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空白の誇り  作者: KTTdomomo
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第1話:女帝の覚醒

神が四つの種族――平人ひらじん、ドワーフ、エルフ、オークを創造し、

それぞれの代表に都市を預けてから長い年月が流れた。

神の沈黙は、そのまま地上の平穏を意味していたわけではない。


大陸の均衡は、平人の国「グラント」の野心によって崩れ去った。


「数は力だ。耳の長い連中も、牙を持つ獣どもも、

 我が騎馬隊の蹄の音に震えるがいい」


グラントの王、イヤースは傲慢に笑った。


彼は膨大な人口を背景に、

近隣のオークの国「オナラギ」と

エルフの国「ヘイス」への圧力を強めていた。

1. 狂った歯車

最初の標的となったのは、オークの国「オナラギ」だった。

「グラントの奴らめ、こちらが沈黙を守っているのを弱さと履き違えたか」

オナラギの王オードは、拳を机に叩きつけた。

対抗策を練る間もなく、グラント軍の侵攻が始まる。


しかし、戦端が開かれた直後、予期せぬ事態が起きた。

北方のエルフの国「ヘイス」が、

グラントに対し電撃的に宣戦布告を行い、進軍を開始したのだ。


「好機だ! グラントがオークを叩いてる隙に、積年の恨みを晴らす!」

ヘイスの王、ヘスは「識王」と称えられる知略家だった。

彼はグラントの背後を突く完璧なタイミングで出兵した……はずだった。


だが、グラント王イヤースは狡猾だった。

「エルフが動くことなど想定内よ。我が軍の半数以上に馬を与えたのは、

 この時のためだ!」


グラント軍の転進は、ヘスの予想を遥かに上回る速さだった。

エルフの誇る弓兵が陣を敷く前に、グラントの重騎兵がその懐に飛び込む。

「馬鹿な……これほどの機動力だと!? ぐっ、おのれ……!」

乱戦の中、識王ヘスは落馬し、平人の槍に貫かれた。


王の崩御。


その報は瞬く間にヘイス全軍に広がり、士気は文字通り霧散した。


さらに、ヘイスとグラントの間には巨大な霊峰がそびえ立っていた。

増援を送ろうにも、険しい山道を迂回するしかなく、

ヘイス軍は奪ったわずか一つの村を守るのが精一杯という惨状に陥った。


一方で、戦況は皮肉な展開を見せる。

ヘイス軍に兵力を割いたことで、

オナラギ前線のグラント軍は機動力を失い、数も互角となった。


オークの圧倒的な個の武力の前に、グラントの本国は逆に蹂躙され、

皮肉にもグラントはオナラギの手によって滅亡の憂き目を見たのである。


2. 相反する王

識王を失ったヘイスは、窮地に立たされていた。

領土こそ微増したものの、精神的支柱を失った国を周辺諸国が放っておくはずがない。

次なる王の選出は急務だった。


そこで選ばれたのは前王の遺言状により、ヘス王の妃、エアリであった。

だが、その即位に民は絶望した。


「次の王は、あの『喋れぬ妃』か……」


「ヘス様の知力には遠く及ぶはずがない。

おまけに言葉も持たぬ女に、この外交主義の国が救えるものか」


エアリは失語症を患っていた。


彼女は、家臣たちの冷ややかな視線にさらされながら、

玉座に座った。彼女の瞳には、悲しみではなく、静かな、しかし烈火のような決意が宿っていた。


エアリは筆を取り、震える手で重臣たちに指令を書いた。

『前王の悲願、グラント領の完全掌握。これを成し、我が王位の証とする。』


彼女が打ち出した軍制改革は、誰もが正気を疑うものだった。

「剣を捨てよ。全軍、弓と長槍のみで編成する」

「防具も最低限に。我らの長所は、平人よりも優れた俊敏さにある」


近接戦闘に強いオークを相手にするというのに、

剣を捨て、極端な軽装にする。それは一歩間違えれば自殺行為だった。

しかし、エアリは譲らなかった。

リーチと速度こそが、オークの怪力を無効化する唯一の手段だと、

彼女は本能で理解していたのだ。


3. 女帝の覚醒

オナラギ(元グラント領)への侵攻が始まった。

当初、ヘイス軍は混乱した。

「盾も剣もなしに、どうやってあの化け物どもと戦うというのだ!」

オークの戦士が咆哮を上げ、ヘイスの陣に突っ込んでくる。

恐怖に足がすくむ兵士たち。


その時だった。

最前線、誰よりも早く風を切って飛び出した影があった。

純白の軽装鎧を身に纏い、見事な長槍を振るう女性。


女王エアリである。


彼女は言葉を発しない。

ただ、その槍が一閃するたびに、巨大なオークが血飛沫を上げて崩れ落ちる。

彼女の動きは舞のようであり、死神の鎌のようでもあった。


「……王が、自ら戦っておられるぞ!」

「あのお姿を見ろ! 我らが立ち止まってどうする!」


言葉なき鼓舞。

それは、どんな演説よりも深く兵士たちの魂に火をつけた

ヘイス軍は、生まれ変わったかのような連動を見せた。

オークが近づく前に、雨のような矢が降り注ぎ、

懐に入ろうとする者には長槍が牙を剥く。


運も味方した。

オナラギ軍はグラント攻略で疲弊しており、

主力はオナラギの首都の守りを固めるため、

敵兵の大部分が奴隷となった平人だった。

ヘイス軍は怒涛の勢いで元グラント領を席巻した。


4. 霊峰を越えて

元グラント領を奪還したことで、ヘイスの士気は頂点に達した。

だが、エアリはそこで止まらなかった。

彼女の視線は、その先――オナラギ本国へと向けられていた。


「女王陛下、これ以上の進軍は危険です!

霊峰を越える進軍路は険しく、兵站が持ちません!」 側近の進言に対し、

エアリはただ北の霊峰を指差した。


彼女の狙いは的中した。

装備を極限まで軽量化し、元々その俊敏さが強みであったヘイス軍にとって、

難所であるはずの霊峰は、もはや障害ではなかった。


「まさか、この山をこの速度で越えてくるとは……!」

オーク軍は油断していた。

平人なら数週間かかる行軍を、エアリの軍勢は数日で成し遂げた。


オナラギ領内の都市を一つ落としたところで、

エアリは初めて全軍に停止を命じた。


これ以上進めば、ドワーフの国「レイリア」が、

手薄になったヘイス本国を狙う可能性がある。


また、広げすぎた領土は管理しきれず、

反乱の種となる。何より、兵たちの疲労は限界に近かった。


エアリはオナラギに対し、講和会議を申し入れた。

オークたちは、この「沈黙の女帝」の圧倒的な機動力と武力に恐れをなし、

提示された条件をすべて受け入れた。


5章:沈黙の女王

戦争は終結した。

ヘイスの首都に帰還したエアリを待っていたのは、

かつての蔑みではない。地を揺らすような歓喜の叫びだった。


彼女は壇上に立ち、集まった民衆を見渡した。

彼女の口から言葉が発せられることはない。

だが、彼女が獲得した領土、改革した軍、

そしてその身に刻まれた無数の傷が、何よりも雄弁に物語っていた。


彼女は、亡き夫「識王」の名に縋るだけの未亡人ではない。

自らの意志で、自らの沈黙で、国を守り抜いた「沈黙の女王」なのだ。


外交主義の国において、言葉を持たない女王。

それは一見、欠陥に見える。

しかし、彼女が示した「行動」という名の外交は、

近隣諸国を震え上がらせるに十分だった。


神が去り、言葉が溢れ、偽りが混じるこの世界で。

エアリの「外交」は、誰にも汚せぬ誇りとして刻まれたのである。

彼女の名声は世界に広がり、外交主義という名の帝国がここに生まれた。

youtubeにも投稿しました。動画というより聞き物ですがよかったら見て下さい。

https://www.youtube.com/watch?v=zz1rkOfy30U

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