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第五章
スマートフォンのキーを叩く微かな音が、部屋の中に響いていた。
ろくに仕事もしないでブラブラしてて、遊ぶ金がないからってことで見ず知らずの人を襲ったらしい。相手は体の不自由な人。こんな最低な奴は、刑務所から出てきたら、また何かをやらかすに違いない。ぜひ厳罰を。これは個人攻撃じゃない。社会を守るための警告だ。
入力が終わると、ハッシュタグを入力した。
#再犯を許すな
#厳罰を求める
文字を今一度確認して、送信ボタンを押した。
続いて、別のアカウントからも、メッセージを送信した。
知り合いにS県警の関係者がいるんだけど、今回の事件は証拠固めに苦労してるらしい。
S県では、去年起こった殺人事件の二件が未解決で、そのうち二月の事件は逮捕後の不起訴処分。今回の事件は凶悪性を考えても、最後の最後に不起訴なんてことにならないように、警察の奮起を願う。拡散希望。
*
時間を置いて、反応を確認する。
最初に書き込んだメッセージに呼応するように、事件に関するメッセージがSNS内に溢れ返っていた。
去年だけで未解決事件がいくつあった? もう“運が悪かった”では片づけられない。今回こそ徹底捜査を。もしまた不起訴になったら、この県は犯罪者天国だ。
#見て見ぬふりは犯罪
見ず知らずの弱者を狙った事件。またかよって感じ。もういい加減にしようよ。こんなのが軽い刑で済むなら、この街に未来はない。怒ってるのは俺だけじゃないはず。
#治安は誰が守る
被害者の気持ちを思えば、誰だって怒るよ。これで厳罰じゃなかったら日本は終わりだ。
#被害者に寄り添う
こんな事件の犯人を、まだ擁護する人がいることが信じられない。常識があるなら、厳罰以外の選択肢はないはずだ。
これはもう事件じゃない。テロだ。こんなのが野放しになる社会は異常。
県内の凶悪事件の件数は、集計の仕様で統計に現れていないだけで、実は増えつつあるという話もある。今回の事件も、そんな流れのなかで必然的に生まれた事件だ。
去年の未解決事件のうち、容疑者が特定できなかった八月の事件の犯人は、今回の事件の犯人と同一人物という説もあるらしい。しかも、外国籍という噂も。S県の知事は外国人に甘々のサヨク。信じたくはないが、正体不明の闇の力を感じる。
今回も不起訴なんてことになったら、県警の上層部は総入れ替えが必要だな。
オレ、T市の殺人事件の犯人だけど。失態続きのS県警に、オレを捕まえられるのかなあ?
事件が起こったのはT市じゃなくてK市だろ。ふざけてんじゃねえよ。個人情報突き止めて晒すぞ。
画面をスクロールしながら、思わず呟く。
――もっと、バズれ。
――もっと、拡散しろ。
呪文のように繰り返しながら、スマートフォンを閉じた。




