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まさかの?(アンソロの続きが含まれます!)


 『8時10分』 いつもの電車に乗る。いつもの席に座って、彼がくる場所を眺める。


 

 その先にいる彼を探し出す。絡む視線に、胡桃はもう逸らさない。胡桃を見つけた(はる)が、微笑み手を上げた。胡桃は小さく手を振り返して、腰を上げて悠のそばに立つ。


 

「おはようございます」

「おはよう。昨日は、名前を聞きそびれちゃって」

「名乗りもせずに、すみません。河合 胡桃(かわい くるみ)です」


 

 硬めの返事をした胡桃に対して、悠くんはくすくすと笑い出した。キラキラとした、煌めきを感じさせる。

 


「敬語は、辞めてよ。胡桃ちゃん」


 

 ふわふわと地面が歪むような、そんな気分になる。肺に収まらない吸った息が、お腹にも入り込んでいく。早くなった鼓動を抑えるように、ぎゅっと力を込めた。


 

「は、はいっ」

「ほら、また敬語」

「う、うん。悠くん」

「なぁに?」

「また、明日も会える?」

「もちろん!」


 

 サッと出されたスマホに、連絡先のQRコードが映し出されている。


 

「連絡先を、教えてくれる?」

「……っ! うん!」


 

 胡桃は、差し出されたQRコードを読み込む。自分のスマホの画面の中に、悠くんの名前が浮かび上がる。


 

「じゃあ、また明日ね!」


 


 嬉しくて、私は自分のスマホを胸に抱きしめた。ほわほわとした気持ちのまま、手を振り返した。『また、会える』 それだけで胸が踊る。



 


 電車の揺れが、高鳴る胸と同期する。まばゆい太陽の光を胡桃のまつ毛が、跳ね返す。吸いこむ空気でさえ、晴々とした綺麗なものに感じる。


 今日は、午前中の授業はない。その代わりに、昨日の残りの片付けをする。


「胡桃、おっはよ〜!」

「雫! おはよ!」

 


 朝から元気な胡桃を見て、雫は少し疑問を抱いた表情をした。しかし察しのいい雫は、顔を綻ばせて笑う。


「なるほど!」

「えっ? 私まだ何も言ってない……それに、だんだんと怖い笑顔になるのやめて……」


 

 にっこりと微笑む笑みは、徐々に意味ありげな笑みに変化していった。もはやその笑みを見れば、雫の頭の中が見えてきそうだ。



「電車の彼と、何があったの?」


 

 ずいっと顔を近づけて、雫はワクワクさせている。人の話は、根掘り葉掘りと聞いてくる雫。そのくせに自分の話は、なかなか聞いても教えてくれない。



「雫の話、教えてくれないのに?」

「私の話はあとでね!」



 今回も胡桃のことを聞きだけ聞いて、教えてくれないパターンだろう。少し胡桃は、頬を膨らませて怒った表情を見せた。雫は、相変わらずのニコニコと笑ったままだ。

 そして、胡桃の頬を親指と人差し指でプスっと頬に溜まった空気を抜かれてしまった。




「それで?」



 言葉の圧をかけられる。手をぱっと離されて、その仕草からも言わないと解放してもらえなさそうだ。何より隠していることでもないし、話すつもりでいた。



「連絡先ゲット!」



 胡桃は満面の笑みで、スマホの画面を雫に見せる。先ほど、交換したばかりの彼の名前が映し出されている画面だ。画面に鼻がくっつくほど、雫は顔を近づけた。

 そんなに近づけたら、画面なんて見えないのでは? と思ってしまう距離だ。画面を少し離しながら、隠れた雫の顔を伺う。



「おおっ! ついにだね!」



 ぱっと雫の顔に花が咲いて、胡桃よりも喜んでくれている。それが素直に嬉しい。




「ありがとう! 次、雫の話ね!」

「う〜ん。私が好きなのって、知っての通り幼馴染なんだよね。ここまでくると、発展しないでしょ?」




 雫は、腕を組んで難しい表情をして考えている。答えのでない答えを探しているようだ。少し暗くなった雫の顔を、胡桃は吹き飛ばそうとした。




「文化祭に来てたんだよね? しかも……」

「そうだよ! まさかの胡桃の電車の彼といた人が! だよ。こんなミラクルある?」

「気づいてたなら、一緒にまわれば良かったのに……」



 いつもは、グイグイと引っ張っていく雫が眉を寄せて嫌そうな顔をする。そして、胡桃からそっと離れて行こうとした。そんな雫の腕を胡桃は、パッと掴む。胡桃の視線に、観念したのか重たい口を開いた。




「……気づいたのだって、帰る時にだもん」

「嘘だって知ってるんだから!」



 

 胡桃は腕を掴んでた手を、雫の肩に置いて揺すぶる。ぐわんぐわんと雫の顔が、揺れ動く。

 


「ちょっと、やめて欲しいかなぁ……」

 

 

 雫の声が漏れた。胡桃は、揺すった動きを止めてじっと目で話すように促す。じっと見つめる胡桃の視線から雫は、顔を泳がせて逃げた。



「ん〜、気がついては……いたよ。でもぉ……」

「でもじゃないよっ!」

 


 しかも、一緒にいた彼が雫の好きな人だということは帰宅直前に聞かされたのだ。文化祭で使っていた教室を元通りにしている最中で、危うく手に持った椅子を落としそうになった。

 さらには、その時にも今と同じような言い訳をしている。


 

「もうここまで来たら……ずっと同じかなって……」

「また、おんなじ事言ってる!」

 


 胡桃は、眉を跳ねて雫に抗議をする。雫は、胡桃に対しては行け行けと背中を押してくるのに自分のことは奥手だ。胡桃としては、仲の良い雫にも幸せになってほしい。

 雫は、プイッと外した視線を戻して顔を胡桃に近づけていく。


「確かに、胡桃のことを考えたら……」

「私のことよりも、自分のこと! 幼馴染だったとしても、わざわざここまで来ないでしょ?」



 雫は、唇を尖らせて眉を寄せた。その表情は、なんとも言えない顔をしている。まだ、ブスブスと文句の声が聞こえてきそうだ。

 しかし胡桃の強めの声に、雫は顔だけで文句を伝えてきた。



 「わかったよう」


 

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