第2話 空腹と、俺の揺らぐ良心
日曜日だというのに、いつもの癖で朝6時に目が覚めてしまった。
……社畜ってのは本当に哀しい生き物だな。
休みの日だって、体内時計は容赦なく平日モードで起動する。
仕方なく二度寝を試みる。
布団に潜り込んで、意識を手放す。
次に目を開けた時には、もう時計は11時半を回っていた。
腹が減った。
いや、減ったというより、猛烈に鳴っている。
昨日のゴミ処理ミッション(自分で勝手にそう呼んでいる)で、予想以上に体力を消耗したらしい。
冷蔵庫を開けてみる。
賞味期限切れ間近のヨーグルトにカップラーメン一個。
カップラーメンで済ませるのも悪くないが、せっかくの休日だ。
外で何か食べてこよう。
そう思って、近所の牛丼屋に向かった。
時間停止を使えば、食い逃げだって簡単だ。
レジからお金を抜き取るのだって、指紋一つ残さずにできる。
でも、そんな犯罪行為できるわけないだろ。
注文して、牛丼並盛と味噌汁が運ばれてくるのを待つ間、
俺はぼんやりとそんなことを考えていた。
そのまま食い逃げ?
レジからお金を抜き取る?
いやいや、できるわけないって。
そんなに言うなら君たちも時間停止能力を手にしてみてほしい。
読者諸君だって、いざこの能力を手にしたら、
思ったより良心や常識が邪魔をして、
直接的な犯罪行為なんてできないものだということがわかるはずだ。
牛丼が来た。
紅生姜を山盛りにして、卵を落として、かき込む。
うまい。普通にうまい。
これで400円ちょっと。
正規の料金を払うのが、なんだかんだで一番安心できる。
食事を終えて店を出たところで、事件は起きた。
向こうから歩いてくる若い女性。
スカート姿だ。
不意に強い突風が吹いて、彼女のスカートがバッと捲れ上がった。
瞬間、俺は反射的に時間停止を発動していた。
世界が静止する。
風に舞い上がったスカートも、女性の驚いた表情も、
周囲の通行人の視線も、すべてがピタリと止まる。
……白だ。
レースの縁取りがついた、清楚系のやつだ。
俺はゆっくりと近づいて、一通り観察した。
正面から、横から、少ししゃがんで下から。
触れたりはしない。絶対に触れない。
触れたらそれはもう完全にアウトだ。
十分に堪能したところで、元の位置に戻る。
時間再開。
女性は慌ててスカートを押さえて、周囲を見回している。
誰も見てない(はずだ)。
俺は平静を装って歩き出した。
帰り道、葛藤が止まらない。
別に触れたりはしてないしセーフだよな?
視線だけなら……視線だけなら、犯罪じゃないよな?
いや、でもこれって立派な覗きじゃないか?
でも時間停止中は相手も気づかないし……
いやいや、気づかないからこそタチが悪いって話だろうが。
頭の中で自分と自分でもめているうちに、アパートに着いてしまった。
部屋に戻って、ベッドに寝転がりながらスマホをいじっていると、
プラモデル情報サイトのプッシュ通知が飛び込んできた。
『限定生産! 1/5スコ⚫︎プ・ドック』
……欲しい。
いや、欲しいというより、これは絶対に手に入れたいやつだ。
限定500個、しかもコックピットの中にはキ⚫︎コのフィギュアまでついてやがる。
価格は税込で14万8千円。
俺の月給じゃ、ボーナス待ちでもキツイ。
貯金は一応それなりにあるけど、ここで15万円ポンっと出せるか?と言われると悩んでしまう。
そこで、ふと思った。
俺の能力を使えば、お金儲けだってできるんじゃないか?
宝くじの番号をいじる。
株の注文を操作する。
競馬の順位を物理的に入れ替える。
……いや、待て待て。
さっき牛丼屋で散々「犯罪はできない」って言ってたくせに、今度は金欲しさに犯罪考えるのかよ、俺。
でも、宝くじくらいなら……
抽選会場に忍び込んで、ボールをちょっと入れ替えるだけなら……
直接誰かを傷つけるわけじゃないし……
いやいや、ダメだろそれは。
立派な詐欺だろ。
でも、でもさあ。
限定ス⚫︎ープ・ドック欲しいんだよなあ……。
俺はスマホの画面を見つめたまま、
ため息をついた。
この能力、本当にどう使えばいいんだ?




