これは、デートですか?(2)
サロンの個室は贅沢な内装だった。ふかふかのソファに2人で座り込み、私たちは真剣な話を始めた。胸の高鳴りを誤魔化すために、私は持ってきた鞄から紙とペンを取り出して、可能性をメモし始めた。
手が震えていたが、もう平気だ。
「まず、『魔力』の遮断について……」
事件の原因の可能性について、私たちは議論し始めた。クリスとソフィアをとっちめるために、父である伯爵を学院に連れて行く計画を忘れてはならない。だが、621人が亡くなる列車事故を防ぐために、私たちは頭を寄せ合うようにして、まずやるべき事を話し合った。
私たちのデートみたいな逢瀬は、真剣勝負の話し合いだった。彼は包み隠せず私に話した。
「『魔力配達人』の監督庁は、王立魔術博物館だ。ブレンジャー子爵が館長だ。ちなみに……エミリー・ブレンジャー子爵令嬢は俺のかつての浮気相手だ。王立魔術博物館の切符売り場で働くテスは、王家の元メイドで、彼女も俺の浮気相手だ。この2人と浮気したことがバレてディアーナに振られた。私は2度と浮気はしない。これは神に誓う。で、魔力供給が絶たれていたとすれば、まずは王立魔術博物館を調べるべきだろう」
私は真剣に書き留めながら、アルベルト王太子に心を持って行かれてはならないと自分を戒めた。氷の貴公子は、とんでもない魅力の持ち主だが、とんでもない罪な事をしでかして振られている。振られて当然だ。
――ちなみに、ブランドン公爵令嬢とエミリーは親友だったと……。
私は包み隠さず教えてくれてありがとうと心の中で思った。
――ほら、氷の貴公子は私の手に負えるような人物ではないわ。心を持って行かれてはだめ。
「そういえば、クリスはどうなった?」
ふと、アルベルト王太子に聞かれて紙から顔を上げた私はハッとした。
「今日、父がエイトレンスにやってきているのですわ。父にクリスとソフィアが何をしているのか直に目撃させようと思っています」
「何だって!なぜ早くそれを言わないんだ。俺も手伝う。善は急げだ。行こう、フローラ」
私は急に慌て始めたアルベルト王太子に急かされてサロンを出て、王家の用意した馬車に乗った。後ろからジャックとシャーロットが別の馬車でついてきた。
「そんな絶好のチャンスのことをなぜ言わないんだ……。私も君の父上のガトバン伯爵に是非ご挨拶したい」
私は呆然としたが、アルベルト王太子の剣幕にたじろぎながらも、父が泊まるホテルの名前を告げた。
「父はベイメアホテルに宿泊しているわ」
「わかった。ザ・ベイメアまで大至急だ」
アルベルト王太子が王家の御者に告げると、王家のお仕着せを着た御者たちは急ぎ父が泊まるホテルまで馬車を走らせた。
――お父様、私がアルベルト王太子と一緒にホテルに行ったらびっくりなさらないかしら?
私はまたドキドキしてきた胸をそっと抑えて、馬車の中で深呼吸をした。
クリスの不貞の瞬間を父の目に晒すのは、とても嫌なことだったが、クリスの本性を明らかにするためには避けられないことだ。継母がクリスと繋がりがあるように思えた件が引っかかっていたが、とにかくまずはクリスと婚約破棄することに集中しようと思った。
――もし、ソフィアとクリスが服を着ていなかったらどうしよう?
前世の浮気発覚の現場を思い出して、私はハラハラする修羅場にならないかと胃がキリキリと痛んだ。




