女勇者と魔法使い
いつもは人の気配をすぐに察知するのだが、そこまで気が回らなかったので突然声かけられて驚く。
だが…振り向かない。
泣き顔を見られたくなかった。
声の主は知っていた長い間一緒に旅をした仲間。
同じパーティの魔法使いのイツキだったから…
振り向かず、声が涙声にならないよう気をつけて話す。
「…イツキか、なにか用か?」
「…」
イツキは何も言わない。
ただヒヨリの後ろ姿をじっと見ているのを感じた。
「…用がないなら去ってくれ、人混みに酔って休憩してた…だから1人にさせろ」
そのまま去ってほしいという気持ちを込めてあっちへ行けと手を振った。
「っつ!!」
だがイツキは去らず、振った手をいきなり掴んできたかと思うと無理やり体を回転させられ真正面からイツキの顔をみる位置にされる。
いつもは無駄にヘラヘラしていて、ひょうひょうとしているイツキだが、真剣な目つきをして何も言わない。
ヒヨリは掴まれてない手であわてて涙を拭う。
「こっこれはほこりがだな…人が多いと目にほこりが入ってその、痛く」「ハナとユウマ幸せそうだったな」
その言葉にヒヨリは言葉を失った。
そんなヒヨリの様子をじっと見つめて
「ヒヨリ、僕は知ってるよ、ハナのこと好きだったのだろう」
とイツキは言った。
「違う」
咄嗟に否定を口にする。
「うそだ」
イツキはじっとヒヨリの目を見ていう
「違う」
首を振った
「ヒヨリ」
イツキがまた静かにヒヨリを呼ぶ
「違う、違う違う!」
涙声になり否定をする
「ヒヨリ!」
イツキは声を荒げた
「なんなんだよ!私のことなんてほっておいてくれよ!イツキには関係ないだろう!」
ヒヨリは怒鳴り返す
「もうこのパーティはこの夜を持って解散だ!今日をもってただの赤の他人だ!」
泣いたばかりでカッコつかないがイツキを睨み掴んでいる手を振り払う
「もう宿に戻る!じゃあな!」
そう言って走ってその場を去った。
パーティ用の服や髪を解きベットに入り込むが眠れない、
今後のことを考えると苦しかった。
いっそ…
ヒヨリは決意をして
ベットからでてカバンからペンと紙を取り出した。
早朝、
昨日は一睡もできなかった
ハナはだいぶ遅い時間にヒヨリと泊まっている宿に帰ってきていた
「ヒヨリ?」
ハナは小声でヒヨリを呼んだ
だが寝たフリをつづける
「…寝てるかやっぱり」
そうハナは呟くと寝る準備のため動く気配がした
朝日も昇らない時間
ヒヨリは昨日書いたメモをハナの枕元に置くと荷物を持って外にでた
【私はまだ旅がしたいからこの町を去るよ心配しないで、ユウマと幸せに】
宿屋を出て城下町から外に出るたった一つの門に向かった
町は昨日の魔王討伐を祝うパーティーとは裏腹に静かでヒヨリの足音だけが響く
ハナに最後に話をするべきだとは思う
だけど、今話せばヒヨリは冷静ではいられずハナを傷つけることを言ってしまいそうで怖かった。
だから何も言わずに町から去ることにしたのだ。
やりたいことはあった。
魔王を討伐したあとのことはずっと前に決めていた。
本当は一人ではなくハナと相談して一緒にやるつもりではあったのだがそれは叶わない。
ハナが隣にいないことなんて物心ついてから一度も無かった。
だから違和感や不安感が押し寄せてくる
それに気がつかないふりをして歩いた。
門につくとヒヨリは足を止めた。
門に…イツキの姿があったのだ。
「おはよー」
イツキはいつものようにヘラヘラと笑ってそう言った。
昨日のことなんてなかったように…
ヒヨリはそんなイツキを睨みつけその前を通り過ぎる
「無視かよ」
そんなヒヨリの後をイツキが荷物をかかえてついてくる。
町から出てもイツキはついてくる。
どうやらヒヨリとともに旅に出ようということらしい
「…はぁ、ついてくるな」
ため息を一つついてイツキを睨みつける
「やだね」
長い足はヒヨリが早歩きをしても余裕で追いつく
「ユウマほっといていいのか?」
いつもひょうひょうとしてはいるがイツキは面倒見がいい、特に長い間一緒にパートナーとして旅していたユウマのことを弟のように思っていることは旅を一緒にしていて知っている。
無茶したり、頑固で曲げないユウマのフォローにまわって緩和剤として立ち回っていた。
だからユウマをほっとかないのではと思いそういうが
「良いんじゃない?」
軽く流される
思っていた反応ではなかったためどう返せばいいのか悩んだ結果
「…知らない、勝手にすれば」
そう一言だけ告げる。
「勝手にするさ」
イツキはいつものヘラヘラとした顔でそう言った。