第二話 D級ダンジョンに行きましょう
あれから一か月後、僕は久しぶりに冒険者ギルドに来ていた。
「シーラさん、こんにちは」
「ゼレス君。ようやく完治したのね」
「はは...。あの時はお騒がせしてすみません」
苦笑いを浮かべながら頭をかく。
ゴブリンとの連続戦闘などで、どうやら僕は骨折してしまっていたらしい。目が覚めた時は本当に驚いた。なんせ体中包帯でぐるぐる巻きにされていたのだから。
「いいのよ。今回は私のミスなんだから。そのせいでゼレス君を危険な目に合わせてしまったわけだし」
今回の一件は、シーラさんがE級ダンジョンではなく、誤ってD級ダンジョンのクエストを僕に渡してしまったことがきっかけだったらしい。とはいえ、僕に責任がないとは言えない。
謝るシーラさんに、僕は思わず彼女を制止させようとした。
「いえいえ、僕が悪いんです!僕がしっかり確認していなかったせいなので、シーラさんはそこまで落ち込む必要はないんです!」
「じゃあ次のクエストなんだけど...」
「切り替え早くないですか?」
僕の言葉を躱して、シーラさんは一枚の紙を僕に手渡してきた。紙には大きく、『薬草の採取』とだけ書かれている。
「今回の一件で、ちゃんと確認するようになったからね。今回のクエストはE級よ」
「...すいません」
そう言って、僕はその紙を彼女に返した。
「え?どうしたのゼレス君。クエストを受けに来たわけじゃないの?」
「もちろん、クエストを受けに来ましたよ。僕は、D級ダンジョンのクエストを受けに来たんです。E級じゃない」
困惑する彼女。それもそのはずである。Eランク冒険者は、何か不測の事態でもない限りD級ダンジョンに入ることはできない。これは冒険者にとって、暗黙の了解である。
それを、僕だって知っていた。
「ゼレス君。本当にどうしちゃったの?君はEランク冒険者だよ?」
「わかってます。だけど、E級ダンジョンなんかじゃ僕は強くなれない。あの人に追いつけない。だから、D級ダンジョンに行って、いち早く強くなりたいんです」
僕の真剣な目つきに、彼女ははぁとため息をついて、奥から一つの機械のようなものを取り出した。
「これは?」
「これはランク測定器よ。この口のところに手を入れて、ステータスとランクを測定するのよ」
「口って少し趣味悪くないですか?」
銀で覆われた竜型の装置のようなものを見ると、やけに高級さがあるように見えて、思わず触るのを拒んでしまう。
その思いを何とか抑えて、僕はそれに手を入れた。
しばらくして、目から何かが映し出された。とはいえ、映し出されているのはシーラさん側なので、僕には全く見えないわけなのだが....。
Dランクに行ってるかな。
そんな一抹の不安を抱きつつ、彼女の顔色を伺った。彼女の目は、大きく見開かれていた。緑色の瞳は左右に揺れて、驚きが隠せていないようだった。
「ゼレス君。D級ダンジョンに行ってもいいわよ」
「え?」
予想外の言葉に、思わず声が漏れてしまう。
「だから、D級ダンジョンに行ってもいいわよって」
「それってつまり...」
「うん。ランクアップおめでとう。ゼレス君。君は晴れてDランク冒険者だ」
その言葉を聞いた途端、何かがはじけた。
やっと、報われた。
何度も努力した。何度もダンジョンに潜った。なのに、一向にランクアップしなかった。どれだけやっても。その焦燥感が、一気に吹き飛ばされた。
「シーラさん。僕、今からダンジョンに行きたいです」
弾んだ気持ちで、僕はD級ダンジョンのクエストを受注するのだった。
薄暗い洞窟の中、僕は頼りない一つの照明を左手に持ちながら進んでいた。あたりは前の時のダンジョンと似ており、D級ダンジョンとはこんな感じなんだな。と、ふと思った。
しばらく歩いた時のことだった。前方から一体のゴブリンが現れた。安物のナイフを右手に持って、戦闘態勢に入る。
「僕だって強くなったんだ。ゴブリン一体程度に負けない!」
走ってくるゴブリンをよけて、背中を一突き。するとゴブリンは灰になって魔石を落とした。そそくさと、追手に対応できるように魔石を拾う。だが、追手は来る気配がない。
不自然だな。普通なら、そろそろ追手が来るはずなんだけど。....注意しておかないと。
そのことを念頭に置きながら、僕はまた前進する。
「ん?」
かなり時間が経ち、ようやくダンジョンの深層部あたりに来たのだが、やけに魔物の鳴き声が聞こえる。それはまるで、何かを警戒しているようだった。
すると、大勢の魔物がこちらに押し寄せてきた。ゴブリン。デュポーン。ほかにも様々な魔物が勢ぞろいである。
僕はナイフで、何度も何度も魔物を倒した。途中で逃した魔物もいたが、気に留めずに何度もナイフをふるった。
「はぁ...。はぁ...........」
しばらくして、ようやく魔物の群れはいなくなった。魔物はもう来ない。その安心感にかられ、僕は膝をついた。
だが、そこである違和感に気が付いた。
さっき、何回も魔物を逃したよな?なんで見逃せた?本来なら、魔物は僕に向かってくるはずだ。なのになんで...?
その時僕は勘づいた。彼らは逃げていたのだ。つまり、ナニカがこのダンジョンにいる。そう思うと、手足が震えてやまなかった。
「なんだ!?」
直後、地面が大きく揺れる。次第に揺れは大きくなっていき、音は僕のほうへと向かってきていて...!?
それに気が付いた僕は、身をかがませる。すると、僕の頭上を何かが飛んでいくのが見えた。それは僕を通り越すなり止まった。
それに対して、その姿を見た僕も止まった。
六本足にあの赤い目。間違いなくアラクネである。だが、大きさはD級で出てくるアラクネよりも1.5倍ほど大きかった。
ナイフを構え、相手の反応を待つ。すると相手は、何かを口から吐き出した。それは見事に僕の足に当たる。しかし、何もダメージが入らない。
「じゃあ、こっちから行くぞ!」
アラクネめがけて、ダッシュしようとした時だった。右足が動かなかった。そこは先ほどアラクネが攻撃した箇所。それに気が付いた僕は、恐る恐る右足を見た。なんと、右足はクモの糸で固定されていた。急ピッチでナイフを使い、クモの糸を切ろうとする。
その間に、アラクネは距離を詰めてきており、何とかナイフでクモの糸を切った瞬間、ギリギリ背中をそることで攻撃を回避した。
アラクネが刺してきたその個所は、間違いなく僕の左目を狙いに来ていた。
アラクネのくせに知能があるのか...!ともかく、あの糸だけは絶対に食らっちゃいけないな。あれを食らったら、次はおそらく攻撃を食らってしまう。だけど、なんだろう...。
先ほどの攻撃を見て、僕は違和感を抱いていた。D級ダンジョンだから、Dランク冒険者で、ソロの僕にはとっても苦しいはずなのに、楽だと感じてしまうのだ。
そう考えている間も、アラクネの攻撃は止まらない。次第に僕は押され始め、ところどころ切り傷ができていた。
「違うな...。こいつが弱いんじゃない。前戦ったゴブリンのほうが、よっぽど強かった!」
静かに起き上がり、アラクネをにらむ。アラクネが威嚇によってたじろいだ瞬間、僕は思い切りアラクネの懐まで駆ける。それに応戦するべく、アラクネも糸を出して僕を抑制しようとしたが、すべて避けて見せた。
やっぱり遅い。見た目に反して大して早くない。なら、このまま...!
ところどころナイフで捌きつつ、ついに懐にたどり着いた。そのままナイフを突き刺して、心臓をえぐる。苦しむアラクネ。その絶叫におびえず、僕は足を次々に切っていく。
「こいつで、最後だぁ!!」
しまいに魔石のある背中の中心をつき刺した。
その瞬間、アラクネは灰になった。僕が魔石のある個所をさしてしまったので、魔石はドロップしなかった。
戦闘が終わった後、僕は先ほど倒した魔物たちから落ちた魔石を集め終えた。
心は、達成感でいっぱいだった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますので、ブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!