不審なSNS
「学校でなにがあった?」
声が外に漏れ出ないように脱衣所の扉を閉めた。
暗い表情で、股間をいじっている海月に声をかけた。
「6年生の女子に呼び出されて……」
放課後、6年生の女子4人に教室へ呼び出され、手足をつかまれて無理やりズボンとパンツを下ろされ、アソコの皮を剥かれたらしい。その状態で写真を撮られて、これをネットにばらまかれたくなければ、野球をやめろと言ってきたらしい。
なぜ6年生が?
「今の話を射千には?」
「ううん、言ってないよ」
考えすぎだろうか?
海月にとっては2つ歳が違う6年生が面識もほとんどないはずなのに野球をやめろなんて言ってくるだろうか?
海月はどうにかアソコの形が戻って、ようやく風呂から上がった。
卓檬はそのまま2階に上がり、射千の部屋の扉をノックした。
「海月のこと、なにか知らないか?」
「海月がどうしたの、お父さん?」
シラを切るつもりか。
ならば。
「そうか。じゃあ明日、先生に会って確かめてくる」
「……どうして?」
「さあ、どうしてだろうな」
「ボクは海月になにもしていないのになんで?」
わざと目的をぼかして、相手の焦りを誘う。
表情、話し方、声のトーン、視線の向き。
わずかな変化もない。
これがすべて演技なら射千は将来、名俳優になれるだろう。
だが、ようやく尻尾を出した。
卓檬は学校の先生に会いに行くと言っただけだ。
誰も射千の先生に会いに行くとは言っていない。
先ほどのやりとりなら「なんで海月の先生のところに行くの?」が普通の反応だ。
これで完全に射千の仕業だとは言い切れない。
あくまで容疑が深まっただけ。
このことを決して射千に悟られてはならない。
「いや、海月の先生にいじめがないか、確認しようと思ってな」
「──そう、ボクも海月が、いじめられてないか、調べてみるよ」
こちらが疑っていることに気づいていないようだ。
だが、そもそも明日、海月の担任のところに行くつもりはない。
明日、海月を休ませて、一緒に授業中に職員室に行って教頭先生か校長先生と会う予定だ。そこで海月をいじめた女子生徒の顔写真を確認して特定。授業中に呼び出してもらう。授業中に不意をつけば、射千がいじめに加担した女子生徒に余計なことを吹き込む暇はない。その場でこれ以上、事を大きくしないことを条件に真犯人を白状させれば、射千に行き着くはず。
──次の日。
「パパ、ボクやっぱり学校に行くよ」
「なっ⁉ 無理をするな。今日は休んだ方がいい」
「あなた。海月が行くって言ってるんだから無理やり休ませないで!」
昨日のうちに妻の翠に海月を学校を休ませることを説明して、海月も説得していたのに急に学校へ行くと言い出した。
「──っ⁉」
「海月、はやく行くよ」
「あっ、待ってよ、お兄ちゃん」
玄関から外に出る瞬間、射千の口元が歪んだように見えた。
気のせいか?
いや、違う。
今、たしかに笑っていた。
「翠、お前、海月がイジメられたの昨日話しただろ?」
「大丈夫よ。今日、射千がイジメた子たちに話しをするそうだから」
「アイツに話したのか⁉」
「アイツって……あなた、自分の息子になんて言いぐさなの!」
くそっ、先回りされたか。
海月がいないと、いじめた女子の顔がわからない。ひとりで学校に行っても、事実確認すると言われて、泣き寝入りするのがオチだ……。
「私、今日友だちとランチとお買い物してくるから、お昼は適当に済ませてね」
今日は予定があるので家を空けるという翠。昨日、揚げたばかりの魚が業務用の冷蔵庫にしまってあるから、別に食べるのには困らない。
午前中、少しだけ港に寄って船の給油と点検を行い昼前には自宅に戻った。
──────────────────
■■■■■■■■■■■■■■午後1:48
■■■■■■■■■今日は遅くなりそう
午後5:23■■■■■■■■■■■■■■
くらげ■■■■■■■■■■■■■■■
パパ、気をつけてね■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■午後5:35既読3
■■■■■■■■■■■海月ありがとう
午後6:13■■■■■■■■■■■■■■
Midori ■■■■■■■■■■■■■■■
夕飯は適当に食べて■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■午後6:25既読3
■■■■■■■■■■■■■わかった
■■■■■■〇月〇日(水)■■■■■■
午後1:47■■■■■■■■■■■■■■
Midori ■■■■■■■■■■■■■■■
素敵だったわ。来週の月曜また♡ ■■■
午後1:48■■■■■■■■■■■■■■
友だちと間違えた ■■■■■■■■■■
─────────────────
家族LIMEグループの翠の書き込み。
友だちと間違えたって、買い物とランチに行ったんじゃ……。
なにが素敵だったんだ?
ご飯が美味しかった? それともいい品が買えたとか?
不審なSNSに胸の鼓動が早鐘のように打ち鳴らし、こめかみの血管がドクドクと激しく脈打っているのを感じる。
本当は気づいている。
誰かと不倫をしているのでは、と。
家族ぐるみの長い付き合い。
そんな関係を破壊するような真似をするか?
もし事実ならどうする?
家のローン、子ども達の将来、船会社の行く末、ご近所同士である両家の関係……。
リスクがありすぎる。
そんなバカな真似を翠がするとは到底思えない。
──だけど。
「LIME、間違って詩織に送ったと思ってた」
「彼女の最近の様子はどう?」
普段、妻の翠とは最低限の会話しかしない。
急に色々としゃべり出したので少し驚いた。
「最近、ちょっと幸せ太りしちゃったらしくて、ダイエットの真っ最中なんだって」
「また?」
「今度は、最近、SNSで流行ってるサプリメントとジャザサイズしてるって」
「へー」
「それで二の腕の力こぶが凄くて、LIMEで素敵って送ったの」
「うわっそんなに見てみたい」
「今度、画像もらったら見せるわね」
ふーん。そうなんだ。
これで、うまく誤魔化してるつもり?
急にこんなに饒舌になったら、自分で「黒」だと言っているようなものなんだが?
だが、今、責めてもしらばっくれて証拠隠滅するに決まっている。
確実に証拠を押さえるべく、卓檬はわざと妻を泳がせて、決定的な証拠を押さえようと心に決めた。
【ご連絡】
本作を読んでくださり、ありがとうございます。
お試し版は、いかがだったでしょうか?
同時にお試し版を他に3作品投稿しており、この中でもっとも好評を得た作品を正式に長編として書いていきたいと思いますので、本作の続きが気になる。妻、翠の不貞疑惑、そして長男射千と次男海月のその後を描いてほしいなどと思ってくださいましたら作品フォローや☆評価をお願いします。