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これは恋なんだけど  作者: 空谷陸夢
Extra Story
104/111

あるお友達のおせっかい1

Story. 14前後のお話。





「お前って、ほんっと、意味分かんねー」



月曜日の昼休み、カフェテリアで、松木が吠えた。



「もう知らん!」



そう続けて、目を丸くしている古賀と呆れている俺を置いて、カフェテリアを出ていった。



「……え、なに。あいつ」



カレーを食べていた古賀が、意味が分からないという風に俺に尋ねてきた。



「さあ。反抗期なんじゃない?」

「なんだ、それ」



俺の言葉に怪訝な顔をしたものの、出ていった松木のことは気にせず、古賀はまたカレーを食べだした。俺も自分が注文したカレーを食べようと、スプーンを手にする。丸テーブルに一つだけ、松木が注文したカレーが残っていた。

古賀と二人でカレーを食べていると、ジーンズのポケットに入れておいた携帯が鳴った。携帯を引っ張り出して画面を見ると、松木からのメール到着画面。



『なんでお前は来ないんだよ!』



なんで行かなきゃならないんだよ。昼飯も食べてないのに。

松木の勝手な言い分は無視して、携帯をポケットに仕舞った。



「松木からじゃないのか?」

「うん。そうだけど、今は面倒だから、無視」



その様子を見ていた古賀の質問に、さらっと答えて、カレーを食べることを再開した。古賀も気にせずにカレーを食べている。

松木が怒って出ていった原因は、降ってわいたような古賀からのお知らせだった。



『美香ちゃんと付き合うことになった』



昼飯時にこれを聞いたときは、さすがの俺も驚いたけど、別に俺が何かしら関わってるわけでもないので、とりあえずおめでとうと言っておいた。ただ、松木は、素直に喜んだりはできなかったようだ。松木の奴は、絶対に好きなくせに宮瀬ちゃんに手を出さない古賀にやきもきしていたし、付き合うより前の美香ちゃんとのメールだって意味が分からないとなぜか憤慨していた。そこにきての、古賀の『付き合いました』報告だ。松木の『意味が分からない』は頂点に達して、収まりきらなくなって、さっきカフェテリアを出ていった。昼飯も置いて。

面倒な奴だな、と思う反面、真っ直ぐな奴だなとも思う。馬鹿みたいに真っ直ぐで、友達思いで、子供かと思うくらい気持ちを収めるのが下手だ。だからこそ、好きなのに何もしない古賀にもどかしさを感じていた。

俺も、好きなら手に入れてしまえばいいのにと思うことはある。だけど、手に入れずにただ宮瀬ちゃんのために行動する古賀も、すごいと思う。宮瀬ちゃんが何を望んでいるかを理解して、それをひょいっと平気な振りしてやってのける。宮瀬ちゃんが苦しい時に、そばにいてやる。それが出来る人間がそう多くはないということくらい、この年になると分かってくる。

そして、その古賀が、好きな人とは別に彼女を作るということも、理解できないわけではない。古賀のことだから、なんだかんだ言って、美香ちゃんにほだされたっていう可能性もあるだろうし。好きな人には彼氏がいて、かつ別の男と近付きそうなら、なおさら。これだけ言ったら宮瀬ちゃんが悪い女みたいに聞こえるけど、状況を知っていれば別に宮瀬ちゃんだけに非があるとも思えない。でも、何も知らない奴からすれば、宮瀬ちゃんは完璧に嫌な女だ。一度サークルの女の子に面白がって、状況をかいつまんで(宮瀬ちゃんの留学の件とか面倒な彼氏のこととかを省いて)説明すると、『その人、さいてー』と完全悪意のある言葉が返ってきた。もう、その女の子の目も思い出したくない。それ以降、もう宮瀬ちゃんのことを口にするのは止めた。事情を知っていたら、とてもじゃないけど宮瀬ちゃんの悪口なんて聞く気にはなれない。宮瀬ちゃんも学校じゃそうとう苦労してるだろう。何にも知らない彼氏の友達から馬鹿みたいに『最近、どう?』なんて聞かれるんだから。その度にキレないで冷静に対処する宮瀬ちゃんは、本当にすごい。

古賀も宮瀬ちゃんも、松木とは比べ物にならないくらい、気持ちを抑えるのが上手だ。



昼飯が終わって、これから授業だという古賀と別れて、キャンパスを歩く。松木から『早く来い! ぼけ!』という意味不明なメールが来ていたので、いつも松木がいる棟に向かっていた。その棟の付近で、サークルの女の子と出くわした。以前に宮瀬ちゃんのことを話したことのある女の子だ。



「あ、犬居くん」

「あ、はよ。今から授業?」

「うん。少し遅刻だけどね」



そう言って、その子は可愛らしく笑った。『さいてー』と言った時とは大違いだ。松木が不貞腐れる前に行こうと、『じゃあね』と言おうとして、女の子の方が先に口を開いた。



「そういえば、前に言ってた女の子のことなんだけど」



そう言う女の子の顔が、可愛らしいものが意地の悪いものへと変わっていく。いつも思うけど、こういう時の女の子って、本当に醜い。



「私の周りも、あんまりその子のこと良く言ってなかったよ。明法の知り合いも、その子が古賀くんたちと遊んでるの知ってて、その子の彼氏がかわいそうって言ってたし」



「だから、古賀くんに気をつけてって言っておいて」と、醜い顔のまま、女の子は続けた。そうか、事情の知らない奴らからしたら、宮瀬ちゃんは完全に悪なんだな。それも、同性同士だと余計に。これは俺が悪かったと、自責の念を持った。こんな子に、宮瀬ちゃんのこと話すんじゃなかった。



「古賀くんに気をつけてって、何を気をつけてって言うの?」

「え? だから、」

「もしかして、その子が男たらしだとか、そういう訳分かんないこと考えてる?」



彼女の頭の中の考えを言ってやれば、女の子はちょっとだけ視線を泳がせた。



「うん。君に話した俺も悪いけど、君がそういうこと言いふらす人間だとは考えつかなかった。話す前に気付かなかった、俺が馬鹿だったね」



「ごめんね」と続けて言ってやれば、女の子の顔が険しいものになった。これはやばいと思って、一歩だけ後ろに下がる。



「今の話、古賀には言わない方がいいよ。たぶんぶち切れて、とんでもなく冷たい目されるから」



それだけ注意して、棟の中へと入った。言いながら、冷たい目だけだったらまだマシかなと考える。古賀だったら、手が出ない代わりに、言葉だけで相手を意気消沈させてしまいそうだ。頭良い奴ってそういうのが多いから怖いよな、なんて考えて、入ってすぐの階段を上がろうとして、松木を見つけた。階段の手すりに前のめりに寄りかかって、なぜか俺のことを素晴らしいものでも見るような目つきで見ている。



「何やってんの? 気持ち悪いよ」



その場で止まってそう声を掛けると、俺の横からさっきの女の子がさっさと階段を上がっていった。顔はまだ、怒っていた。女の子が松木の横も通り過ぎて上へ行ってしまうと、松木がすごい勢いで俺のところまで駆け寄ってきた。抱きしめられそうなその勢いに、ひょいっと身体を横へどけて、松木を横に押しやる。



「気持ち悪いって言ってるだろ。何やってたんだよ、あんなところで」



横に押しやられた勢いで壁にぶつかった松木に尋ねる。いつもは、この棟の三階にあるベランダにいるのに、なぜ今日は下にいたのか。まあ、おおかた一人が寂しくて、俺が早く来ないか待っていただけだろうけど。



「……一人で昼飯食べてたら、何かむなしくなった」



思った通りの答えに何か反応するのも面倒になって、松木を置いて階段を上がっていく。後ろから「おい!」と言いながら松木が追いかけてくる。



「お前も、なんだかんだ言って、宮瀬ちゃんのこと好きなんだなー」

「嫌いなんて一言も言ったことないだろ」

「そうだけどさー」



松木の話ぶりで、こいつがさっきの女の子とのやり取りを見ていたのだと理解する。単純な松木は、俺が宮瀬ちゃんのことをかばったという事実が嬉しくて、むなしかったことや古賀のことなんかを完全に忘れている。



「古賀のことじゃないの?」



階段を上がりながら聞いてやれば、松木は思い出したかのように「そうなんだよ!」と言いだした。それから、だだっと階段を上がって俺の目の前に立つ。



「俺に良い案があるんだ」






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