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キンモクセイ

 ふわふわとした足取りのまま、(はる)の隣を胡桃(くるみ)が歩く。その前に(しずく)(まこと)

 


 雫と誠は、小学生の頃からずっと一緒というだけあってその仲の良さを伺える。あんなに緊張をしていた雫は、うそのようだ。



「……どこにいくのか、知ってる?」

「ん〜、私も分からなくて」



 柔らかな悠の声に、胡桃の緊張感も解れていく感覚になっていた。どこに向かってるのかも聞かされないまま、雫と誠について行く。


 秋風が頬を撫で、少し肌寒くなってきた。ふわりと薫る金木犀の香りに、秋を感じさせる。



「ん〜! 金木犀の香り!」

「胡桃ちゃん、金木犀の香り好き?」

「うん! 秋がやってきた感じがする!」

 


 ふたりで、金木犀の香りをスゥッと吸い込み香りを楽しむ。どちらからともなく視線を合わせて、顔を合わせて笑った。



「ふたりとも!」

 


 明るい雫の声が聞こえてきて、軽く手招きをされる。どうやら、お店に着いたようだ。先に入ったのか、誠の姿はどこにもなかった。

 


「こっち! 先に誠が中に入ってて……」

「席をとってくれてるのね。ありがとう!」



 喫茶店の中に入ると、少し暗めのアンティーク調だ。蝋燭が3つ並んだ形のランプや、暗いトーンの椅子が並んでいる。


 どこか懐かしさを感じさせる、優しい雰囲気だ。奥のソファに座った誠をみつけた。



「いつもの場所にした!」

「ここの席が一番、落ち着く〜」


 そうやって雫は、当たり前のように目の前に座る。腰を下ろして、小さな窓から外を覗いた。

 その姿を頬杖をついて、誠が優しい眼差しで雫を見つめる。


 そんな2人のことを横目に、胡桃は雫の隣に腰を下ろした。必然的に、目の前に悠が座る。




 悠と胡桃は、視線で会話をする。このふたりのことを応援しているのは、胡桃だけじゃなさそうだ。



「……あっ! ここの固めのクラシックプリンが、とっても美味しいの。って、なになに?」

「ううん、何でもないよ! じゃあ私は、それにしようかな!」



 

 胡桃は、温かな雰囲気の雫と誠を見て思わず、笑みがこぼれていたようだ。その笑みの意味がわからない雫は、疑問のままいる。

 

 そんな雫を他所に、誠が店員を呼んだ。慣れている誠は、メニューも開かずにサクッと店員にオーダーをした。



「すごい偶然だよね! 私の幼馴染と、まさか胡桃の……」

「そ、そうだね!! 偶然、だよね!」



 『胡桃が好きな彼』なんて、危うく口を滑らせそうな雫に胡桃は言葉を重ねて遮る。


 そんな慌てた胡桃に、ハッとなり口を自分の手で押さえた。



「うん。本当、こんな偶然なんてあるんだね」

「また、時間を作ってみんなで出かけよう!」



 慌て気味の胡桃と雫に対して、ふたりは普通にしている。そこへ頼んだクラシックプリンが、テーブルに置かれた。


 艶を帯びた茶色のカラメルが、鮮やかな黄色のプリンを包んでいる。固めで、スプーンを弾き返してしまうほどの弾力感。

 グッと力を入れて、スプーンで掬う。スプーンの上のクラシックプリンを口に、運んだ。




「んっ、美味しい……」

「でしょう?」


 

 雫が、自慢げにしている。この落ち着いたアンティーク調の店内に、懐かしさを感じるクラシックプリン。


 固いはずのプリンが、胡桃の中に柔らかく溶け行くように感じた。



 ****



 楽しく会話が弾み、小窓から差し込む太陽の光がオレンジ色になった。

 夕暮れ時の、重たい空気感が空を包んでいる。



「……じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 


 悠の優しい声で、この場に区切りをつけた。楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまう。

 


「また、学校でね!」

「うん! 気をつけてね!」

「雫もね!」



 胡桃と悠、雫と誠。お互いに手を振って、分かれていく。胡桃と悠の肩が触れそうなその距離に、消えかけた緊張が舞い戻る。


 2人の静かな空間に、帰路を急ぐ周りの声だけが聞こえてくる。そんな沈黙を悠が、破った。



「……あのさ」

「うん? なぁに?」


 


 

 

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