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第二章 教師たちのジレンマ #11

 即座に賛同の意を示したのは二三香だった。

「塩崎先生の言うとおりですよ。もちろん、何の考えもなしに動き回るのは得策じゃありませんけど、逆もまた然りです。収穫のあるなしはともかく、決してマイナスにはならないと思いますよ? 半藤のなんとか研究会に真っ向から殴り込みをかけるわけじゃないんですから」

「フォローありがとう、妹尾さん。とにかく、そこまで考えていながら何だかんだ理由をつけて動こうとしないのは史郎ちゃんの悪い癖よ。今回の件に限らず、ね」

 塩崎はそう言うと、初島の唇を指先でそっとなぞった。見てはいけないシーンを見てしまったような気まずさに、準と二三香は思わず目を逸らす。

「ちょ……ひ、人前でそういうことはしないって約束だったろ!?」

 雷にでも打たれたかのように体を大きく痙攣させ、わずかに語気を荒げる初島。

「人前じゃなくて、たとえば2人だけの時ならいいんですか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

 素朴でありながら、どこまでも無遠慮な質問を未波からぶつけられ、初島は途端に口ごもった。「子供の無邪気さと残酷さは紙一重」などとよく言われたりするが、未波の場合、狙ってました感がありありと伝わってくるので、準や初島にとってはこの上なくタチが悪い。普通の人間なら「うるさい」「黙れ」「人の揚げ足を取るな」と一蹴して終わらせるところを、生来のツッコミ体質が災いして「とりあえず反論しなければ」「何か気の利いた上手い返しをしなければ」などと二重の強迫観念にかられてしまう。

「とっ、とにかくだ。俺も半藤の身辺調査をやること自体には、特に異論はない。ただ、俺と奈津が関与するのだけは遠慮させてもらうよ」

「冷静に考えると、私たちに関してはその方がいいかも知れないわね。身辺調査はあくまでも隠密行動だから、目立たないに越した事はないし。それに、教師が独断で生徒の身辺を嗅ぎ回ってるなんて噂が立とうものなら――」

 塩崎は不意に言葉を切ると「分かる人は手を挙げなさい」とばかりに、ゆっくりと準たちを見回した。

「校長やらPTAやらが介入してきて、余計にややこしくなる……と」

「渡末君、正解。とりあえず今日はもう遅いから解散するとして、さっそく明日から聞き込み調査開始ね。そうそう、ルイちゃんは緊急時以外は渡末君の中から出ないように……って言っても、例のお札ですぐ見つかっちゃうんだっけ」

「任せてください。こう見えても元陸上部なんで逃げ足には自信があります」

 あんなヤツ、むしろ返り討ちにしてやりますよ! と胸を張って言えないのが何とも情けないが、逃げ切ることには絶対的な自信がある。現に半藤の脚力は、全力を出していない準のそれに遠く及ばないことが証明されている。仮に気功波を使われたとしても、即席で放てるのはせいぜい野球ボールほどの大きさだ。投球のフォームから大雑把な軌道を割り出してしまえば簡単に避けられるし、半藤にとっても全力疾走と正確なコントロールの両立は至難の業に違いない。

「ドヤ顔してるところ申し訳ないけど、私の瞬間移動能力と未波の空中飛行能力の存在も忘れないでね。渡末君とルイちゃんを安全圏に逃がすためにあるようなものなんだから」

「そうだよっ。Y座標にだって逃げ道はあるんだよっ。ですよね、初島先生?」

「2人の言うとおりだ。友達を巻き込みたくないという責任感は尊重するけど、チェスにたとえて言うなら、渡末君とルイさんはキングに該当する。そのキングがやられては元も子もない」

「まず渡末君に求められるのは、私たちクイーン・ルーク・ビショップ・ナイトをうまく使いこなすこと。それに、ポーンとして神沢さんを取り込むのも、今後の交渉次第で十分可能なはずよ」

 チェスの詳しいルールは知らないが、初島・塩崎の言わんとすることは準にも何となく理解できた。要するに『どんなに強力なチームでも、リーダーを潰されたらひとたまりもない』ということなのだろう。

「それに――あ、別に渡末君と張り合おうってわけじゃないんだけど、私の瞬間移動の方がスピードの面で考えても圧倒的に上なのよね。江戸時代の飛脚便と現代の携帯メールくらいの差があるわ」

「……でも、いいのか? 半藤の前で能力なんか使ったら、二三香たちまでターゲットにされるかも知れないんだぞ?」

「そんなの承知の上よ。みんなもそうでしょ?」

「もちろんよ」

「……何を今さら」

「かめはめ波でもギャリック砲でもどんと来ーい!」

 塩崎・初島・未波は、二三香の問いかけに三者三様の言葉でもって首肯した。


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