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これは、デートですか?(1)

私の見込みは甘かったようだ。

 

「キャアッ!アルベルトさまっ!」

「アルベルト様ですわ!」

「素敵!」

「失神しそう!」

「ヤダァ、胸が痛いわ!」

 

騒ぎの声を聞きつけて、私は競馬場の向かいのサロンの窓から下を覗いた。大勢の女性陣に取り囲まれているアルベルト王太子を見つけて、絶句してしまった。


ジャックが必死で落ち着くように女性たちに言っているが、貴族令嬢たちはアルベルト王太子と一言言葉を交わしたくて必死だ。


来週からオープンする観戦に向けて、パーティの下準備にやってきた女主人たちの手伝いで、社交界のレディたちが多く集まっていた。彼女たちはアルベルト王太子を見つけると、一斉に群がってしまった。


私は手を振ったが、ジャックはそれどころではなさそうだ。

慌てた私はサロンの1階に降りて、アルベルト王太子のところまで行こうとして、レディたちに押し除けられた。


「あなた、後から割り込むなんて卑怯じゃないかしら?」

「そうよ。礼儀を守って」

「こざかしい小娘は引っ込んどきなさいっ」

「ちょっと!」

「あなたなんかアルベルト様に近づけるわけないじゃない」


「まだデビューもしていないでしょ」

「あなた誰よ」

 

邪険にレディたちに押し除けられて、私はため息をついた。これではアルベルト様に近づくことは愚か、話すこともままならない。


「あっ!君たち、ちょっといいかな?」

よく通る快活な声がして、私はハッとして顔を上げた。


アルベルト王太子が私の姿をみつけたらしく、群がるレディたちを制御し始めた。ブルーの瞳がキラキラと輝き、嬉しそうに笑っている。


「君たち、名前を一人一人言いなさい。ほら、ジャックはメモして。私の邪魔をするなら、女王と国王に報告するよ。いいね?私はガトバン伯爵令嬢との逢瀬のためにここまで来たのだ。彼女と会って2人だけで話がしたいんだ」


――えっ!この状況でそのセリフはちょっと……。大きな誤解を招きません……?

 

サッとモーゼの十戒のように海が割れるようにして、レディたちの波が割れた。その間から颯爽とアルベルト王太子がやってきた。ただ、周囲のレディたちが殺気だつ様は尋常でなかった。


――誤解ですっ!皆さんの想像とは違いますっ!

 

私は思わず否定しようとしたが、アルベルト王太子に大袈裟に抱き締められた。


うわっ!

うぐ……っ!


声にならないレディたちの悲鳴を感じて私は背筋が凍りついた。


「ごめんね。今日、私はフローラ嬢に会うためここまで来たんだ。また会おう」

アルベルト王太子は青ざめるレディたちに輝くような笑顔で告げると、私の腰にふわりと手を回して、堂々とエスコートし始めた。


「キャッ!」

「もしかして、新しい恋人?」

「婚約するのかしら?」


私は背中にレディたちの囁きと恨みがましい視線を一心に浴びながら、アルベルト王太子と一緒にサロンの中に入った。

 

「うふっ!」


ジャックは嬉しそうな表情だ。


――え?何が嬉しいんですか?すごい勘違いをさせていましたけれど……?


「いや……何でもない何でもない」


ジャックは私が睨む様子にハッとして、首をブンブン振ってみせた。


「あの……皆さんに激しい誤解を与えたような気がするのですが……」

「ん?食堂車でも話したと思うけど、君がクリスと別れたいなら一役買うよ」


アルベルト王太子にヒソヒソと囁くと、小声で耳元に囁かれた。


――キャッ!くすぐったい……。


肩をすくめる私にアルベルト王太子は満足気に喉を鳴らすようにして微笑んだ。


――なぜこんなに上機嫌なのかしら。



「可愛い反応だ」


私は、アルベルト王太子が浮気しまくってブランドン公爵令嬢に振られたという話を聞かされたことを思い出した。


――もしかして?無類の女好きなのかしら?

 

「君からの伝言が嬉しかった。俺が話したジャックの日曜日の習慣を覚えていてくれたんだね」

「えぇ。覚えていますよ。あなたは全て記憶がありますか?」

「ある。621人の事故を防ごう」

「はい。戻れて本当に良かったですわ」


病室で会った時から、アルベルト王太子は私に『俺』と言い始めた事に気づいていた。より砕けた物言いで、親近感がある。


「じゃあ、君が準備したサロンの個室で話を整理しよう。ジャックとシャーロットはここで待っていてくれるか?」

「分かりました!」


ジャックは何の話を私たちがするのかまでは分かっていないまでも、私とアルベルト王太子が向かいあってヒソヒソ話す様が、なぜか大変気に入ったようだ。満面の笑顔でうなずいた。


シャーロットは自分の名前をアルベルト王太子が知っていたことに衝撃を受けて、胸を押さえて震えていた。

「はいぃ」


蚊の鳴くような声で、息も絶え絶えな様子で囁き、私の方を見て真っ赤な顔でうなずいて見せた。


「フローラ、じゃあ、部屋に2人きりでこもろう」


私の心臓は不自然に高鳴り、ドキドキのあまりにどうかなりそうだった。


「デートみたいだな」

「デートですか……?」


――ブランドン公爵令嬢に心が持って行かれている人と、いくらデートしても何も起きないわ……。


私は必死に自分にそう言い聞かせて、顔が上気するのを押さえ込もうとした。




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