修羅場(1)
ホテルでアルベルト王太子は父に「フローラ嬢の婚約者の件で至急相談したい」と告げた。そして、面食らう父を連れて聖ケスナータリマーガレット第一女子学院までやってきていた。
今、例の教会の敷地内にある塔の一室の扉の前に私はいた。先に私が様子を見てくるからと、アルベルト王太子と父を外に待たせていた。だが……。
私は一人で例の部屋の扉の前に立っていた。
裏切りの最中だった。
女性の声が聞こえてくる。
明らかに……。
男の低い声が混ざって聞こえて、私の耳に聞こえているのは裏切りの現場の声だ。
私は直前に寮の部屋に戻って、ウェブリー製のリボルバーを隠し持ってきていた。前世ではクリスの浮気現場を見たら殺されたのだ。
――用心するに越したことはないわ……。
そっとドアを開けると、隙間から2人の様子が見えて私は確信した。
クリスの鍛え上げられた腹筋が見えた。
――間違いない……クリスとソフィアだわ……。
「あの女、早く死ねばいいのにな……可愛いぃお前をずっと一緒にいたいよ……」
――あの女とは、私のことだ。
私はいたたまれない気持ちで、来たことを早くも後悔しそうになった。
ソフィアは嬉しくて嬉しくてたまらないといった歓喜の表情だ。
ソフィアは恍惚の表情を浮かべている。
――あの時と同じ。もういや。
2人も互いに夢中で私に気づかない。
――本当にあの時と同じだわ。
――前世で私があの女性とクリスが一緒にいる現場を目撃した時と同じだ。
デジャブの光景に、私の体は固まった。
足がすくんで動かない。
――なんで……体が固まって動かない。
殺された時の衝撃が蘇り、私は金縛りにあったかのように、呆然と2人を見続けるしかなかった。
私の体は目の前の光景に縛りつけられたようだ。
「……ソフィア……可愛いお前が大好きなんだ……」
2人は互いに夢中で幸せそうだ。
私は吐き気が抑えきれなくなった。
ソフィアは愛おしそうにクリスの唇に口づけをした。
「いいぞ、ソフィア。最高だよ。あの女を懲らしめるいい方法がある。お前は本当に最高だ」
上気した頬の2人はますます盛り上がっている。
私の体は相変わらず何かに縛り付けられたように、自由が効かなかった。
――いや。
――見たくないっ!
――お願いっ!
――もうやめてっ!!




