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第1話 停止した時間の中で

初投稿になります。生暖かい目で見守ってやってください

読者諸君は時間停止をご存知だろうか?

そう、あの時間停止である。

オラオラと叫びながら敵をボコボコにする主人公と、

無駄無駄と叫びながら時間を止める悪の帝王が使う、あの能力。

あるいは、ネットでたまに見かける「時間が止まった世界で犬だけが普通に歩いてる」ミームでお馴染みの、『アレ』である。

なぜいきなりそんな話をしているのか、とお思いの読者諸君にだけ、こっそり打ち明けておこう。

――何を隠そう、この俺、その時間停止能力者なのだ。

俺の名前は佐藤拓也。

年齢は29歳。独身。

職業は、ごく普通のメーカーで働く、ごく普通の会社員だ。

派手な趣味もなく、学生時代からの友達も数えるほど。

職場では可もなく不可もない評価を受け、飲み会には一応顔を出す。

上司に誘われたら断れずに麻雀のルールだけは何となく覚えた。

後輩からは「佐藤さんって穏やかでいい人ですよね」と言われるが、

それは単に波風立てないように生きてるだけである。

そんな、どこにでもいるような俺が、

なぜ時間停止なんてチート能力を手に入れたのか。

それは、つい先月のことだった。

特にこれといって変わったことはなかった。

いつもの満員電車に揺られ、いつものデスクでいつものエクセルを叩き、

いつもの残業を終えて、いつものアパートに帰ってきただけの、いつもの一日。

疲れてベッドに倒れ込んだ俺は、

ぼんやりと天井を見つめながら、いつものように思った。

――ああ、世界よ、止まってくれねえかな。

そんなくだらない妄想を、いつものように頭の中で繰り返しただけだ。

次の瞬間。

世界が、本当に止まった。

時計の秒針がピタリと止まり、

窓の外を飛んでいた鳩が空中で静止し、

隣の部屋から聞こえていたテレビの音が、ぷつりと途切れた。

俺は飛び起きた。

心臓がバクバク鳴っている。

夢かと思った。

でも、頬をつねっても、冷蔵庫を開けても、世界は止まったままだ。

試しに、恐る恐る部屋の中を歩いてみる。

足音だけが響く。

自分の息だけが聞こえる。

そして、俺は気づいた。

――俺だけが、動ける。

理由はわからない。

神様も、システムメッセージも、謎の声も、何もない。

ただ、なぜか俺は時間停止能力を手に入れていた。

で、俺が最初にやったこと?

もちろん、溜まりに溜まった部屋の掃除だよ。

このアパート、築20年超えのボロさで家賃は安いけど、

地域のゴミ分別ルールが細かすぎて本当にうんざりするんだよな。

可燃、不燃、資源ごみ、プラスチック、ビン・缶、ペットボトル、古紙、古布……

さらに「ビニール傘は不燃」「蛍光管は別袋」まであって、

ちょっとでも分別が甘いと、隣の奥さんがゴミ袋を俺の玄関前に持ってきて

「佐藤さん、これ間違ってますよ~」ってニコニコしながら置いていくんだよ。

あれほど精神的にくるものはない。

だけど、この能力さえあれば――

全部ひとまとめにして、稼働中の焼却炉にポイで解決よ。

そう決めた俺は、早速ゴミ袋を広げて片付け開始。

……のはずだったんだけど、

押入れから出てきた古いジャンプとかマガジンに目が止まってしまって、

「懐かしいなあ、この話まだ連載中だったのか……」

とか読みふけってるうちに、30分くらい無駄に使ってたりする。

小心者ってのは、こういうところで時間食うんだよな。

ようやくゴミをまとめ終えて、

「ゴミ処理センターってどこだっけ?」

スマホで検索。市の外れにクリーンセンターがあるらしい。なるほど確かにシムシティなんかでもゴミ処理場は都市部から離して作ってたもんな・・・。よし、車で持ち込もう。そう思い意気揚々とアパートのドアに手をかけ・・・。

いやでも、ゴミ袋を車に積んでる途中で誰かに見られてたら足がつくかも・・・、ってビビった俺は、アパートを出る直前にまた時間停止。君子危うきに近寄らずってやつだ。

ゴミ袋をトランクに放り込んだ俺は運転席に乗り込んだ。安月給、と言うほど安いわけでもないんだが、少しでも安上がりにマイカーが欲しかった俺が中古で買った車はキーレスエントリーもプッシュスタートもない。ドアの鍵穴にキーを差し込み、ドアを開ける、エンジンキーを差し込み右に回すと、エンジンが普通に掛かった。

「……車だって止まりそうなもんなのに、

なぜか俺が運転する時は動くんだよな。

どうなってるんだ? このご都合主義な能力は?」

自問自答しながら、市の外れへ向かう。

……はずだったんだけど、

道路が止まった車だらけで思ったように進めない。

交差点は詰まり放題、歩行者も信号無視状態で固まってるし。

仕方なく裏道迂回、また迂回。

30分かかる距離を1時間近くかけて、ようやくクリーンセンター到着。

焼却炉の受け入れ口の鉄扉を開けて、ゴミ袋を次々投げ・・・って、熱っ!

手袋してなかったせいで、炉の鉄扉の取手がめちゃくちゃ熱い!!

「時間止まってても熱いのかよ!!

物理法則どうなってんだよ!!」

心の中で全力ツッコミ。俺にこの能力をくれた何者かさん。聞こえてますか?

気を取り直し焼却場にいたおじさんの手袋を失敬して鉄扉を開ける。炎のゆらめきは止まって見えるのに熱だけはしっかり感じて頭がおかしくなりそうだぜ・・・。

とにかくゴミを投げ込んじまうか。おっと流石に爆発の危険があるスプレー缶とか電池類は、

ちゃんと別の袋に分けておいたぜ?これでも一応常識は守ってるつもりだ。

全てのゴミを投げ込み終えて、帰路に着く。

念の為、証拠隠滅を考えて車はこのまま時間を停止したまま元の駐車場に戻しておくのが賢明だろう。

また迂回路をたどってアパートに帰還。

時間再開。

シャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。

……なんだかんだで疲れたな。

まぁ明日は日曜日だじっくり寝ていられる・・・。

能力を手に入れた俺の生活が、

こんな地味なことで少しだけ楽になるなんて、

誰が想像しただろうか。ありがとう俺にこの能力をくれた誰かさん、そんな奴が本当にいるか知らんけど。

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