なぜ私が王宮に?(2)
「え?なんで?お部屋を用意してドレスもご用意してくださるなんて……」
「アルベルト様はフローラお嬢様を元気づけたいのでございます!」
シャーロットはまあるいほっぺをますますまあるくさせて、高らかに宣言するように言った。
――そんな……。
私はアルベルト王太子に心を危うく持っていかれそうになり、首を振った。
――浮気者のアルベルト様が私などに心惹かれるわけがないわ。氷の貴公子と言われるアルベルト様はいまだにブランドン公爵令嬢に夢中なのだから。
「危ない、危ない……」
「何が危ないのでしょう?」
きょとんとした表情で確認してくるシャーロットのほっぺをつつき、私は微笑んだ。
「さあ、お腹が空いたわ。支度をして朝ごはんをいただきに行きましょう。そしたら、寮に戻りましょう」
「いえ、朝ごはんが済んだら、アルベルト様がフローラお嬢様にお話があると聞いております」
シャーロットの言葉に一瞬固まった私は、小さくうなずいた。
――あぁ、きっとクリスが昨日口走った列車事故のことね……。
「それなら……私も話があるからちょうどよかったわ」
私はアルベルト王太子と話さなければならない事を思い出した。
王立魔術博物館は「魔力」供給を監督しているが、その下の組織が中規模魔術博物館、そしてさらにその下には、実際に馬車で魔力の配達を担う配達人と「魔力供給馬車」が所属する地域魔術博物館がある。
事故のあの日、ウォーターミー駅に向かう途中に見た光景を思い出した。ちょうど「魔力」の供給を行う配達人が街中に配達を行う時間で、「魔力供給馬車」が忙しく配達に奔走している様をあちこちで目にした。
――配達人が配達をしていたのは本当に「魔力」だったのだろうか。
――アルベルト様に地域魔術博物館と中規模魔術博物館の地図をもらって訪ねてみよう。
――寮に戻る前に訪ねるか、寮に戻ってから訪ねるか。
――もしかしたら、アルベルト様も一緒に行くとおっしゃるかしら?
私はそう考えた自分を恥じた。いつの間にか、アルベルト王太子と一緒に調べたいと思っている自分がいることに気づいたからだ。
――アルベルト様に心惹かれてはダメよ。
私は自分にそう言い聞かせながら、シャーロットが張り切って身支度を手伝ってくれるのに任せた。
「今日のお嬢さまは一段と素敵です!」
「シャーロット、ありがとう」
――あなたを死なせるわけにはいかないから、列車事故の原因は追及しなきゃね。
私は今日も無事にシャーロットが生きていることに感謝して、アルベルト王太子が準備してくれたドレスに袖を通して食堂に急いだ。




