちゃん”と呼ぶ、貴科翠子(たかしなすいこ)

 その前に喋っていたのは高校からの友、荒城李紗(あらきりさ)だ。


  キィン…コォン…


 予鈴が鳴った。

 お喋りは置いておいて、あたし達も各々の教室と席に戻る。


 着席して教室が落ち着いた頃、気付かれないようにそっと、あたしは斜め三つ前の席に目を向けた。社会の授業はもう始まっている。

 その席に座る彼は、真面目に授業を受けていた。

「………。」

 あたしにだって、本当は秘かに想っている男子がいるのだ。


 伊野渕くん…。


 そっとあたしは呟いた。

 伊野渕壮大(いのぶちまさひろ)くん。本当は中学も一緒だったのだ…けれど。高校に入って直ぐの頃からかな。不意に気になって、それ以来ずっと想っている。


 きっとこれは恋なのだろう。曖昧すぎてよくわからないけれど、胸がドキドキするから。

 彼をじっと見つめていたら何だか…恥ずかしくなって、慌ててあたしは顔を俯けた。


 どうせ真ん中で割れる名前なら“真央”のような、カッコいい名前が良かったよな。真っ黄色…なんて言われる…名前じゃなくて。

 名前の事でからかわれた事を思い出して、あたしは苦虫を噛み潰した。

 彼を思うと付いて回る、あたしの苦い苦い記憶。

 ああ。李紗のようにはっきりと言える、男勝りな性格が少しでもあれば、あたしの人生はきっと違っていたのに。

 そう…したら、もう少し堂々と告白出来るのに。


 コ

   ク

     ハ

       ク

 “告白”?

 自分で思って何だけど、その二文字に顔から火が出そうだった。

 ヤダ、そんなの、恥ずかしくて絶対出来ない。

 誰にも気付かれ無いように、と思って小さく頭を振る。こびりついた赤面を払い落とすようにそれはもう必死で。

 そんなことをしていて不意に、大声を出されたものだから、あたしの心臓はそれこそ口から飛び出る程に驚いて跳ね上がった。


「雪だ!?雪、降ってる!?」

 それはいきなり降って湧いた、誰かの叫び声だった。

 他にも窓の外を見たコが口々に「雪だ」「雪だ」と騒ぎ出す。先生までもが身を乗り出して窓の外を眺めた。


 ウソ。マジで? 周りのランキチ騒動のお陰で、あたしの妄想テンションは一気に下がった。平静に戻ったあたしはちらりと窓の方を見た。

 ふわりふわりと舞い飛ぶ姿は、雪のように白くとも余りに軽すぎる。

 第一雪が降るにはまだまだ暑いくらいの気温だ。

「ほらっ、授業続けるぞっ。皆、席に戻れっ。」

 先生の大声で渋々騒いでいた連中も、自分の席へと戻っていった。


 あたしの頭の中にはまだ、ふわりふわりと飛ぶ白い雪もどきが宙を舞っている。

『季節外れの何かに祈れば奇跡が起こるんだって』

 だってあれは雪じゃないじゃない。だのに何故だろう、頭から離れない。

 じゃあ何?

 暫し考えて、あたしは結論を出した。

「灰…じゃないの?」

 一人呟いて。けれど誰の耳にも届いていなかったみたいだ。

 そして何事も無かったように授業へと戻る。それでもまだ外へ確かめに行きたい連中はいるらしく、ウズウズしていた。

 そして伊野渕くんも…。






 終了のチャイムが鳴る。授業は終わった。

 興味津々だった男子は直ぐ様、外へと繰り出して行く。その中に伊野渕くんの姿もあった。

 ああ。やっぱり行くんだな。あたしは他の男子が羨ましく見えた。

「マーキ、何見てんの?」

「李紗。…何でもないよ。」

 照れ隠し。そっぽを向いて視線を落とす。手元の教科書に触れて片付けるあたしに、今度はみどりちゃんが声を掛けてきた。

「きいちゃん、そろそろ繭ちゃんを迎えに行こうと思うんだけれど。」

「あの子馬を?」

 呼び名は違えど、二人が指しているのは同一人物だ。向真裕香(こうまゆか)。李紗が子馬と呼ぶのはいつもポニーテールをしているからで、みどりちゃんが云うには、彼女は繭に籠っているそうだ。

 そしてあたしはどういう訳か、彼女に懐かれているらしい。

「うん、いいよ。」

「あたしはパスね。」

 李紗がゴメン、と手を立てて謝る。

 彼女が苦手なのを知っているので、あたしも直ぐに了承する。別にぞろぞろ皆で行く必要も無いだろう。

「じゃ、行こか。」

「うん。」

 あたしとみどりちゃんは繭に籠る眠り姫を起こしに保健室へと向かった。




 何事もなく。二人で廊下を進むと偶然、保健室の先生とばったり会ってしまった。

「あの、向真さんは…」

 先生は笑って答えてくれた。

「もうそろそろ起きてくる頃だと思うわよ。」

「それより先生、先刻雪が降っているの、見ました?」

 みどりちゃんが意外にも先刻の雪の話題を持ち出した。

「へえ、そうなの?」

 先生の眼差しがあたしに確認を求めてくる。小さく溜め息を吐き、あたしは答えた。

「灰かなんかだと、思いますけど。」

 少しニヤニヤしながらも、あたし達を見る。

「じゃあ、確かめに行きましょう。」

 楽しげに踵を返し、気付けば有無を言わさず付いて来さされた。

「なんで先生に話したの。」

「さあ?」

 首を傾げ、話した張本人のみどりちゃんは、天然の顔でボケた。あたしは苛立ちつつも突っ込み処が掴めなくて、小さく息を吐く。

「伊野渕くんが居てるかもしれないわね。」

 クスリと笑うみどりちゃんに、あたしはまたもや心臓が…今度は止まりそうだった。

「何処の畑の焚き火かしら。文句を言わなくちゃ。」

 先生が嬉しそうに言うのはきっと、それを口実に畑の主から実り物を頂く寸法なのだろう。呆れた話だ、とあたしは思う。


 外に出ると、先程の雪もどきは白い粉状態で、うっすらと積もっていた。相変わらず吹けばすぐ飛ぶ軽さで、あたし達の周りを舞っている。

 保健室へ戻り、その事を繭ちゃん─向真さんに話すと。

「死の灰ね。」

 にべもなく言い切った。相変わらず彼女の思考センスは、あたしには良くわからない。

 みどりちゃんはみどりちゃんで、心酔した様に彼女を見つめている。

「繭ちゃん…て、やっぱり綺麗…」

「それはどうも。貴科さん。」

 ぶっきらぼうな言い様だが、名前を呼んでいるのでみどりちゃんの事を気に入っているのはわかる。

 苦笑いであたしは目の前の二人を見た。



 向真さんは、独特な人だ。人の騒がしい所にいると、意識がささくれて気分が悪くなり、立っていられなくなる体質らしい。その所為でもっぱら保健室か図書室登校なのだ、彼女は。

「繭ちゃんの顔色、朝より良くなってて良かったぁ。」

 ぽやんと、みどりちゃんが喜んだ。言われた彼女も満更でもなく、嬉しそうに微笑んで、「有難う」と言葉を返す。こうしている限り、ごく普通の…あたし達と同じ女子高生、なんだけどな。それを思うと少し淋しくなってしまう。

「山田さんも来てくれて有難う。」

 柔らかい笑みを添えて。実はこの笑顔、あたしとみどりちゃんぐらいしか多分見た事がない。他の生徒でもごく僅かだろう。何せ、名前で呼ばない相手には、氷面のような無表情の顔しか見せないのだから。

 そう言えば。ふと思い出して、あたしは向真さんに尋ねた。

「向真さん…て、おまじないの言葉にも詳しいよね?」

 彼女の澄んだ瞳が今度はあたしを捉える。あたしは反射的にごくりと唾を飲み込んだ。

「ええ。どれが聞きたいのかしら、山田さん。」

 ………。息をゆっくり吐いて思い出す。あたしの中に流れる言葉。もしくはメッセージ、なのか。

「『季節外れの何かに祈れば、奇跡が起こる…』って言葉なんだけど、知らないかな。」

 彼女の眸が爛々と輝いた。

 彼女は壮絶な微笑をあたしに向け、更に笑顔でこう答えた。


「季節外れの“何か”があればそれは奇跡ね、と言ったのよ。」

 うわっ、あちゃぁ…。あたし今、もしかして凄く彼女に失礼な事をしたんだろうか。張り付くように、引き攣った笑みがあたしの口元から剥がれない。

「でも『季節外れの何かに祈れば、奇跡が起こる…』、魔法にしてくれるなんて。やっぱり素敵だわ、山田さん。」

 不敵に笑う。向真さんの笑顔はとても、綺麗で恐ろしい…。

「私、もう一眠りするわ。外界が騒がしい様だから。」

 放課後また迎えに来て、と眠り姫の彼女は再び繭に籠もってしまわれた。

 あたしもみどりちゃんもお互い顔を見合わせて、クスッと笑う。そう、それでも彼女と話せるのは楽しい。そう思う。

「行こっか。」

「うん。」

 あたし達は静かに扉を閉めて、保健室を後にした。






 授業も終えてHRも終えて、みどりちゃんは向真さんを迎えに保健室へ。李紗は学級委員の役員会だとぼやきながら会議室へ。

 あたしは部活がてら、顧問の先生を捜しにそこいらを彷徨(うろつ)いていた。

「あ、先生~、」

 見っけ。幸先いいな、と浮かれてるあたしを他所に二人で談笑している。こっちには全く気付いていないらしい。


「…だから、あり得ない話じゃないだろ。」

「そう言われてもなあ。」

 立ち話で、男二人が和気藹々とお喋りをする。何とも似合わない光景の様に思えた。

「先生、何の話なんですか。」

「…っと、ああ。山田か。」

 先に気付いたのは、生物で顧問の外川先生。もう一人は、雪の騒動の時の社会の授業をしていた羽津見先生。

「ニュートリノの話をしていたんだ。山田には興味無いだろうな。」

 確かにその通りだけど。微妙に複雑な表情で、あたしは先生二人を見上げた。

「そう言えば、お前のクラスからアレ、見えたんだってな。」

 外川先生が言い、羽津見先生が苦笑する。

 あたしは首を傾げた。あれ。見たっけ?そんなもの。

「俺の授業中に舞っていた奴だよ。」

 羽津見先生のフォローにあたしも漸く納得する。ああ、あれの事か。

「実はさ…俺の仕業なんだよ。」

 驚いた? と外川先生。おどけた様子で聞き返す。どちらにせよ、実感のわかないあたしには、驚きよりも正直呆れが先に立った。

「山田はクールだなあ。」

 どちらとも無く。あたしの表情を見て、先生達は笑った。

「……………。」

 黙ったままのあたしに、羽津見先生の独壇場が始まった。勝手に事の顛末をアクション加えて話してくる。別にどうでも…よかったけど、まあ一応あたしは聞いた。

「実験用で栽培していたトウモロコシの皮なんだ。」

 何故ああなったか…は、収穫終えた株を抜いていて、その乾いた皮が擦れて剥がれ、風に持っていかれて舞い上がった、という。至極単純なもの。

「まだそこいらを飛んでいるかもしれないな。」

 ははは、と明るく笑う。人騒がせな事件を起こした張本人としては、暢気過ぎだと思う。それに。

「…実験用?」

 妙な所で引っ掛かってしまった。トウモロコシを使った実験なんてしたかなぁ。

「山田、お前もポップコーン食べただろ。」

 怪訝な顔のあたしに、外川先生が述べた。頭の隅にある記憶を手繰り寄せ、思い出す。

「あ、」

 あった。あれって実験?だったのか。




 あたしの合点がいった所で、先生達との談話は御開きとなった。それぞれに別れて、あたしは一人、その場に残った。


 部活はもう済ませたし、後は…どうしようか。

 顔を上げて、目の前の青空にふと、思う。

 まだ舞っているのかな。 見えはしないけど、あの雪もどき。

 あたしはふぅ、と息を吐いた。


『季節外れの何かに…祈れば奇跡が起こる。』


 本当は雪じゃないけど。季節外れも関係ないけど。

 パンパンと柏手二つ。雪が舞っていた時を思い出して、あたしは青い空に向かって何気なしに祈った。

「願わくは、伊野渕くんと…。」

 …無言で唱える。どうせ奇跡は起きないと、分かっている。

 でも。もしかして。

 願を掛けてゆっくりと、目を開けたあたしの目線に彼の姿が映り込んだ。他の誰かに手を振ってる。

「……………。」

 偶然か、必然か。これこそ奇跡の匂いがする。

 あたしの意識は彼の方へとかぶり付いた。

「………ぁ…。」

 ちょっと待て。今なんて言った!?

 少し遠かったけど、あたしの耳は敏く『じゃあな』か『またな』の別れの挨拶を聞いていた。他の子達の遠退く声と足音も。他には誰もいない。


  今ならいけるよ。


 祈ったあたしが背中を押す。奇跡なんて滅多に起きない。チャンスは一度しかないんだからっ。

 目の前に伊野渕くん。 行けっ!あたしっ!

「あのっ!」

 あたしは思い切って声を出した。

 彼が立ち止まって振り向いてくれる。

「貴方が好きですっ!」

「後にしてくれ。」

 言ったっ!遂に言ってしまったぁっ…と、舞い上がる暇もなく。あたしに間髪入れずに返された言葉は、即座に思考回路をズタズタにした。


  あ……あ…あたし、フられたの?


 走り去る彼の後ろ姿を見て、笑うとも泣くともつかない、複雑怪奇に歪んだ表情を浮かべた、バカで愚かな思い上がりのあたし。

 あたしは暫く、その場に氷付けになってしまった。無常に暮れ行く空を見ながら。






 翌日。

「おはよーっ、マーキ。」

「おはよ、きいちゃん。」

「…うん、お早う。」

 いつもの朝。いつもと変わらぬ朝。いつもと…いつもどおりになんかいられない、あたしの心。あれから、重くどん底にまでめり込む傷ついた心を抱えて家に帰ったものの、一晩経っても、あたしのやさぐれた…か弱き乙女心は、未だささくれ立ったままだ。


 それでも諦めきれない、意地汚さが自ずと彼の姿を追う。

 もう、希望は無いの。諦めなきゃダメなの。あたしのバカバカバカバカっ。

 そんな事をして、何度もちらちらと彼を見てしまった。

「マキ、大丈夫?」

 だ…大丈夫じゃない。けどあたしはなんとか笑顔を取り繕って応えた。

「…うん。」

 ダメだ、やっぱり泣きそう。

 そんなあたしを李紗が抱き抱える。

「マキ、辛かったら言ってよ。いつでも相談に乗るからさ。」

 敢えて何があったのか、聞かないでくれる。そんな気遣いが嬉しい。

「きいちゃん、繭ちゃんと今度展示即売会に行く服、どれがいいと思う?」

「翠子ってば。」

 相変わらずマイペースなみどりちゃんに李紗が腹をたてる。でも変わらない、いつもと同じみどりちゃんの様子に、あたしはホッとし泣きながら笑った。

「きいちゃん好みのアクセサリー、あったら買ってくるね。」

 ほわっと笑う。ああ、この笑顔。みどりちゃんの笑顔にあたしの心もほんわか和む。


 そうだよね。あたしもいつまでも沈んでいる訳にはいかないよね。

 無意識にちら、と目が彼の方を向く。あれ?

 彼が…見てた。あたし?を。


「………っっ!!」

 素っ頓狂な声をあげる寸前、慌ててあたしは両手で口を塞いだ。勿論、李紗もみどりちゃんも怪訝な目であたしを見て、あたしのその視線の先…彼、伊野渕くんの方へと振り返る。




 伊野渕くんは、何故かあたし達の方へと近付いた。

「ええと…確か山田さん?だよね。昨日、校舎裏の渡り廊下で会ったの。」

「そうなの?マキ。」

 き…聞かないでぇぇ。聞かれても、心臓がバクバクし過ぎて応えられる状況じゃない。

 あたしは、ただただ目を白黒させた。

「ほら、放課後、俺に大声で言ってたっしょ。あれって俺に告白してくれたんだよね?」

 ギャーっ!! やめてーっ!!

 のっけにそんなことを言わないでっ。しかも大衆の面前でっ。

 顔から火が吹き出しそうな程恥ずかしい。あまりに恥ずかし過ぎて、目眩を起こしそう。

 このままぶっ倒れて現実逃避…してしまいたかった。

「あの時はどうしても雪の正体が気になってさ…今でもあの告白って有効かな。」

 少し、俯きながら上目遣いであたしを見ている。

 彼の言っていることがわからない。真っ赤な顔で硬直するあたしに、今度は真正面に向き直って、真面目な顔で彼は言った。

「OKです。彼氏でも何でも。こんな俺で良ければ。」

 ほんのりと彼がはにかんでいるのが見えた。李紗やみどりちゃん、そして他のクラスメイトからも祝福の声が聞こえる。

 あたしの脳ミソだけが現状についていけなかった。


 今、なんて?


 あたし、フラれて…ない!?

 奇跡…その二文字があたしの脳裡に閃いた。

 ウソ…みたい。ううん、嘘じゃない。あのおまじない…おまじない、本当になったんだ。奇跡は起こったんだ。


 今度は本当に嬉し泣き。あたしは泣きじゃくりながら、何度も頷いた。

「マキもOKみたいよ、伊野渕くん。」

 淡々とあたしの気持ちを代弁してくれる李紗。お互い納得した所で、今日の授業が始まった。






 休み時間、李紗があたしに耳打ちをした。

「ねぇマキ、あんなイノシシの何処がいいのさ。」

 イノシンと言うのは、一部の男子や女子の間で呼ばれている、伊野渕くんのアダ名だ。

 あたしも知ってはいるが、まさか李紗の口から出るとは思わなかった。

「へ?何にでも真っ直ぐな所だけど…」

 よく考えたらイノシシは言い過ぎだよね。失礼しちゃう。

「それは言い過ぎよ、りさちゃん。伊野渕くんはちょっと他に目が行かなくて、飽きっぽいだけなんだから。」

「翠子…あんたそれ酷すぎ。」

 李紗の突っ込みに惚けるみどりちゃん。今やあたしの目には馴染みになった、二人の掛け合いだ。


 そして当の伊野渕くんは、あたし…の前を通り過ぎ、気になるそいつへまっしぐら。

 流石にあたしも苦笑いで、引きつる顔を隠せなかった。

「ほら。マキ、今からでも遅くないよ? あたしがもっといい男、見つけてあげるからさあ。」

「あらあら伊野渕くん。何処まで行くのかしら。」

 二人交互に声をあげる。

 遠くになった彼の後ろ姿に、あたしは想いを馳せて、二人に負けないよう、思い切り叫んだ。

「いいもんっ、次の季節外れに祈ってやるもんっ」

 負けじと胸を張って、あたしは走り出した。






 雪のように緩やかで甘い、恋の魔法。


 本当に叶えてくれるのは…。


   ─ 完 ─

読んで下さり有難うございました。

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