恋 アルベルト王太子Side(1)
――俺は闇堕ちした邪悪な氷の貴公子になるところだったのか?
――洒落にならないほど高貴な身分でありながら、振られた元婚約者を執拗に追い続ける身勝手な王子だとエミリーに思われていたのか?
――エミリー・ブレンジャーは今年の2月に確かに俺をそそのかしにやってきた。
――闇に堕ち、闇の魔術に手を染めてでも、最愛の人を自分のものにしようとする最悪な男になるところだった……のか?
――あぶなっ……!
エミリー・ブレンジャー子爵令嬢は俺に近づいて、俺がディアーナを裏切るきっかけを作り、こっぴどく裏切らせた。さらに今年の2月には闇落ちを囁いた。
全貌が明らかになった今、エミリーとのことは全部俺が悪いのだが、計画のあまりの怖さにぞっとした。身震いするほど恐ろしい計画だった。
――防げたのは本当に奇跡だった……危うかった。
――いや、一度は防げずに被害は出たのだ。
――病院で車椅子に乗ったフローラに泣かれた時のことは忘れられない。
エミリーは自身の特権的な生まれを利用した。ブレンジャー子爵家は王立魔術博物館の館長の職位を代々得ている。
エミリーにもアリスにも多少なりとも魔力がある。ただ、「魔力」を買って供給を得ている俺と同じくらいの魔力を纏っているというレベルだ。しかし、立場を悪用すれば、背信行為によって多くの魔力を手にする事ができる立場にある。
今日初めて会ったアリス・ブレンジャー子爵令嬢は、姉のエミリーとはまるで違う強烈な個性の持ち主だった。
彼女は「天才」的な閃きと追求心を持っているが、何より自負心の高さが尋常ではなかった。さらに、強烈なルイ皇太子推しだった。
――あぁ、アレにはまいった……。
ディアーナは俺を振って隣国のルイ皇太子と結婚をした。ルイ皇太子はスーパースター的な人気の持ち主で、魔力界のカリスマだ。ディアーナより一つ下で、俺より若いイケメンだ。
つまり、俺の自信が無い所を絶妙に刺激する存在だ。
黒髪でブルーの瞳を持つ神秘的な美女のアリス・ブレンジャーが、ルイ皇太子を引き合いにして俺と比較するものだから、思わずムッとしてムキになってしまった。
――あぁ、大人げない……。
――だが、フローラの前ではどうしてもムキになって、自分の魅力をアピールしなければと焦るのだ!
――仕方ないだろう……?
失敗と挫折から立ち直るには、誠実でありながらフローラのように自分を飾らずに何でも心のうちを正直に話せる相手が必要だったということだろうか?
一瞬、俺の脳裏に違うだろうという冷静な声が聞こえてくる。
――単純に俺は彼女が好きなのだ。
――それもものすごく彼女が好きなのだ。
「あんたの闇堕ちを仕組んだのは私の狙いよ」
エミリー・ブレンジャーが逮捕されて連れて行かれる時に俺に囁いた声が、頭に響く。
――俺は、どうかしていた。
――世継ぎでありながら、恐ろしい計画に巻きこまれる隙をずっと見せていたのだ。
――反省しなければならない!
最後に王立魔術博物館猫を訪れた後に、馬車の中にジャックが倒れているのを見た時は肝が冷えた。
だがあの時、どこから忍び込んで来たのか分からなかったが、猫のユーリーがジャックの顔の辺りに寄り添って顔を舐めたように見えた。
ガタガタ震え上がった可哀想なシャーロットをクリスが無理矢理馬車の中に入れた時には、猫のユーリーの姿は消えていた。
しかし、目を開けたジャックが、馬車からシャーロットを連れ出す時には、確かに、一緒に猫のユーリーが馬車から降りるのが俺の目には見えたのだ。
――助かったのは、ユーリーのおかげ……?
――フローラの銃使いにも惚れ直した……。
王宮に戻ってきた俺は、膝に乗せているシャム猫のユーリーを撫でた。ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすユーリーに俺はつぶやいた。
「今日1日は大変だったな。朝から宝石商を王宮に呼び寄せて指輪を買い、父上と母上にフローラとの婚約を認めてもらい、フローラに恋人の証である指輪を渡してプロポーズをして……」
途端に気が遠くなるほど眠気が襲ってきた。
――あぁ、明日は結婚発表だった……嬉しぃっ……!
俺はベッドの上にひっくり返った。
結婚発表のことを思い出したら、眠気が吹き飛んだ。




