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これは恋なんだけど  作者: 空谷陸夢
Story 3. 自暴自棄な認知
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確かに、俺の知る限りでも宮瀬の友達は、女よりも男の方が多い気がする。まあ、男の友達なんていうのはバイト仲間のことを言うんだが。もともと、俺たちのバイト先は女よりも男の方が多かったし、それはそれでしょうがないかなとも思ってる。今はその中に例のカフェでの『お友達』も仲間入りしてるみたいだけど。

女の友達は、宮瀬からは、ほんとに一人二人しか名前が出てこない。その中でも特に一人の友達と仲が良いらしく、よく俺たちのことも話してるって前に言っていた。俺たちも、その子のことはよく聞いていて、何だか会ったこともないのに、既に友達のような感覚になってるくらいだ。



「ほら、友達少なくても、代わりに仲良くなったらすごい仲良くなるから」



宮瀬はそう言って、へらへらと笑う。

それこそ、俺が困ってる要因だ。

宮瀬は、たぶん、一度相手を信頼して仲良くなると、ほんとに仲良くなる。大学二回になるまでそんなに喋る方でもなかった俺に、仲良くなってからは、一番先に彼氏との愚痴や相談までしてきたくらいだ。たぶん、今じゃ宮瀬の大学の友達の誰よりも、バイト仲間の誰よりも、俺は宮瀬に近い。

宮瀬の愚痴を聞くっていうだけが理由じゃなくて、俺と宮瀬は似てるからだ。考え方や人との接し方なんかが、驚くほど似ている。正直、こんなに似てるやつがいるんだってびびったことがある。それは、宮瀬も同じらしい。


だから、嫌なんだ。俺も人見知りだけど、仲良くなったやつとはとことん仲良くなるし、そいつを信頼する。宮瀬の場合、今その位置にいるのは俺だろうけど、そこに例の『お友達』がくると思うと、なんかすごくモヤモヤする。自分勝手だとは分かっているけど。他のバイト仲間と宮瀬が喋ってても大丈夫なのに、『お友達』はなんか嫌だ。

何の気なしに部屋の隅にあるテレビを見る振りをしながら、そんなことを考える。ほら、やっぱり宮瀬はいない方がよかった。



「古賀さーん?」



宮瀬の言葉にはっとして、平静を装ってそっちを向く。



「なに?」



顔を向けた俺に宮瀬が何か言おうと口を開いたとき、また、メールを告げるバイブがなった。



「コーラとって」



テーブルの上にあった携帯をさっと手にとり、宮瀬は俺の隣にあるコーラのペットボトルを指差した。



「ん」



手渡しでペットボトルを宮瀬に渡すと、宮瀬の手の中で未だに携帯が震えているのが目に入った。



「メールじゃねーの?」

「ん? ああ、うん、違う」



ペットボトルを受け取りながら、宮瀬は口の端を上げて笑った。

ああ、そういうこと。



「彼氏から?」



俺の代わりに、谷原が質問する。



「うん」



俺と谷原の考えはどんぴしゃだったらしく、宮瀬はぽいっと携帯を床に放って、コップにコーラを注ぎ入れる。



「出ないの?」

「出ないよ。あとで『遊んでる』ってメールする」



谷原の質問に宮瀬は即答して、コーラをコップに並々と注いだ。谷原はその答えに苦笑して、ピザを口にした。

俺は注ぎ終わった宮瀬からペットボトルを受け取り、自分のコップに入れながら考える。彼氏の方も、もうそろそろ学んだらいいのに。

宮瀬は彼氏からの電話やメールを嫌がっている。『あっちでの生活なんて聞かされても面白いわけない』って、前に宮瀬が言っていた。そりゃそうだ。本来だったら、宮瀬も今頃日本にはいなかったんだから。それくらい、分かってやってもよさそうなのに。

しばらくして、電話は止まり、その後すぐにメールが来た。俺も谷原も、彼氏からだと思って無視してたけど、メールを開いた宮瀬が小さく「違った」と漏らしたことで、二人して宮瀬の方を向いた。



「先生?」

「うん。っていうか、その先生って呼ぶのやめて。笑えるから」



谷原の問いにすんなり頷いた宮瀬が少し笑ってそう口にする。いや、俺らからしたら先生は先生なんだけど。

宮瀬は、さっきの電話とは違い、さっさと返信画面を開いてメールを打っている。

こんな宮瀬を見て、俺はまた不安に思ってしまう。宮瀬の頼る相手が、俺だけだといいのにと、自分勝手な考えが生まれてしまう。俺はただの宮瀬の友達で、彼氏でもなんでもなくて、それでも、今はたぶん彼氏よりも宮瀬に近い存在だと思っている。



「お前、そんな早くメール返してたら、彼氏泣くぞ」



自分の考えなんてけっして言わずに、宮瀬にそう言ってやる。そうしたら、宮瀬は、少し困った顔で笑った。






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