いくつかのマスクデータの開示
「ドンマイ、ビィちゃん」
「ありがとうございます……ティーリス様も、ナマ言ってすいませんでした」
「今回は構わんが次からは気を付けろよ?」
「ダメよティーリス、ビィちゃんをイジメちゃ?」
「たまには俺もこいつに偉ぶりたいんだよ!」
え、そうだったの?いっつも迷惑掛けてる自覚はあるから頭が上がらないという気持ちがあったのはコチラの方だったんだが。説教っていうか、苦言っていうか。前から言われ続けてるから年下って感覚もまるでないぐらいには調教されちゃってるぜ?
ギルドを出た後、これまでの経緯をティーリスの奥さんに説明するためにティーリス邸に戻ってきた。
ギルドのやり取りについては微笑ましい表情で聞いていたが、もうしばらくこの街に残る事には大層喜んでくれた。
「もぉ、あなたはそんな事言って……でも嬉しいわ、まだココに居るのね。たまにとは言わず顔を見せに来てね」
「わかりました。どのみちティーリスさんにも色々教えて貰いたい事がありますし、ちょくちょく来ますよ」
「ん?俺にか?」
「折角長居するんだしドラム教えてよ」
「!……俺のか?」
「私の知る限り最高のドラマーだからね」
私はそっぽを向いて頭を掻く。
「……そこまで言われたら断れないな」
「ティーリス、耳まで赤くしてたら締まらないわよ?良かったじゃない、良い弟子ができて」
「……え、こいつ弟子なの?」「私が弟子かぁ……」
初めてのドラムセットを買うお金、半分カンパしたの私なんだけどな。始めの始めだけど、教えてたのは逆に私なんだけどなぁ。
……まあ、いっか。今じゃ明らかな実力差があるし。悔しいなと思う反面、悪くないと思う私がいる。ムズがゆいけど。
「よろしくね、ティーリスさん?」
「お手柔らかにな、ビィ?」
「あーあ、でも悔しいな。ヘノジにビィちゃん取られちゃった」
「ヘノジ?」
「ケインの倅だ」
「知り合いなの?」
「ええ、ヘノジとはイカリス学園で先輩後輩だったの」
「元々パピニとはヘノジ経由で知り合ったのさ」
「へぇ。……パピニ?」
ティーリスの奥さんが右手を高く上げた。
「私よ」
私は少し気まずくなって話をずらす。
「へ、へぇ、しかしイカリス学園かぁ。ティスクさんと同じ名前の学園なんですね、面白い偶然ですね?」
「創設者がティスクだからな。普通だろう?」
「え、そうなの?」
「お前、ちっとは周囲に興味持てよ!?」
「ちょっとティーリス、怒り過ぎよ。ビィちゃんはこの街初めてなんだから、私の名前とか学園の事とか知らなくて当然でしょ?」
奥さんに咎められてティーリスは少し私を睨みつけてきたけど、そういう設定だったのでそれ以上は何も言わなかった。
「あ、そうだ。折角だし、ビィちゃんも通ってみる?途中入学とか、そんな珍しくもないわよ?」
「え、学園ですか?いやいや、そんなお金ないですよ」
「お金ぐらいウチで出すわよ。ね、ティーリス?」
「あ、ああ。それぐらいは別に構わないが……なあ?」
いやいやティーリス。そんな顔しなくても分かるよ。私も今更思春期真っただ中の子供たちと同じ部屋に放り込まれてもなぁ!
「嬉しい申し出ですが、謹んでお断りします。……それよりも冒険者としての修練を積みたいですから」
「……そっか。残念。きっと楽しいと思うんだけどな。ほら、ヘノジのところのノート君も通ってるのよ?」
「生憎ですがやはり興味がありません」
「そっか。……そっか、残念♪あ、お昼は食べていってね。今から作るから」
そう言ってティーリスの奥さんはニコニコして台所に向かっていった。
「……いいの?お昼ご一緒しちゃって?」
「食べさせたいっていうんだ、別にいいだろ?それより、できるまでまだ時間がある。早速叩くか?」
「お、いいの?じゃあ、お願い♪」
「お、おう」
防音室までの短い廊下を、少々浮足立っているティーリスと、ご機嫌な私がしばらく並んで歩いて行った。せめて少しでもティーリスの持っている技術を私が身に付けられますように。




