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拝啓、高木様  作者: dede
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彼の残り香


歳を取ると眠りが浅くていけない。おかげでこんな薄暗い早朝に目が覚めて屋敷をウロウロする羽目になっている。

「おはようございます、ビィ様。お早いんですね」

「おはようございます、目が覚めちゃって」

「きっと初日で緊張されてたんですね」

とはいえ、こんな時間でも使用人の皆さんは忙しく動き回っており活気があった。

「折角なので朝食まで少し屋敷内を探索しようと思ってるんですが、入っちゃいけない場所などありますか?」

「そーですねー、プライベートルームや浴室等でなければ、これといってありませんよ」

「わかりました。ありがとうございます。あ、私には様はいりませんよ。平民ですから」

「そうですか?わかりました。それではいってらっしゃいませ、ビィさん」

私は使用人のお姉さんと別れて庭の方に出た。


「んー、この辺じゃないのかなぁー」

無目的で歩くのもつまらなかったので、昨日の夜に嗅いだ気がした花を探していた。

たぶん嗅ぎなれた私の好きな花だったはず。しかし、鼻をひくつかせながら歩いてみたものの、なかなか見つけられないでいた。

気が付けば裏庭の方に来ていた。

「ん?誰かいる?」

建物の陰から聞こえてくる、何かの風切り音と息遣い。

角を曲がると、そこには熱心に剣を振り続けているノート君がいた。

「おはようございます。お早いですね」

声を掛けるとノート君もこちらに気が付いて手を止めた。

「え!?お、おはようございます。僕のは日課ですから。ビィさんこそ、お早いですね」

やれやれ、歳がどうとか関係なくこの家の朝は早いらしい。

「私はつい目が覚めちゃって。散歩がてら屋敷を探索してたんです」

「そうでしたか。でしたら、その、ご案内しましょうか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。知らない方が楽しいですし。それに探し物は見つかりました」

「探し物?」

「あれです」

私は庭の片隅に植えられた背の低い木を指差すとノート君を連れ立って、木のそばまで近寄る。

木はオレンジ色の小粒の花をつけており、辺りには濃厚な匂いが溢れていた。

「むせ返るほど濃厚な匂いですね」

「でも、良い匂いではありませんか?」

「はい」

しばらく私たちは無言で匂いを楽しんでいた。

「ノートさんは、いつもあの場所で剣を振られていたのですよね。今年からですか?」

「いいえ、3年前ほどから……どうしてですか?」

「いえ、初めてこの木に気が付いたようでしたから」

「……はい、気が付いてませんでした」

「そうでしたか。いえ、3年間強くなろうと無心に剣を振り続けた事も立派だと思います。でも、多少は花などにも関心を持たれた方が女性にモテますよ?」

「も……モテ、ですか?」

「はい」

「その、……ビィさんも、そうなのでしょうか?」

「え?私ですか?まあ、そうですね。興味ないよりはあった方が話しやすいですね」

「なるほど。勉強になります。……ところで、その横に植えてある木はなんですか?同じような花ですが、こちらは白いですよね?」

お、早速実践してえらいえらい。勤勉さはモテの大事な要素だよ。

「こちらは近い品種の花ですね。香りも少し弱いです」

「……地味ですね?」

「そうですね。でも主張がない分趣きがあります。これはこれで味、なのですよ。こちらを好む方もまたいらっしゃいます」

「そうなのですね。勉強になります」

「でも不思議ですね。あまりこの地域では植えてないようですが。人目を避けるようにココにだけ植えてるんですね。他で見覚えは……ないですよね」

「面目ないです」

ノート君はばつが悪そうだった。


その後しばらくウロウロして自室に戻った後、朝食の準備が整ったと連絡がきたので食堂に集まっていた。

「昨日はよく眠れたかね?」

「ええ、ゆっくり休ませて頂きました」

「そうか。今日の予定は?」

「冒険者ギルドで依頼を受けて、その後はティーリスさんに少し楽器を教えて貰おうかと」

「そうか。……いや、本当はだな、ノートと一緒に学園に通って貰おうかと考えていたのだ。ただ、1ヵ月はさすがに短すぎるからなぁ……」

ハァとため息をついていたが、私はそれを聞いて安堵していた。いやいや、行きたくないから。期間短くしてもらってよかった。

「あ、そうでした。楽器の練習がしたいのですが、この辺りで楽器を鳴らしても大丈夫な場所はありますか?」

「ああ、それなら養父が演奏するのに使っていた部屋がある。君もそこを使うといい。屋外であれば裏庭であれば多少うるさくても構わない。場所は、ノートに聞いてくれ」

「あ、それで父上。お尋ねしたい事が」

「ん?なんだ、ノート」

「その裏庭に植えてある木の事です。あそこのオレンジ色と白い花の木は誰が植えたのですか?」

「む、そんな木があったかな」「あるわよ」「あるよ」

当主は知らないようだったが、間髪入れずに奥様と妹さんが否定した。

その様子を見て、ノート君は気まずい気持ちを誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

奥様は、これだから男の人はと少々苦言を漏らしながら説明してくれた。

「あれは確か、義父様が植えたものよ」

「祖父様が?」

「ええ、以前話していたわ。白い花の方は義父様が好きだったから植えたそうよ」

へぇ、ケインが好きな花だったのか。知らなかった。

「ではオレンジの方は?」

「義父様の大切にしていた方が好きだったらしいわ」

「……そうだったのですね」

ケインの大切な人……か。そんな人がいた事も知らなかった。案外私はケインの事を何も分かっていなかったのかもなぁ。

「でも急にどうしたの?あなたもヘノジと一緒で、あそこの木の事なんて気にも掛けてなかったでしょうに?」

「そ、そうでしたけども。今日気が付いたので急に気になったんです!」

「そうなの~?」

ニマニマした奥さんがチラリと私を見た後、少し挙動不審なノート君をいじって楽しんでいる。

この年頃の息子とか、可愛くて遊びたくなる気持ちは分からなくはないが、あまりやり過ぎると本気で嫌われるので程々に。

まあ、思春期なんだ、モテるための行動はどんなバカげたことだって自然な事さ。どうかいい方に導いてあげてください。

「マーサは知ってたよー?」

「そうねー、マーサは物知りで偉いわね」

と、そんな家族の団らんの会話を私とご当主は蚊帳の外になって聞いていた。

「大変ですね?」「いや、今回は知らなかった私が悪かったから……」

ただ、蚊帳の外では外で、ちょっとした結束が生まれようとしていた。

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