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なせ私が王宮に?(1)

目を開けた私は、見慣れない贅沢な作りの寝室にいた。周りを呆然と見渡した。ヴェルヴェットのカーテンは金糸の刺繍で縁取りされており、サテンのやレースがふんだんに使用されたクッションが置かれているソファがある。


全ての調度品が贅沢極まりなかった。


――ここはどこなの?


「シャーロット?」

「はいぃ、シャーロットはここにおります。フローラお嬢様、おはようございますぅ」

 

ご機嫌なシャーロットの声が聞こえて、彼女のまん丸いほっぺが見えた。もぐもぐと何か食べているのか口を動かしている。


「ここはどこかしら?」


シャーロットは慌てて口の中のものを飲み込んで、胸元をトントン叩きながら、満面の笑顔で教えてくれた。

「ここは王宮です!アルベルト様がフローラ様をお連れして、こんな立派なお部屋をご用意してくださったのです。私にも、たくさんの果物と綺麗なお部屋をご準備くださって、シャーロットは感激なのです!」


「私が王宮に!?なぜなの?」

「フローラお嬢様をお守りしますとアルベルト様はおっしゃっていました」


――なんでそんなことに?


私はハッと思い出した。


「今日の新聞を見せてくださる?」

「ふふっふふっふふっ」


シャーロットは途端に奇妙にクネクネと体を震わして、含み笑いを始めた。嬉しくて嬉しくてたまらないといった悪戯っぽい表情だ。


「はい、お嬢様」


シャーロットは嬉しそうに私に新聞を差し出してきた。



『アルベルト王太子と新しい恋人がデート!フローラ・ガトバン伯爵令嬢は恋の達人』


新聞の派手な見出しが目に止まって、めまいがした。ヨーロッパ中で私とアルベルト王太子の噂が持ちきりになったのではないかと怖くなった。


『ミラコット競馬場では、来週のパーティシーズン開幕に向けて多くのパーティを取り仕切る女主人たちが準備に追われた。社交界のレディたちも集い、来週からの準備に余念がない。氷の貴公子とこの春の社交界デビューを控えたフローラ・ガトバン嬢がデートを楽しみ、多くの人々の注目の的となった』


記事を読んで、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。


「シャーロット、もう寮に戻るわ。アルベルト様にとって私はそんな対象ではないのよ」


――みんなを勘違いさせてしまった……。私のことをアルベルト様はそんな対象だとは思っていないのに……。


恋の達人と思われてしまっていることも、ひどく恥ずかしかった。


私とクリス・オズボーンの婚約は知れ渡っていたことだ。それなのにアルベルト王太子とデートし、さらにクリス・オズボーンと婚約破棄したと知れ渡ればそうなるのは当然だ。


オズボーン公爵家から王家に乗り換えた『恋の達人』と思われてしまっても仕方がない。


――そんなの嫌よ。でも、クリスとの騒ぎはもう知れ渡ってしまったに違いないわ。


社交界にデビューする令嬢たちにとって、社交シーズン開幕前の格好のスキャンダルの種だろう。オズボーン公爵家の醜聞は特ダネに違いない。

 


「あら?こちらの花束は?」


新聞を読んでワナワナと震えていた私は、テーブルに置かれた花かごが目に入り、シャーロットに聞いた。


「そちらはアリス・ブレンジャー子爵令嬢からのお見舞いのお花です」


シャーロットは説明した。説明しながら、シャーロットはまたイチゴを口に含んでモグモグしている。

 

私は花籠に添えられたカードを開けてみた。


『あなたなら、あなたの心のままに、あなたらしい道をきっと歩けるわ。元気を出して。アリスより』


心が温かくなり、思わず頬が緩んだ。


アリス・ブレンジャーは聖ケスナータリマーガレット第一女子学院の優等生だ。


私かアリスか。華やかな貴族令嬢たちの花嫁修行の学院だが、私とアリスは勉学に打ち込み、あらゆる科目で競い合っていた。


教養、語学、裁縫、ダンス。

多岐に渡る科目の中でトップの成績をおさめているのがアリスで、私はアリスの好敵手だった。互いに力を競い合い、高め合っていくような関係だ。そんなに仲良く話す仲ではないが、互いになくてはならない存在として認め合っていた。


――ちょっと待って?ブレンジャー?

――ミラコット競馬場前のサロンで、アルベルト様は何を説明したかしら?思い出して。


「『魔力配達人』の監督庁は、王立魔術博物館だ。ブレンジャー子爵が館長だ。ちなみに……エミリー・ブレンジャー子爵令嬢は俺のかつての浮気相手だ……」


私は身慄いした。

アリス・ブレンジャー子爵の父親は、確か魔力供給を監督する地位を得ていたはずだ。何かの噂話のついでに聞いたことがあった。


――アルベルト様のかつての浮気相手がエミリー・ブレンジャーで、アリスはその妹か何かなの!?


あの優秀なアリス・ブレンジャーの姉がそんな破廉恥なことをするとは想像もできなかった。


「お嬢様、朝ごはんの支度ができていると聞いておりますから、お支度をして食堂に行きましょう」


私が花籠に添えられていたカードを見つめてぶつぶつ言い出したのを見かねたのか、シャーロットが声をかけてきた。


「待って?このドレスはどうしたのかしら?」


私はソファの向こうにかけられた幾つもの艶やかなドレスを見て立ち止まった。


「アルベルト様からでございます!」


シャーロットは満面の笑みで胸をはって答えた。



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