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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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私が告白されると、必ず邪魔しにくる王子

作者: セトガワ
掲載日:2026/02/27

 校舎裏に呼び出されたのは、今月は三度目だった。

 緊張した面持ちの男子が、私の顔を切実に見つめてくる。


「騎士科のブロッドと言います。俺、アリシアさんのこと、ずっと前からいいなって思ってて……」

 

 正直知らない人だった。

 でも誠実そうだし、悪くないのかなと自分に言い聞かせる。

 彼は深呼吸をした後、意を決したように声を張る。


「アリシアさんのことが好きなんです! 付き合ってほしいです!」


 この人と恋人になるのもありなのかな。

 真面目そうだし、浮ついたところもなさそうだ。

 迷ったけれど、もう頷いてしまおうと思ったときのことだった。


「——事はそう簡単にはいかないぞ!」

 

 凜とした声が響いた。

 私と彼は周囲を見回すが、他に人の姿は見当たらない。

 不思議がっていると、自分から声の主が出てきた。

 木陰近くの灌木の中に隠れていたらしい。


「レ、レイス殿下……」

 

 ブロッドさんが衝撃を受けている。

 私の方は幾度となく経験していることなので、もはや驚きはない。

 登場の仕方は決してかっよくないけれど、立ち姿は本当に様になる。

 緩くウェーブがかった金糸を紡いだような金髪に、透き通った緑眼と精緻な顔立ち。

 スタイルも抜群で、みんなと同じ制服のはずなのに、彼だけ高級品に思えてくる。

 ただ、身なりは完璧でも……。


「アリシアの幼なじみとして言わせてもらう。君は彼女が何科か知っているよな?」

「ええ、もちろんです。アリシアさんは聖女科です」

「そう。聖女にとって恋愛というのは、非常に重要な要素なんだ。わかるね?」

 

 ブロッドさんはすぐに答える。


「聖女は、ダメ男と付き合うと能力が落ちるんですよね」

「その通り」


 レイス様が頷く。

 これは有名な話なので、学院に入るような人は大体知っている。

 聖女は浄化や回復の魔法を使うことが多い。

 私もそう。

 でもこれは心の純度によっては、能力が著しく落ちると言われる。

 顕著な例が、ブロッドさんが話したものだ。

 自己肯定感が落ちる恋愛は、特に最悪だと言われる。

 逆に素晴らしい異性と良好な関係を築けば、能力が底上げされることもある。

 でもそれは、非常に難しい。


「アリシアは非常に優秀な聖女見習いだ。将来はこの国の役に立ってくれるだろう。さて、君はそんな彼女の未来を守れるのか?」

「俺は……本気です! 彼女のことを一生かけて守りたいと思っています!」

「軽いっ。なんて軽い言葉だ……。口だけならなんとでも言える。僕だってその内、世界を救うつもりだ。どうだ?」

「いや、それは……」

「騎士科と言ったな。では腕には自信があるだろう。僕と真剣勝負で勝てるようなら、その心意気を認めよう」

 

 灌木の中に隠していたようで、木剣を二本持ってくる。 

 もう初めから、この展開に持っていくつもりだったのだろう。 

 ブロッドさんはかなり困惑している。

 彼も騎士科だし、腕には覚えがあると思う。

 でもレイス様は、非常に剣の腕に優れることで有名だ。

 中途半端な実力では、無様に負けてしまう。

「俺は、ちょっと、そういうのは……」

「だったら去れ。そんな覚悟もない奴が軽々しく告白などするものではない」

 

 そう言って、レイス様はその場で素振りを始めた。

 その振りの鋭さに驚いたブロッドさんは、戸惑いつつも立ち去っていく。

 彼がいなくなった後、私はレイス様を睨みつけた。


「……どういうおつもりですか?」

「ん?」

「ん、じゃありません。今月はこれで三度目ですよ」

「無謀な輩が多すぎるよな。困ったものだよ」

 

 やれやれといった感じに、レイス様がかぶりを振る。

 私は詰め寄って、木剣を取り上げる。


「私だって、そろそろ恋人がいたっておかしくないんです。あの人と付き合ってみるのもありだと思ってたのに……」

「あいつが、好きだったのか?」


 直球の質問に、どうしても目を逸らしてしまう。

 そういう感情はなく、ある程度いい人なら誰でもいい気分だった。

 そんな自分に内心では嫌悪感もある。


「君は変な男と気軽に付き合うべきじゃない。この王国の宝なんだ。将来、君は大活躍する。いまはその火を大きくすることだけ考えよう」

「……いいですよね、レイス様は。もう婚約者もいるのですから」


 口をとがらせて言うと、レイス様は困ったように下を向いた。

 でもすぐに元気になって、私からそっと木剣を取り返すと、逃げるように歩き出す。


「あの男は絶対にヤバいやつだった。でも礼はいらないよ!」

 

 そう告げて走り去っていく。

 

 ☆ 


 教室に戻った私は、友人であるリンナに愚痴を漏らした。

 

「レイス様っていつも邪魔ばっかりするのよ。小さい頃からずっとそう……」

「あんたに気があるんじゃないの?」

「ないよ。立場も違うし。私に少しだけ、期待できる力があるから道を逸れないようにしたいんだと思う」

「第二王子だしね。もしかしたら王の座もあるから、未来志向なのかな」

  

 生返事をして、私はリンナの横顔を見つめる。

 学院に入ってからの友達なので、まだ数ヶ月の付き合いだけど、信頼できる子だ。

 ガン、と音がして突然机がズレる。

 歩いてた女子の足が当たった……というよりは、蹴飛ばされたように見えた。


「ああごめんね。誰かと思えばモテモテのアリシアさんの机か。邪魔すぎて蹴っちゃった。今日はもう廊下にいたら?」 

 

 吐き捨てるように言って、彼女は教室から出ていく。

 同じクラスのフィンネだ。

 リンナが軽くいらだちを見せる。


「なんなの、あいつ?」

「機嫌でも悪かったのかな」

「……あっ、違うかも。あいつ、ブロッドに最近フラれたって聞いた。だから八つ当たりしてるのかも」

 

 知らないうちに恨みを買っていたらしい。

 理不尽な気もするけれど。

 リンナは続ける。


「フラれたって言っても、付き合ってたらしいのよね。前に浮気されたって泣いてたこともあるし」

「そうなの!? 浮気する人には、見えなかったのに……。フィンネの態度も事情があったんだね……」


 普段はあそこまで意地悪するタイプじゃない。

 そう考えると、恋愛は諸刃の剣説が現実味を帯びてくる。

 それにしても、ブロッドさんは誠実タイプだと思い込んでいた。

 自分の見る目のなさにショックを受ける。

 

「でもあたしたちもさ、恋人欲しいよね。特に強い人か、守ってくれる人」

「うん……」

 

 単に年頃だから、というだけの理由じゃない。

 聖女にとっては、命がけの問題だったりするのだ。


「あたしたちって魔物に狙われやすいんだからさ」

「最近、学院の近くにも魔物がよく出るらしいよね」

「そうそう。彼氏いない人は専属の護衛くらいつけて欲しいよ〜」

 

 浄化など聖なる力が宿ることもあってか、正反対の魔物には徹底的に狙われる。

 よって聖女の死亡率というのは高い。

 私たちはまだ見習いだけど、体質的には聖女と変わらない。

 魔物が多い場所などには、なるべく近寄りたくはないのだ。


「ねえ。放課後さ、ブルーノ魔術学院の生徒と数人で会うんだけど、アリシアも来ない? いい人いるかもよ」

 

 ブルーノ魔術学院は入学試験が非常に難しくて、優秀な生徒しかいないと有名だ。


「……今日はいいかな。そういう気分じゃないし」

「そっか。あたしが先に彼氏できたらごめんね?」

「そうならないよう、祈っておくね?」

「ひっど!」

「冗談だよ〜」

 

 リンナのおかげで、昼休みを楽しく過ごせた。


 ☆


 放課後、教室に残って授業の復習をする。

 気づけば空が茜色に染まっていた。


「そろそろ帰らなきゃ」

 

 支度を終えて学校を出る。

 遅くなったこともあり、生徒もほとんど残っていない。

 校門までゆっくり歩いていると、地面に落ちた影が忙しなく動いていることに気づく。

 それもかなり大きな影だ。

 なんだろう?

 上を向いて、悲鳴を漏らしそうになる。

 グリムグロウ——烏を巨大化して、かぎ爪を凶悪にしたような魔物が空中を旋回している。

 かなり大きい……。

 そして特徴的な深紅の目が、こちらを狙い澄ましていた。


「まずい、隠れなきゃ……!?」

 

 咄嗟に逃げようとしたが、あちらの方が反応が早い。

 かぎ爪を開きながら、急降下してくる。

 私は咄嗟に持っていたバックを盾のように使う。

 強い衝撃。

 私はしりもちをつく。

 入れ違うようになったグリムグロウはバッグを裂きながら、一度は真っ直ぐ飛んでいく。

 だが大きく旋回して戻ってきた。

 もう自分を守るものはなにもない。

 立ち上がって逃げる時間は——ない。

 目を閉じて、防御姿勢に入るのが精一杯だった。

 ガキィ……!

 爪が肉が裂く——音ではない。

 どこも痛くはない。

 目を開けるとレイス様が私の前にいて、剣でかぎ爪とせり合っていた。

 二秒か、三秒そうしていたが、彼がついに押し返す。

 グリムグロウは一度空に逃げる。


「アリシア、立てるか?」

「は、はい」

 

 差し伸ばされた手を必死に握る。

 レイス様が力強く引っ張ってくれて、腰が抜け気味だった私も立つことができた。

 その間、ゆっくりと飛びながらグリムグロウは機を窺っていた。

 チャンスと見たのか、再び急降下してくる。

 狙いは今回も私だった。

 さっきとは違うのは、左右に細かくブレるように飛行してきたことだ。

 しかも速度がさっきと比べても速くなったようにすら感じる。

 ——トン

 肩を軽く押され、私は一歩下がる。

 代わりにレイス様が前に出た。

 一瞬の交錯。

 私には、レイス様の剣の動きがまったく見えなかった。

 気づいたらグリムグロウの胴体に刃が入り込んでいた。

 レイス様は、私のいない方向に投げつけるように斬り捨てた。

 ズサーッと地面を滑るように魔物は転がっていく。

 動きが止まると、再び飛び立つことはなかった。

 剣の血を払うと、殿下は私の肩に触れる。


「怪我はなかったか」

「はい。大丈夫でした……。レイス様のおかげです!」

「そうか。校門で待ってたら、不穏の気配を感じて飛んできた。間に合ってよかった!」

 

 額に浮かんだ汗を、レイス様は笑顔で拭う。

 私は安堵するが、手はまだ震えている。

 彼が来てくれなかったら死んでいてもおかしくはなかった。

 校舎から出てきた生徒に、レイス様が声をかける。

 

「おい君、先生に魔物が出たので退治したと伝えといてくれ。僕は彼女を送っていく」

「わ、わかりました」

  

 生徒は急いで職員室に向かう。


「さて、僕たちは帰るぞ」

 

 何事もなかったかのように言って、レイス様は私の手を握った。

 先導される形で校門を出たはいいが、さすがにまずい気がしてきた。


「あの、手を繋ぐのはちょっと……」

「嫌か?」

「そうじゃなくて、誤解されても困りますし。殿下には婚約者もいらっしゃるから」

「今日くらい大丈夫さ。どうしてもっていうなら、その震えが止まったら離してやるよ」

 

 ポンと私の頭を優しくたたいて、また前を向く。

 温かい手の温もりが、私の恐怖心を少しずつ溶かしていく。

 幼い頃のように、レイス様は自分が興味あることをあれこれと話す。

 私はそれを聞きながらクスッと笑う。


「なんだい? 僕、変なこと言った?」

「いえ、昔と変わらないと思いまして。最近、二人で会話することも減っていたので」

「あぁ……ちょっと僕も目標があって、それに向かって動きまくってるんだ」

「どんな目標ですか」

「いまは秘密さ」

「私の恋の邪魔をすることじゃなくて?」

「ああ、それも楽しみの一つさ!」

 

 白い歯を見せて、楽しそうに笑うレイス様。

 すると、十歳くらいの男子たちの集団が、こちらを見てニヤニヤとしてくる。


「うわぁ。手を繋いでるぅ!」

「ひゅーひゅー!」

 

 明らかに悪ガキたちだ。

 私のことをからかってくる。

 でもレイス様は動じないどころか、手を持ち上げて見せる。


「羨ましいだろ、モテないキッズたちめ〜」

「なんだよっ」

 

 子供たちと若干ケンカ気味になっている。 もはやどっちが子供かわからなくなってきたのですが。


「いきますよ、レイス様」

「覚えてろよキッズたちめ」

「うるせえ」

 

 キッズの一人が軽くレイス様の尻を蹴って逃げていく。

 いくら子供でも不敬罪にかけられてもおかしくはない。

 でもひと目もないので、彼はそんなことはしない。

 まさか子供たちも、尻を蹴った相手が第二王子だとは思いもしないだろう。


「最近のガキは困るね。乱暴で」

「レイス様もあんな感じでしたよ。なんなら……いえ、なんでもありません」

「あっ、いまもって言おうとしただろ!? 僕にはわかるぞ、長い付き合いだから」

「ふふふ」

 

 とりあえず笑って誤魔化しておこう。

 あと、手の震えはもう止まったけれど、申告はしないでおこう。

 

 寮の前まで、レイス様はちゃんと送り届けてくれた。


「また明日。今日はゆっくり休むんだぞ」

「レイス様もお気をつけて」

 

 レイス様は二本指を立ててウインクすると、ゆっくりと去っていく。

 その背中をしばらく眺めていた。


「……あ」


 だいぶ小さくなったところで、横道から出てきた誰かが、彼に気づいて駆け寄った。

 遠目でもわかる華やかさと上品な仕草。

 彼の婚約者だ。

 二人はなにか会話した後、肩を並べて仲よさげに帰っていく。

 私も歩き出し、寮に入っていく。

 なんとなく立ち止まって、手を見つめる。

 ——まだ、温かい。

 私は、その手をぎゅっと握り込んだ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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