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第3話 遅刻と、俺の小さな復讐

月曜日。

休み明けの朝は、いつだって体が重い。

昨日あれだけ寝たはずなのに、目覚ましが鳴った瞬間からすでに疲れている。

満員電車に揺られながら、俺はぼんやりと昨日のことを考えていた。

限定生産の1/5スコー⚫︎・ドッグ、税込14万8千円。

この能力を使えば、宝くじの番号をいじるとか、株の注文を操作するとか……

お金儲けの方法はいくらでもあるはずだ。

でも、犯罪はできない。

良心が、常識が、ビビりが、全部邪魔をする。

……なんて考え事に没頭していたら、

一駅乗り過ごしていた。

慌てて次の駅で降り、折り返しの電車に乗る。

結局、会社まで10分遅れ。

改札を出たところで、俺は時間停止を発動した。

世界が静止する。

通勤ラッシュの人波も、駅員の声も、すべてが止まる。

俺は走った。

止まった人をかき分け、信号無視の横断歩道を渡り、

会社のビルまで全力疾走。

エレベーターに乗って、経理部のフロアに到着。

自分の席に座って、時間再開。

時計を見ると、始業時刻のちょうど1分前。

遅刻回避、成功。

……こういう使い方なら、罪悪感ゼロだよな。と言うか時間止まってるんだし歩いてもよかったんだよな・・・。遅刻しそうと言う焦りがついつい俺を走らせてしまったぜ・・・。


デスクに座ってPCを立ち上げていると、

フロアの奥から聞き慣れた声が響いてきた。

「田辺君! いつも言っているだろう!君は黙ってこの領収証を受理するだけで良いんだと!」

営業部の青沼部長だ。

うちの会社、花形は営業部。

辣腕で知られる青沼部長は、エリート意識が人一倍強い。

「この会社があるのは、私たち営業が必死に接待して仕事を取ってきているからなんだぞ!」

が口癖で、毎月のように高額な領収証をドサッと持ってくる。

経理部では、もう暗黙の了解事項だ。

青沼の領収証は要注意案件。

金額が高すぎて、経費規程ギリギリ……いや、ときにはアウトのものまで混ざってる。

本来なら経理部長が出て対応すべきなのだが、

なぜか青沼が来るタイミングに限って、部長は席を外していることが多い。

今日も、ぴったり離席中。

そして青沼は、わざと一番気の弱そうな新入社員・田辺さんを狙って詰め寄る。

田辺さんは入社したての20代前半。

おどおどしながら領収証を突きつけられ、涙目になりかけているのが遠目にもわかった。

可哀想に。

でも、俺は波風立てたくない。

関わりたくない。

……そう思っていたのに、なぜか足が動いていた。

時間停止。

世界が再び静止する。

青沼部長の前に立つ。

腕を組んで、田辺さんを居丈高に睨みつけている姿が凍りついている。

俺はため息をついた。

「何で俺が、青沼部長の股間に……」

ボヤきながら、そっと手を伸ばす。

ズボンのチャックを、下げた。

全開。

それだけ。

触れたわけじゃない。

ただチャックを下げただけ。

自分の席に戻り、時間再開。

「――だから、君は黙ってこの領収証を受け取れば良いと言っているだろう!」

青沼部長の声が続く。

俺は立ち上がって、恐る恐る近づいた。

「あの、青沼部長。非常に申し上げにくいのですが……」

「何だね! 言いたいことがあるならはっきりと言いたまえ!」

相変わらずの居丈高な態度。

「では、はっきり伝えさせていただきます。

ズボンのチャックが、全開です」

一瞬の静寂。

「しかも、着席中の田辺さんの眼前で、その高さでのチャック全開は……

色々と、まずいのではないでしょうか?」

青沼部長の顔が、真っ赤になる。

慌てて股間を押さえ、早足でトイレの方へ消えていった。

田辺さんが、ぽかんと口を開けたまま俺を見ている。

「……ありがとうございます、佐藤さん」

小声で礼を言われたけど、俺はただ苦笑いして席に戻った。

小さな復讐。

でも、これくらいならセーフだよな?


その後は平和に時間が過ぎてゆく、営業部、特に青沼部長さえ来なければここはいつだって平和な部署なのである。そして待ちに待った待望の昼休み時間。

社員食堂で、唐揚げ定食350円也。

昔は300円で、もっとボリュームもあったのになあ・・・。いや、今だってちゃんと栄養のバランスは考えられてるし、全体的に物価の上がってる現在、この価格だって相応に良心的なのはわかる。けど物価は上がる一方で、給料はほとんど上がらない。

これが社畜の現実か。

ふと、思った。

そうか!

この能力で直接金儲けするんじゃなくて、

景気自体を回復させることができれば!?

株価を操作して市場を活性化させたり、

政治家の演説をちょっといじって良い政策を通したり……

……なんて、無理無理。

そんな大それたこと、俺なんかにできるわけないっての。

ただの小心者社畜が、世界を変えられるわけがない。

唐揚げを頬張りながら、俺は現実に戻った。

食堂のテレビが、ニュースを流している。

『●△×市のクリーンセンターで、規定値以上の有害物質が検知されました。

原因は調査中ですが、近隣住民からは不安の声が――』

……やべえ。

俺のせいなのか?

顔を青ざめさせながら、俺は箸を止めた。

一昨日のアレか?分別甘かったやつ、全部まとめて焼却炉にポイしたやつ。いやそれ以外に原因なんて考えられないけど。

まさか、バレたりなんてしないよな・・・?

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