第4話 有害物質と、俺の節約生活
あのニュースが頭から離れない。
●△×市のクリーンセンターで規定値以上の有害物質検知。原因は未だ調査中とのこと。
……あれ、絶対俺のせいだよな?
一昨日のゴミ不法焼却。
分別甘かったやつ、全部まとめて焼却炉にドサッと入れたやつ。
やべえ、仕事が手につかない。
エクセルを開いても、数字が目に入ってこない。
隣の席の先輩が「佐藤くん、大丈夫?」って声をかけてきたけど
「いや、ちょっと寝不足で・・・」と誤魔化した。
何とか不安を押し殺して、定時まで耐え抜く。
残業なんてする気ゼロだ。今日は早く帰って情報収集しなきゃ。
帰りの電車の中、スマホを握りしめて必死に検索。
「クリーンセンター 有害物質 原因」
「●△×市 ゴミ処理場 目撃情報」
「焼却炉 異常 怪しい人影」
……出てくるのは住民の不安コメントばかりで、具体的な情報はなし。
いやでも、時間停止してたんだし、誰にも見られてるはずないんだ・・・。
本当にそうか?
俺が時間停止できるみたいに、他にもこの能力に目覚めてる奴がいて、こっそり見てたとか、そんな可能性は?
そもそも俺自身、この能力がどうして使えるのかも分かってないんだぞ?
俺以外にも時間停止能力者がいると仮定するべきなのでは?
はたまた、タイムパトロール的な奴らがやってきて
「不正使用発見!」とか言って捕まえに来る可能性は?
……いやいやいやいやいやいや、さすがにそれは妄想がすぎるだろ。
そんな自問自答を繰り返しているうちに、
気づけばアパートの最寄駅を3駅乗り過ごしていた。
またかよ・・・。
仕方なく終点近くで降りて、折り返しの電車で戻る。
トボトボと歩いて帰宅途中のスーパーに寄ったところで、奇跡が起きた。
精肉コーナー。
ちょうど店員さんが豚バラ肉のトレーに、
3割引の値引きシールを貼っているところだった。
周りにいたおばちゃんたちが、獲物を狙うライオンみたいに群がり始める。
……チャンス。
時間停止。
世界が静止する。
おばちゃんたちの手も、シールを貼り終えて次のコーナーへ移動する店員さんも、ピタリと止まる。
俺は素早く豚バラ肉のトレーを2パック確保。
カゴに入れて、時間再開。
「え、もうないの!?」と訝しがるおばちゃんたちを背に俺はレジへと向かう。もやし一袋と特売のお茶葉を追加でかごに入れて・・・。
しばらくはもやし炒め生活だな。節約生活の覚悟はできているか?俺は出来ているッ!
さて乗り過ごしたおかげで、安く豚肉が買えた。
……乗り過ごしに感謝だな。
部屋に戻って、豚もやし炒めを平らげる。
味付けは塩コショウと醤油だけ。
シンプルだけど、悪くない。
食事が終わってスマホを確認すると、
1/5スコー⚫︎・ドッグの受注開始まで、あと6日。
14万8千円。
本格的に、何らかの金策が必要だ。
能力を使った、そこそこ穏便な金儲け……。
罪悪感を薄めるために、
たくさんの人間の財布から10円ずつだけ抜き取っていく。
「みんなの現金をオラにちょっとだけ分けてくれ! 現金玉作戦」
青沼部長の財布からクレジットカードを抜き取って、プラモ決済に使っちゃおう作戦。
……いや、ダメだろそれ。
10円ずつでも盗みは盗み。
青沼のカードなんて、もっと悪質だ。いやでも青沼部長相手ならワンチャン・・・ないっての!
思い浮かぶアイデアは全部、実行に移せないものばかり。
仕方なく次は宝くじについて調べてみる。
抽選は東京と大阪の「宝くじドリーム館」で行われているらしい。
抽選機は厳重に管理されていて、生放送で透明性が高いシステム。
地理的にも遠いし、付け入る隙がなさそう。
……やっぱり無理か。
ため息をついて、俺は立ち上がった。
とりあえずシャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。
なに、まだ6日もあるさ。
いざとなれば時間を止めて、ゆっくり悩めばいいしな。
そんな楽観的なことを考えながら、
俺は目を閉じた。
有害物質のニュースも、タイムパトロールの妄想も、今は少し遠くに感じられた。




