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確かに、俺の知る限りでも宮瀬の友達は、女よりも男の方が多い気がする。まあ、男の友達なんていうのはバイト仲間のことを言うんだが。もともと、俺たちのバイト先は女よりも男の方が多かったし、それはそれでしょうがないかなとも思ってる。今はその中に例のカフェでの『お友達』も仲間入りしてるみたいだけど。
女の友達は、宮瀬からは、ほんとに一人二人しか名前が出てこない。その中でも特に一人の友達と仲が良いらしく、よく俺たちのことも話してるって前に言っていた。俺たちも、その子のことはよく聞いていて、何だか会ったこともないのに、既に友達のような感覚になってるくらいだ。
「ほら、友達少なくても、代わりに仲良くなったらすごい仲良くなるから」
宮瀬はそう言って、へらへらと笑う。
それこそ、俺が困ってる要因だ。
宮瀬は、たぶん、一度相手を信頼して仲良くなると、ほんとに仲良くなる。大学二回になるまでそんなに喋る方でもなかった俺に、仲良くなってからは、一番先に彼氏との愚痴や相談までしてきたくらいだ。たぶん、今じゃ宮瀬の大学の友達の誰よりも、バイト仲間の誰よりも、俺は宮瀬に近い。
宮瀬の愚痴を聞くっていうだけが理由じゃなくて、俺と宮瀬は似てるからだ。考え方や人との接し方なんかが、驚くほど似ている。正直、こんなに似てるやつがいるんだってびびったことがある。それは、宮瀬も同じらしい。
だから、嫌なんだ。俺も人見知りだけど、仲良くなったやつとはとことん仲良くなるし、そいつを信頼する。宮瀬の場合、今その位置にいるのは俺だろうけど、そこに例の『お友達』がくると思うと、なんかすごくモヤモヤする。自分勝手だとは分かっているけど。他のバイト仲間と宮瀬が喋ってても大丈夫なのに、『お友達』はなんか嫌だ。
何の気なしに部屋の隅にあるテレビを見る振りをしながら、そんなことを考える。ほら、やっぱり宮瀬はいない方がよかった。
「古賀さーん?」
宮瀬の言葉にはっとして、平静を装ってそっちを向く。
「なに?」
顔を向けた俺に宮瀬が何か言おうと口を開いたとき、また、メールを告げるバイブがなった。
「コーラとって」
テーブルの上にあった携帯をさっと手にとり、宮瀬は俺の隣にあるコーラのペットボトルを指差した。
「ん」
手渡しでペットボトルを宮瀬に渡すと、宮瀬の手の中で未だに携帯が震えているのが目に入った。
「メールじゃねーの?」
「ん? ああ、うん、違う」
ペットボトルを受け取りながら、宮瀬は口の端を上げて笑った。
ああ、そういうこと。
「彼氏から?」
俺の代わりに、谷原が質問する。
「うん」
俺と谷原の考えはどんぴしゃだったらしく、宮瀬はぽいっと携帯を床に放って、コップにコーラを注ぎ入れる。
「出ないの?」
「出ないよ。あとで『遊んでる』ってメールする」
谷原の質問に宮瀬は即答して、コーラをコップに並々と注いだ。谷原はその答えに苦笑して、ピザを口にした。
俺は注ぎ終わった宮瀬からペットボトルを受け取り、自分のコップに入れながら考える。彼氏の方も、もうそろそろ学んだらいいのに。
宮瀬は彼氏からの電話やメールを嫌がっている。『あっちでの生活なんて聞かされても面白いわけない』って、前に宮瀬が言っていた。そりゃそうだ。本来だったら、宮瀬も今頃日本にはいなかったんだから。それくらい、分かってやってもよさそうなのに。
しばらくして、電話は止まり、その後すぐにメールが来た。俺も谷原も、彼氏からだと思って無視してたけど、メールを開いた宮瀬が小さく「違った」と漏らしたことで、二人して宮瀬の方を向いた。
「先生?」
「うん。っていうか、その先生って呼ぶのやめて。笑えるから」
谷原の問いにすんなり頷いた宮瀬が少し笑ってそう口にする。いや、俺らからしたら先生は先生なんだけど。
宮瀬は、さっきの電話とは違い、さっさと返信画面を開いてメールを打っている。
こんな宮瀬を見て、俺はまた不安に思ってしまう。宮瀬の頼る相手が、俺だけだといいのにと、自分勝手な考えが生まれてしまう。俺はただの宮瀬の友達で、彼氏でもなんでもなくて、それでも、今はたぶん彼氏よりも宮瀬に近い存在だと思っている。
「お前、そんな早くメール返してたら、彼氏泣くぞ」
自分の考えなんてけっして言わずに、宮瀬にそう言ってやる。そうしたら、宮瀬は、少し困った顔で笑った。