原風景7
スマホもない時代に派遣のバイトに行った男がひどい目に遭う話です。
折り返した電車から降りると腹が減っていることに気づく。
そう言えば仕事が終わってからなにも食べていなかった。それだけアツくなっていたということだが、それほどまでに理不尽だと思えたのだ。
ふとポケットをまさぐると、仕事場のおばちゃんにもらった黒飴が入っていたので、なめながらスーパーで買い物をする。
あまりにも腹が減った状態で買い物をすると判断がおかしくなってつい買いすぎてしまう。その予防策として飴は最適だ。
これもいろいろな失敗をしながら身につけた知恵だ。
こんな細かい知恵は垢のようにたまり、そして人を縛る。縛られなければ、生きていけない。そのたび、砂を噛むような思いになる。
適当な食材を買うと家に向かう。帰ったら飯を食い、そして早く本が読みたい。自然早足になる。仕事のせいで足がきしむようだったが、無理に歩く。
十分ほど歩いてから家に着くと湯を沸かし、ポリ袋からカップ麺を、小さな折りたたみテーブルに出して用意する。
家といっても狭い四畳半で、台所も半畳ほどの広さしかないが気に入って住んでいる。もともと貧乏な家の出だから狭さなど気にならない。
湯を沸かしている間に服を脱ぎちらかし、寝巻きにしているスウェットに着替えタバコを着ける。そして本をテーブルの上に開いた。
また夢中になってなにかやらかすといけないので読むのは後回しにし、湯が沸くまで待つ。
会社帰りに吸ったというのに、タバコが妙にまわる。
カップ麺を食ってから一息つき、本格的に読み始める。
自然、灰皿が盛り上がり出すが気にせず進める。
正直、焦っていた。
電車で読んだあの基準法の通りだとすると、向こうに落ち度はたぶんない。
結局スゴスゴと辞めなければならない羽目になる。
いやだ。
何もせずに、何も出来ずに、辞めるのだけは、絶対に、絶対に、いやだ。
何としても、何か見つけなければ。
何か、何かないのか。
何か――。
祈るような気持ち。
ぴったりだった。
読書に慣れないので目が疲れはじめたが、そのたび、権藤の顔を思い浮かべ気を奮い立たせた。
やっと一通り目を通すと、部屋の空気はすっかり濁っていた。窓を開けた。
窓の上の時計を見ると、いつも寝る時間をとうに過ぎていた。
明日は、仕方ないかもな。
腹をくくった。
続きます。




